ファクタリングを利用したとき、「手数料は売上債権売却損か支払手数料か」「保証料はどの勘定科目か」「消費税区分は課税か非課税か」などで迷うケースは多いです。本記事では、買取型・保証型別の仕訳例10パターンと、会計ソフトでの科目選択、IFRSで借入扱いとなる場合の注意点までを整理し、中小企業でも迷わず処理できる実務ポイントを解説します。
手数料と勘定科目の基本
ファクタリングを会計処理するときにまず押さえたいのが、「どの費用をどの勘定科目に集約するか」という全体像です。
買取型ファクタリングでは、売掛金などの売上債権を額面より低い金額で売却するため、その差額は「債権を売却したことによる損失」として処理するのが一般的です。
この損失をまとめるために用いられるのが「売上債権売却損」という勘定科目であり、多くの実務解説や会計ソフトでも、買取型ファクタリング手数料の代表的な科目として位置付けられています。
一方、保証型ファクタリング(売掛金保証サービス)の場合は、売掛金そのものは譲渡せず、貸倒れが発生したときに保証金の支払いを受けるスキームです。
このときに支払う保証料・サービス料は、一般に「支払手数料」や「保証料」「保険料」といった勘定科目で処理することが多く、買取型とは性質が異なります。
消費税の観点では、金銭債権の譲渡や割引は、消費税法上「有価証券等の譲渡」として非課税取引に分類されるのが原則です。
そのため、売掛金をファクタリングで売却して発生する売上債権売却損や、その差額に相当する手数料は、課税仕入としてではなく非課税取引として区分されます。
こうした前提を踏まえて整理すると、ファクタリング関連でよく登場する勘定科目は次のように整理できます。
| 勘定科目 | 主な役割・使い方 |
|---|---|
| 売上債権売却損 | 買取型ファクタリングで、売掛金を額面より低い価額で売却した差額(手数料)をまとめる費用科目。 |
| 支払手数料 | 保証型ファクタリングの保証料など、サービス提供に対する対価として支払う費用を処理する際に使用。 |
| 保証料・保険料 | 信用保証や保険商品の一部として位置付けられる保証型サービスを利用した場合の費用処理に用いられることがある。 |
| 雑損失 | 会計ソフトに「売上債権売却損」がない場合の代替科目として、内容が軽微・例外的な損失をまとめる用途で用いられることがある。 |
ファクタリング手数料の位置付けと性質
ファクタリング手数料の性質を整理すると、買取型と保証型で考え方が分かれます。買取型ファクタリングでは、利用者(債権を譲渡する側)は、売掛金などの金銭債権を額面より低い金額で売却します。
このときの差額は、経済的には「売掛債権を値引きして売却した損失」であり、利息や金利ではなく「売却損」と位置付けられます。そのため、会計実務では「売上債権売却損」として処理するのが一般的とされています。
保証型ファクタリングでは、売掛金自体は自社に残り、貸倒れが発生した場合に一定額を補償してもらう仕組みです。
この場合、支払う保証料・サービス料は、金融機関の信用保証料や取引信用保険の保険料と性質が近く、継続的な役務提供に対する対価として「支払手数料」や「保証料」「保険料」などの費用科目で処理することが多くなります。
どちらのケースでも共通するのは、「ファクタリング手数料は資金調達コストであり、売上原価ではなく販管費または営業外費用として扱われる」という点です。
決算書の見せ方としては、売上債権売却損を営業外費用に区分するか、販売費及び一般管理費の中に含めるかは、会社の表示方針により異なりますが、同一会社の中では同種取引について区分を統一しておくことが望ましいとされています。
- 買取型の手数料は、売掛債権をディスカウントして売却した「売却損」に該当します。
- 保証型の手数料は、信用保証や保険サービスに対する「役務の対価」として扱われます。
- いずれも資金調達コストであり、売上原価ではなく費用(販管費または営業外費用)として区分するのが一般的です。
売上債権売却損と支払手数料の違い
「売上債権売却損」と「支払手数料」は、どちらも費用科目ですが、対象とする取引の性質が異なります。
売上債権売却損は、その名のとおり売掛金や受取手形などの売上債権を売却した際、帳簿価額より低い価額で譲渡したことによる損失を処理するための科目です。
買取型ファクタリングでは、売掛金をファクタリング会社に譲渡し、差額が発生するため、この差額を売上債権売却損として計上する方法が、各種実務解説でも紹介されています。
支払手数料は、金融機関手数料や各種サービスに対する対価など、広く「役務提供の対価」として支払う費用をまとめるための科目です。
保証型ファクタリングにおいて、売掛金の保証サービスに対して支払う保証料を支払手数料として処理する例が多く、ファクタリング以外でも、決済手数料や振込手数料などと同じグループに含まれることが一般的です。
実務上は、会計ソフトに「売上債権売却損」という勘定科目が用意されていない場合に、買取型ファクタリングの手数料を支払手数料や雑損失で代替しているケースもあります。
この場合でも、注記や補助科目、摘要欄で「ファクタリング手数料」であることを明確にしておけば、決算書の読み手が内容を把握しやすくなります。
ただし、買取型と保証型を混在させてしまうと、後から費用の内訳を分析しにくくなるため、可能であれば「売上債権売却損(買取型)」「支払手数料/保証料(保証型)」というように、性質ごとに科目を分けておくと管理がしやすくなります。
- 買取型ファクタリングの差額:原則「売上債権売却損」。科目がなければ支払手数料や雑損失で代替する場合もあります。
- 保証型ファクタリングの保証料:原則「支払手数料」や「保証料」「保険料」として処理します。
- 同じ会社の中では、買取型と保証型で勘定科目を分け、補助科目や摘要でファクタリング関連であることを明示します。
非課税取引と消費税の扱い方実務
ファクタリング手数料の消費税区分は、取引の性質を正しく理解しておく必要があります。
日本の消費税法では、国税庁の「非課税となる取引」に関する解説の中で、有価証券等の譲渡の一例として「金銭債権の譲渡」が非課税取引に含まれるとされています。
売掛金などの売上債権は金銭債権に該当するため、その譲渡自体は消費税の課税対象外です。
加えて、「金銭債権の買取り等に対する課税関係」に関する質疑応答事例では、金銭債権の買取りの際に債権者から徴収する割引料や保証料、手数料は、名目にかかわらず金銭債権の譲渡等に付随する対価として非課税と扱う旨が示されています。
このため、買取型ファクタリングにおける売上債権売却損や、それに相当する手数料は、利用者側では原則として「非課税仕入」または「対象外」区分で処理するのが一般的です。
ただし、保証型ファクタリングで支払う保証料については、内容によって取扱いが分かれます。
融資の信用保証料など、金融・保険に該当する役務については非課税取引とされる一方、賃貸保証など事業用の役務提供に係る保証料は課税仕入に該当する、といった整理が行われています。
保証型ファクタリングの商品設計によっては、保証部分とその他サービス部分が混在しているケースもあり、契約や請求書の内訳に基づいて区分する必要があります。
- 売掛金など金銭債権の譲渡と、その割引料・手数料は、原則として消費税の非課税取引に該当します。
- 保証型ファクタリングの保証料は、金融・保険に該当する部分は非課税、それ以外の役務提供部分は課税となる可能性があります。
- 会計ソフトでは「非課税」「対象外」などの区分を事前に設定し、契約書・請求書の内訳に沿って区分することが重要です。
買取型ファクタリング手数料処理
買取型ファクタリングは、売掛金などの売上債権をファクタリング会社に譲渡し、その代わりに割り引かれた金額を受け取る取引です。
会計上は「売掛金をいくらで売却したか」と「売却に伴う損失(手数料)をいくら計上するか」がポイントになります。
実務では、対象売掛金をいったん「未収入金」に振り替え、その後、入金時に「現金預金」と「売上債権売却損」で未収入金を消し込む処理が一般的です。
こうすることで、どの売掛債権をいくらで売却し、その結果としていくらの損失が発生したかが貸借対照表・損益計算書の両面で明確になります。
また、2社間ファクタリングでは、売掛先からの入金が一度利用者に入ってからファクタリング会社へ支払われるため、「預り金」を使った仕訳が別途発生します。
一方、3社間ファクタリングでは、売掛先からファクタリング会社へ直接支払われるため、利用者側では売上債権売却損までの処理で完結するのが一般的です。
買取型の手数料は、消費税法上、金銭債権の譲渡に付随する非課税取引と整理されているため、消費税区分も「非課税」または「対象外」で設定するのが実務上の基本となります。
| 場面 | 主な勘定科目と考え方 |
|---|---|
| 契約・譲渡時 | 売掛金をファクタリング会社への債権として「未収入金」に振り替える(未収入金/売掛金)。 |
| 入金時 | 受け取った金額を「現金預金」、差額を「売上債権売却損」として未収入金を消し込む。 |
| 2社間の期日回収 | 売掛先からの入金は「預り金」で受け、ファクタリング会社への送金時に「預り金」を取り崩す。 |
売上債権売却損での処理方法
買取型ファクタリングの基本となるのが、「売上債権売却損」を使った処理です。
売上債権売却損は、売掛金や受取手形などの売上債権を帳簿価額より低い価額で譲渡した場合の差額をまとめる費用科目であり、ファクタリングに伴うディスカウント部分を集約するのに適した勘定です。
具体例として、請求書額面300万円の売掛金を、手数料6%(買取率94%)で買取型ファクタリングしたケースを考えます。
契約時点で、対象売掛金をファクタリング会社への債権として振り替えるため、「未収入金300万円/売掛金300万円」と仕訳します。
数日後、ファクタリング会社から282万円(300万円−手数料18万円)が入金されたら、「現金預金282万円・売上債権売却損18万円/未収入金300万円」と計上します。
この売上債権売却損18万円が、ファクタリング手数料に相当する部分です。
売上債権売却損を使うメリットは、「売掛金をいくら値引きして売ったのか」がはっきりする点にあります。
支払手数料や雑損失などに混在させてしまうと、ファクタリングとそれ以外の費用が区別しづらくなり、資金調達コストの分析が難しくなります。
特に、複数社のファクタリング会社を利用している場合や、金額規模が大きくなってきた場合には、売上債権売却損で一括管理しておくと、決算時に「売掛債権をどの程度ディスカウントしているか」を把握しやすくなります。
- 買取型ファクタリングの差額は「売上債権売却損」で処理するのが基本です。
- 契約時に「未収入金/売掛金」、入金時に「現金預金・売上債権売却損/未収入金」と二段階で処理します。
- ファクタリング以外の支払手数料と区別することで、資金調達コストを分析しやすくなります。
会計ソフトに科目がない場合対応
市販の会計ソフトやクラウド会計では、「売上債権売却損」という勘定科目が初期設定にないケースも少なくありません。
その場合、利用者は「どの科目を選べばよいか」で迷いがちですが、ポイントは「費用の性質」と「決算書上の表示区分」を意識して、近い科目で代替することです。
代表的な代替案としては、「支払手数料」「債権売却損」「雑損失」などが挙げられます。
ファクタリングを頻繁に利用し、金額も一定規模になる場合は、勘定科目の追加機能を使って「売上債権売却損」を新規登録し、既存の費用区分(販売費及び一般管理費や営業外費用)の下に配置するのが望ましい対応です。
一方、利用がスポット的であり、金額もそれほど大きくない場合には、「支払手数料」内で補助科目「ファクタリング手数料」を作成し、摘要欄に取引先や対象売掛先を記録する方法も実務上よく用いられます。
いずれにしても、「ファクタリング手数料がどの科目にどれだけ計上されているか」を後から追えるようにしておくことが重要です。
会計ソフトの科目体系に合わせて、経理担当者・税理士との間で「買取型はこの科目、保証型はこの科目」とルールを決め、マニュアルや仕訳辞書に残しておくと、担当者が変わっても処理がぶれにくくなります。
- 頻繁に使う場合は、新たに「売上債権売却損」科目を追加することを検討します。
- スポット利用なら、「支払手数料」の補助科目として「ファクタリング手数料」を作成する方法もあります。
- どの科目を使うかは社内・税理士と統一ルールを作り、会計ソフト上で設定しておくと運用が安定します。
複数費用をまとめる仕訳例
買取型ファクタリングでは、基本手数料以外にも「事務手数料」「登記費用」「振込手数料」など、複数の費用が同時に発生することがあります。
これらを個別の仕訳に分けてもよいのですが、実務では「ファクタリング取引に付随するコスト」として一定のルールでまとめて処理するケースも多く見られます。
ポイントは、「売掛債権の売却に直接関連するコスト」と「銀行振込など一般的な決済コスト」を分けて考えることです。
例えば、請求書額面300万円のファクタリングで、基本手数料18万円に加えて、登記費用2万円、事務手数料1万円が発生し、銀行振込手数料が550円かかったケースを想定します。
このうち、基本手数料・登記費用・事務手数料の合計21万円は、「売掛債権売却損」としてまとめて処理し、振込手数料550円は他の振込と同様に「支払手数料」として処理する、といった整理が考えられます。
仕訳としては、入金時に「現金預金279万450円・売上債権売却損21万円・支払手数料550円/未収入金300万円」といった形がイメージしやすいパターンです。
このように、「ファクタリング条件そのものに紐づくコスト」と「銀行取引に伴う一般的な手数料」を分けておけば、売上債権売却損の金額を見れば、ファクタリングによる実質的なディスカウント額が分かり、資金調達コストの分析や、他社サービスとの比較に役立ちます。
逆に、すべてを支払手数料に含めてしまうと、銀行振込手数料などと混在してしまい、金額の内訳が見えにくくなるため注意が必要です。
- 基本手数料・登記費用・事務手数料など、売掛債権の売却に直結する費用は「売上債権売却損」にまとめる方法が分かりやすいです。
- 銀行振込手数料など一般的な決済コストは、従来どおり「支払手数料」で処理すると比較がしやすくなります。
- 請求書や請求明細の内訳に沿って、どの費用をどの科目に含めるかルール化しておくことが、継続的な運用のカギです。
保証型ファクタリング会計処理
保証型ファクタリング(売掛金保証)は、売掛金そのものは自社に残したまま、取引先の倒産や長期延滞が発生した場合に、一定割合を保証会社(ファクタリング会社等)が補填してくれるスキームです。
買取型と異なり、売掛金は貸借対照表上に残り続けるため、通常の掛取引と同じく「売掛金/売上」「現金預金/売掛金」で処理し、保証サービスに対する対価として支払う保証料・保険料を費用計上していく形になります。
会計処理のポイントは、大きく三つあります。第一に、保証料・保険料をどの勘定科目で処理するか(支払手数料・保証料・保険料など)。第二に、実際に貸倒れが発生したときの「貸倒損失」と、保証金を受け取ったときの「雑収入」などの関係。
第三に、保証料が消費税法上、非課税取引に該当するか、課税仕入になるかの区分です。
特に、保証期間が複数期にわたる契約では、繰延資産や前払費用として期間按分が必要になる場合もあるため、契約期間と支払タイミングの整理が欠かせません。
| 論点 | 保証型ファクタリングで確認したい内容 |
|---|---|
| 費用計上 | 保証料・保険料を「支払手数料」「保証料」「保険料」のどれで処理するか、社内ルールを統一しておきます。 |
| 貸倒時処理 | 貸倒損失の計上タイミングと、保証金受取時の雑収入等との対応関係を整理します。 |
| 消費税区分 | 保証料部分が非課税か課税かを契約内容で確認し、会計ソフトの税区分と結び付けて設定します。 |
保証料・保険料の勘定科目
保証型ファクタリングの保証料や保険料は、性質として「取引先の貸倒リスクを引き受けてもらう対価」です。
銀行融資の信用保証料や、取引信用保険(売掛先の倒産等を補償する保険)の保険料と近い位置づけになるため、実務では次のような勘定科目が使われることが多くなります。
- 支払手数料:金融機関・保証会社への各種手数料の一つとして処理するパターン。
- 保証料:保証専用の補助科目を設け、ほかの手数料と区別して管理するパターン。
- 保険料:取引信用保険に近い商品設計の場合に用い、他の損害保険料と同じグループで処理するパターン。
中小企業では、「支払手数料」で一本化し、必要に応じて補助科目や摘要欄で「売掛金保証料」「保証型ファクタリング料」と明記する方法が簡便です。
一方、保証型サービスの利用額が増えてきた場合や、取引信用保険と併用する場合には、「保証料」「保険料」といった科目を独立させ、費用の内訳を分析しやすくしておくと、資金調達コストとリスクヘッジコストを切り分けて検討しやすくなります。
複数期間にわたる保証料を一括前払いするタイプの契約では、支払時に「前払費用(または繰延資産)/現金預金」とし、決算ごとに利用期間分を「支払手数料(保証料・保険料)/前払費用」と振り替える処理も検討します。
- 基本は「支払手数料」で問題ないが、金額や件数が多い場合は「保証料」「保険料」として独立させると管理しやすいです。
- 複数期間にわたる保証契約では、前払費用・繰延資産の扱いを検討し、期間按分の方法を統一しておきます。
- 会計ソフトの科目体系と照らし合わせ、税理士と相談のうえで最終的な科目名を決めると運用が安定します。
貸倒損失と雑収入の計上実務ポイント
保証型ファクタリングの肝になるのが、「実際に貸倒れが発生したとき」と「保証金を受け取ったとき」の仕訳です。
まず、売掛先の倒産などにより、売掛金の回収不能が客観的に認められる状況になった場合、一般的な貸倒れと同様に「貸倒損失/売掛金」などとして売掛金を消去します(貸倒引当金を積んでいる場合は、その取り崩しとの組み合わせとなります)。
この時点で、損益計算書には貸倒損失が計上されます。
その後、保証型ファクタリング契約に基づき保証会社から保証金が支払われた場合、この保証金は「すでに計上した貸倒損失の一部を回収したもの」という性格を持ちます。
実務上は、「現金預金/雑収入」や「現金預金/営業外収益」などの科目で処理し、貸倒損失とは別の行に表示するケースが多く見られます。
金額規模が大きい場合や、貸倒損失との対応関係を明確にしたい場合には、「貸倒損失戻入」「回収不能債権取立益」といった名称の勘定科目を用いる方法もあります。
ポイントは、「貸倒損失をいつ・いくら計上し、それに対して保証金がいくら戻ってきたか」が後から追えるようにしておくことです。
売掛金の一部だけが保証対象となっている契約も多いため、保証対象部分と非対象部分を区分し、貸倒損失と雑収入(または戻入)の対応をメモや補助台帳で管理しておけば、税務調査や決算分析の際に説明しやすくなります。
- 回収不能が認められた時点で「貸倒損失/売掛金」等の仕訳を行い、売掛金を帳簿から外します。
- 保証金の受取は「現金預金/雑収入」などとして計上し、貸倒損失の補填分として位置付けます。
- 保証対象外の部分や、貸倒引当金の有無も含め、貸倒損失と保証金の対応関係を補助資料で管理します。
保証型手数料と消費税区分
保証型ファクタリングの保証料や保険料については、消費税法上の区分を正しく設定することが重要です。
一般に、預貯金の利子や信用保証料、保険料などは「金融取引・保険取引」として非課税取引に含まれると整理されており、売掛金保証サービスがこの範囲に含まれる場合、保証料は消費税の非課税仕入として扱います。
一方、単なる回収代行手数料や、保証以外のサービス提供部分が含まれる場合には、その部分が課税仕入に該当する可能性があります。
実務では、保証型の商品が「取引信用保険」に極めて近い設計になっている場合は保険料として非課税区分、保証会社が金融機関等で信用保証に該当する場合は保証料として非課税区分、といった整理が行われます。
一方、債権管理や回収代行などの役務提供と一体になっているサービスでは、請求書の内訳に「保証部分」「その他サービス部分」が分けて記載されているかどうかが、税区分の判断に影響します。
内訳が明示されていない場合、すべてを非課税として処理してしまうと、後から課税仕入として扱うべき部分が見落とされるリスクもあります。
会計ソフト上は、勘定科目ごとに税区分を設定できるケースが多いため、「保証料(非課税)」「保険料(非課税)」「回収手数料(課税)」など、契約内容にあわせて科目と税区分を組み合わせる運用が現実的です。
不明な場合は、契約書・約款・請求書の記載を確認し、税理士や税務署に相談したうえで判断することが、税務リスクを避けるうえで重要になります。
- 売掛金保証・信用保険に該当する部分は、原則として非課税取引に区分する方向で検討します。
- 回収代行など保証以外の役務提供が含まれている場合、その部分は課税仕入となる可能性があります。
- 会計ソフトの税区分設定と、契約書・請求書の内訳を照らし合わせ、不明な点は税理士等に確認します。
会計ソフト別運用・実務
ファクタリングの会計処理は、理屈が分かっていても「会計ソフト上でどう入力するか」でつまずきやすい論点です。
特に小規模事業では、担当者が日常業務と経理を兼務していることも多く、「売上債権売却損をどこから選ぶのか」「未収入金・預り金をどう呼び出すのか」といった実務面の工夫が重要になります。
多くの会計ソフトには、勘定科目の追加・名称変更・補助科目設定・仕訳テンプレート登録といった機能が用意されており、これらをうまく使うことで、ファクタリング取引を毎回一から考えずに処理できるようになります。
また、クラウド型ソフトでは「仕訳辞書」や「定型仕訳」の登録により、請求書額・手数料・入金額を入力するだけで仕訳が自動展開されるケースもあります。
ファクタリング専用の勘定科目が初期設定されていない場合でも、自社の方針に合わせて「売上債権売却損」「ファクタリング手数料」などの科目を新設し、税区分や表示区分を一度設定しておけば、その後は選択するだけで運用可能です。
| 機能 | ファクタリング実務での活用例 |
|---|---|
| 勘定科目の追加 | 「売上債権売却損」「ファクタリング手数料」「売掛金保証料」などを新設し、性質ごとに費用を集計しやすくする。 |
| 補助科目・摘要 | 「二社間」「三社間」「社名別」などで補助科目を設定し、どのスキーム・どの売掛先分か判別できるようにする。 |
| 定型仕訳 | 「買取型ファクタリング」「保証料支払い」などのパターンを登録し、金額を入力するだけで仕訳を自動展開する。 |
| 税区分設定 | 売上債権売却損を「非課税」、保証料を「非課税」または「課税仕入」にあらかじめ設定し、入力時の迷いを減らす。 |
小規模事業の簡便な処理方法
小規模事業・個人事業主の場合、会計処理を細かく分けすぎるとかえって実務負担が増えます。
そのため、「最低限おさえるべき勘定科目」と「会計ソフト上の運用ルール」をシンプルに決めておくことが大切です。
具体的には、買取型ファクタリングについては「売上債権売却損」、保証型については「支払手数料(補助:保証料)」など、性質ごとに1〜2種類の科目に集約し、科目数を増やしすぎないことがポイントになります。
仕訳のパターンも、日常の入力に耐えられるレベルまで絞り込むと運用しやすくなります。
例えば、買取型ファクタリングであれば、「契約時:未収入金/売掛金」「入金時:現金預金・売上債権売却損/未収入金」の2パターンを定型仕訳として登録し、金額を毎回変更するだけにする方法があります。
保証料についても、「保証料支払い:支払手数料(保証料)/現金預金」という定型仕訳を作成し、月次や四半期でまとめて入力する運用を採用すれば、1件ごとの入力負担を軽減できます。
- 買取型は「売上債権売却損」、保証型は「支払手数料(保証料)」など、性質ごとに科目を絞り込みます。
- よく使う仕訳は会計ソフトの「定型仕訳」「仕訳辞書」に登録し、金額だけ入力する形にします。
- 月次入力が難しければ、保証料などは「四半期ごと一括入力」など、実務に無理のないリズムを決めて運用します。
未収入金・未払金との関係
会計ソフト上で買取型ファクタリングを処理するとき、よく登場するのが「未収入金」と「未払金(預り金)」です。
未収入金は、本業の売上以外で発生する債権や、一時的な回収待ちの債権に使われる勘定科目で、ファクタリングでは「売掛金を譲渡した後、ファクタリング会社からまだ入金されていない状態」を表すのに適しています。
契約時に「未収入金/売掛金」と振り替えることで、「売掛金はもう自社の債権ではない」「代わりにファクタリング会社への債権になっている」という状態を貸借対照表に反映できます。
一方、未払金や預り金は、「既に資金は入金されているが、まだ相手方に支払っていない義務」を表現する科目です。
2社間ファクタリングでは、売掛先が期日に代金を利用者に支払い、その後利用者がファクタリング会社へ送金する流れになるため、売掛先からの入金を「現金預金/預り金」、ファクタリング会社への支払いを「預り金/現金預金」と処理するのが典型です。
会計ソフトでは、預り金を負債の区分に、未収入金を流動資産の区分に適切に設定しておくことで、残高試算表や貸借対照表でファクタリングの影響を視覚的に把握しやすくなります。
- 「未収入金」は、売掛金を譲渡したあとファクタリング会社からの入金待ちの状態を表す資産科目として使います。
- 「預り金(未払金)」は、売掛先から受け取った代金をファクタリング会社へ渡すまで一時的に預かっている負債として用います。
- 会計ソフト上で資産・負債の区分を正しく設定し、残高試算表でファクタリング関連残高を一目で確認できるようにしておきます。
決算書表示と税理士への共有手順
ファクタリングを継続的に利用している場合、決算書の見せ方と税理士への情報共有が重要になります。
損益計算書では、買取型ファクタリングに係る「売上債権売却損」をどの区分に表示するか(販売費及び一般管理費か、営業外費用か)を決めておく必要があります。
中小企業では、売上債権売却損を「支払手数料」などとまとめて販管費の中に表示するケースと、金融費用に近い性格として営業外費用に区分するケースがあり、どちらが必須というわけではありませんが、毎期の比較がしやすいように方針を固定しておくことが望ましいです。
税理士への共有では、「どの勘定科目に、どの取引先のファクタリング費用がどれくらい計上されているか」が分かる資料を用意するとスムーズです。
具体的には、会計ソフトから「売上債権売却損」「ファクタリング手数料」「売掛金保証料」など関連科目の元帳・仕訳帳を抽出し、対象期間のファクタリング利用一覧(取引先名、請求書番号、額面、手数料、スキーム区分など)を簡単な表形式でまとめておくと、税務申告や会計方針の確認がしやすくなります。
- 「売上債権売却損」や「保証料」を損益計算書のどの区分に表示するか、毎期一貫した方針を決めておきます。
- 会計ソフトから関連科目の元帳を出力し、ファクタリング利用一覧(取引先・額面・手数料)を別途まとめて税理士に共有します。
- 新しいスキームを導入した年や利用額が大きく増えた年には、決算前に税理士と処理方針・税務上の取扱いを確認することが重要です。
勘定科目選択実務チェックポイント
ファクタリングの会計処理では、「どの勘定科目を使うか」によって、決算書の見え方や税務上の確認ポイントが変わります。
買取型なのか保証型なのか、リコース(償還請求権)の有無や、実質的に借入金とみなされるスキームなのかによっても、適切な勘定科目は異なります。
実務では、「細かく分けすぎて運用できない」「逆にすべて支払手数料にして中身が見えない」といった両極端になりがちなため、あらかじめ判断フローとチェックポイントを整理しておくことが重要です。
また、IFRSや国際会計基準ベースで決算を行う企業では、「売掛金をオフバランスするか」「借入金として負債を計上するか」といった認識・測定の判断が絡みます。
そのため、個々の仕訳レベルだけではなく、「この取引をどう位置付けるか」という会計方針の整理も欠かせません。
中小企業や小規模事業であっても、基本的な判断ロジックを押さえておけば、税理士や監査人への説明がスムーズになり、ファクタリングの利用実態を決算書に適切に反映しやすくなります。
| 確認観点 | 主なチェック内容 |
|---|---|
| スキーム | 買取型か保証型か、2社間か3社間か、リコース有無はどうか。 |
| 勘定科目 | 売上債権売却損・支払手数料・保証料・保険料など、どこに集約するか。 |
| 税区分 | 非課税か課税仕入か、会計ソフト上の税区分はどう設定するか。 |
| 表示区分 | 損益計算書のどの区分(販管費/営業外費用等)に表示するか。 |
勘定科目選択の判断フロー整理図
ファクタリング取引ごとに勘定科目を選ぶ際には、「スキームの把握→取引の性質→科目選択」という順番で考えると整理しやすくなります。
まず、その取引が売掛金の買取なのか、保証サービスなのかを区別します。買取であれば、売掛金がファクタリング会社に移転しているか(オフバランス)、実態として売掛金担保の借入に近いか(オンバランス)を確認します。
保証型であれば、売掛金は自社に残り、保証料を支払うスキームであることが前提になります。
次に、「どの勘定科目グループに属する費用か」を判断します。売掛債権を額面より低い価額で売却した差額であれば「売上債権売却損」グループ、継続的に支払う保証料やサービス料であれば「支払手数料・保証料・保険料」グループといった具合です。
最後に、決算書上の表示(販管費か営業外費用か)、税区分(非課税か課税仕入か)を決めて、会計ソフトの設定や仕訳辞書に反映します。
この一連の判断を、社内マニュアルやフローチャート形式で整理しておくと、担当者が変わっても処理がぶれにくくなります。
文章だけでなく、「買取型+ノンリコース→売上債権売却損」「保証型→支払手数料(保証料)」「実質借入→利息・支払利息」といった条件分岐を図解しておくと、経理担当以外の管理部門にも共有しやすくなります。
- ① 取引類型を判定:買取型か保証型か/2社間か3社間か/リコース有無を確認。
- ② 取引の性質を分類:売掛債権の売却損か、保証サービスの対価か、借入コストかを整理。
- ③ 科目・税区分を決定:売上債権売却損・支払手数料・保証料など、勘定科目と消費税区分を確定し、会計ソフトに反映。
IFRS適用時の借入金扱い確認
IFRS(国際財務報告基準)を適用している企業や、将来的な適用を意識している企業では、ファクタリングが「売掛金の譲渡(オフバランス)」として扱えるか、それとも「売掛金を担保とした借入金(オンバランス)」として扱うべきかの判断が重要になります。
IFRSでは、金融資産(売掛金など)の消滅は、「ほとんどすべてのリスクと経済価値が移転したかどうか」で判断する考え方が採用されています。
買取型ファクタリングであっても、契約条件によっては、売掛先の信用リスクが実質的に利用者に残っているケースがあります。
例えば、償還請求権付き(リコース)の契約で、売掛先が支払えない場合に利用者が全額支払う義務を負うような場合は、売掛債権のリスクが移転していないと評価され、売掛金は消滅させず、借入金として負債を計上する方向で検討することになります。
これに対し、ノンリコースで、売掛先の倒産リスクをファクタリング会社が負担し、利用者に追加負担が発生しないスキームであれば、売掛金を消滅させ、売上債権売却損を計上する方向で整理されます。
国内基準で決算している中小企業の場合でも、金融機関や投資家への説明の場面では、「実質的に借入に近いのか、売却に近いのか」という観点で質問されることがあります。
そのため、IFRSを直接適用しない場合でも、契約書の条項(買戻し義務・追加負担の有無・価格設定の根拠など)を整理し、「この取引はどちらの性格が強いのか」を内部で検討しておくと、将来的な基準変更や上場準備の際にも対応しやすくなります。
- 売掛債権のリスクと経済価値が、実質的にファクタリング会社へ移転しているかどうかを確認します。
- 償還請求権付きで利用者の追加負担が大きい場合は、借入金扱いとなる可能性を意識します。
- 契約書の条項(買戻し義務・保証範囲・価格設定)を整理し、売却取引か借入取引かの判断メモを残しておきます。
ミスを防ぐ仕訳チェックリスト項目
ファクタリングの仕訳はパターンが多く、担当者が慣れていないと、「売掛金の消し込み忘れ」「税区分の誤り」「保証型と買取型の混同」などが起こりやすくなります。
これを防ぐには、入力前後で確認すべきチェックリストを用意し、月次決算や年次決算のタイミングで必ず確認する運用にすることが有効です。
チェックリストは難しい専門用語を避け、「売掛金一覧とファクタリング対象額が合っているか」「売上債権売却損の金額が見積書と一致しているか」といった、現場で確認しやすい項目で構成するのがポイントです。
また、2社間ファクタリングでは、預り金残高の未消し込みや、売掛先からの入金を誤って売上として二重計上してしまうミスも起こりがちです。
保証型では、貸倒損失と保証金受取の仕訳が正しく対応しているか、保証料の消費税区分が契約内容と整合しているか、といった点が確認ポイントになります。
こうしたミスは、単発では大きな影響がないように見えても、年間を通じて積み上がると、決算書や申告書の整合性に影響する可能性があります。
- 買取型:売掛金→未収入金→現金預金+売上債権売却損の流れで、残高がゼロになっているか確認します。
- 2社間:売掛先からの入金を「預り金」で処理し、ファクタリング会社への送金で預り金が解消しているかを確認します。
- 保証型:貸倒損失と保証金受取が対応しているか、保証料の税区分(非課税/課税仕入)が契約内容と一致しているかを確認します。
まとめ
ファクタリング手数料は、取引の性質により「売上債権売却損」「支払手数料」「保証料」「保険料」など勘定科目の選び方が変わります。
買取型・保証型、消費税の課税/非課税、未収入金や貸倒損失との関係を押さえておけば、決算書の見え方と税務リスクをコントロールしやすくなります。
自社の会計方針と会計ソフトの科目体系をそろえ、税理士とも共通ルールを決めて運用することが重要です。



















