すでにあるファクタリング会社と取引している企業でも、追加の資金調達や別会社への切り替えを検討する場面は少なくありません。ただし、実際に申し込めるかどうかは、現在の契約条件や譲渡している売掛債権の範囲によって大きく左右されます。
本記事では「ファクタリング 他社利用中」のケースに焦点を当て、申込が可能となる条件と難しくなるパターン、乗り換え・併用のメリット、同一債権二重譲渡などのリスク、審査で見られやすい15のポイントを整理します。他社利用中でも、安全性を確保しながら資金繰りを見直したい事業者向けの客観的な解説です。
他社利用中ファクタリングの基本
ファクタリングは、企業が取引先に対して持つ売掛債権(請求書にもとづく将来の入金請求権)をファクタリング会社に譲渡し、期日前に資金化する取引です。
「他社利用中」とは、すでにいずれかのファクタリング会社と契約している状態で、別の会社への新規申込や乗り換え・併用を検討している状況を指します。
取引の形態としては、利用者とファクタリング会社のみで契約を行う「2社間ファクタリング」と、利用者・ファクタリング会社・売掛先の3者が関与する「3社間ファクタリング」があります。
2社間は売掛先に知られにくい一方で、ファクタリング会社が回収リスクを負う分、手数料は高めになりやすい特徴があります。
これに対し、3社間は売掛先からファクタリング会社へ直接支払いが行われるため、回収リスクが低く、一般に手数料は抑えられる傾向にあります。
民法上、売掛債権は原則として譲渡が認められていますが、同じ債権を複数の会社に譲渡する「同一債権の二重譲渡」は契約違反となり、場合によっては詐欺的な行為と評価されるおそれがあります。
このため、他社利用中であっても、ファクタリング会社ごとに対象とする売掛債権をきちんと分けることが前提条件となります。
また、法人が保有する金銭債権については、法務局で「債権譲渡登記」を行うことで、第三者に対して優先的な権利を主張できる仕組みがあります。
債権譲渡登記の有無や、売掛先への通知・承諾の状況は、他社利用中に新たな申込を行う際に必ず確認しておきたいポイントです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 2社間ファクタリング | 利用者とファクタリング会社の間だけで契約。売掛先への通知なしで利用しやすい一方、手数料は相対的に高くなりやすい。 |
| 3社間ファクタリング | 利用者・ファクタリング会社・売掛先の3者が関与。売掛先から直接入金されるため回収リスクが低く、手数料は抑えられるケースが多い。 |
| 他社利用中での申込 | 同じ売掛債権を複数社へ譲渡することは不可。売掛先や請求書を分け、既存契約の範囲外の債権を対象にすることが前提となる。 |
他社利用中でも申込できる条件
他社でファクタリングを利用している場合でも、条件を満たせば別会社への新規申込が認められるケースがあります。
判断の軸となるのは、「どの売掛債権を譲渡対象にするのか」と「既存契約でどこまでが譲渡済みか」という2点です。
典型的なのは、現在利用している会社とは異なる売掛先の債権を新たに対象とするパターンです。
また、同じ売掛先であっても、締日が異なる請求書や別案件の売上など、既存契約とは別の請求書だけを対象にすれば、同一債権の二重譲渡には該当しません。
このように、既に譲渡済みの範囲と新たに申し込む債権の範囲を明確に区別できれば、他社利用中でも新規申込は一般に可能とされています。
さらに、現行のファクタリング契約で対象となった売掛債権の決済が完了し、清算が済んでいる場合には、同じ売掛先の新しい請求書を別会社でファクタリングすることも多くの事業者で行われています。
債権譲渡登記がある場合には、登記の対象となっている債権と、新たに申込む債権が重ならないかを確認することが重要です。
審査の観点では、「他社利用中であること」そのものよりも、売掛先の支払実績や請求書の内容、通帳記録・決算書などから把握される事業実態が重視されます。
他社利用中であることは申込時に正しく申告する必要があり、利用状況を客観的に説明できることが、審査での前提条件となります。
- 現在とは別の売掛先の債権だけを対象にする場合
- 同じ売掛先でも、別期・別案件の請求書に限定して資金化する場合
- 既存のファクタリング取引が完済・終了してから、新しい請求書で申込む場合
申込が難しいケースと理由
一方で、他社利用中の状態から新たな申込を行うことが難しくなるケースもあります。典型例は、すでに他社へ譲渡している売掛債権と「同じ請求書」を再度別の会社に譲渡しようとする場合です。
これは同一債権の二重譲渡にあたり、契約違反であるだけでなく、不正行為とみなされるおそれがあります。
故意ではなくても、部署間の連携不足や複数社への同時申込が原因で二重譲渡が発生する例もあり、注意が必要です。
また、既存のファクタリング契約において支払遅延が続いている場合や、売掛先の支払遅延・倒産などで回収が不安定な状況にある場合も、新規申込の審査は厳格になります。
債権譲渡登記が行われている債権については、登記簿から既に譲渡を受けた会社が分かるため、原則として同じ債権を別会社に譲渡することはできません。
さらに、税金や社会保険料の滞納が長期間続いている場合や、過去にファクタリングに関するトラブル・不正があった場合も、審査上の大きなマイナス要因です。
こうした状況では、他社利用中かどうかにかかわらず、ファクタリングの新規利用自体が難しく判断されることがあります。
- 同じ請求書を複数のファクタリング会社へ譲渡しようとする(二重譲渡)ケース
- 既存のファクタリング契約で支払遅延や清算トラブルが発生しているケース
- 債権譲渡登記済みの債権を別会社にも譲渡しようとするケースや、税金等の長期滞納があるケース
乗り換え・併用の具体メリット
他社でファクタリングを利用中の状態でも、条件を満たしたうえで乗り換えや併用を行うことで、資金調達条件を客観的に改善できる可能性があります。
ファクタリングは銀行融資とは異なり、手数料率・買取率・最低/最高買取金額・入金までのスピード・対応業種などが会社ごとに大きく異なります。
そのため、1社だけと長期的に取引していると、いつの間にか市場水準より高い手数料を支払っていたり、買取上限額がネックになったりするケースもあります。
他社の見積もりを複数取得して条件を比較し、売掛先や案件ごとに利用先を使い分けることで、トータルの手数料負担を抑えつつ、必要なタイミングで資金を確保しやすくなります。
また、利用先を分散させることで、特定のファクタリング会社に依存しすぎるリスクも軽減できます。
重要なのは、同じ売掛債権を重ねて譲渡しないこと、契約上の禁止事項を守ること、そして客観的な条件比較にもとづいて乗り換え・併用を行うことです。
- 手数料率・買取率を客観的に比較し、条件改善の余地を確認できる
- 入金スピードや買取上限額など、案件ごとに適した会社を選べる
- 利用先を分散し、特定のファクタリング会社に依存しすぎるリスクを抑えられる
手数料・買取率の見直し効果
ファクタリングのコスト構造は主に「手数料率」と「買取率」によって決まります。手数料率は請求書額に対する手数料の割合(%)、買取率は請求書額に対して実際に入金される金額の割合(%)です。
他社利用中の状態で複数社から見積もりを取ると、同じ売掛先・同じ請求書額であっても、ファクタリング会社ごとに条件が異なることが明らかになります。
例えば、請求書額1,000万円の売掛債権を2社間ファクタリングで利用する場合、手数料率15%の会社であれば手数料は150万円、入金額は850万円です。
手数料率10%の会社であれば、手数料は100万円、入金額は900万円となり、1回の取引だけで50万円の差額が生じます。
この取引を年間で複数回行う場合、トータルの手数料負担には大きな差が生まれます。
また、手数料率が同じでも、買取率や振込手数料、事務手数料の取り扱いによって、最終的な手取り額は変わります。
したがって、各社の見積書を比較する際は、個々のパーセンテージではなく、「いくら入金されて、いくらコストがかかるのか」という総額ベースで評価することが重要です。
他社利用中であっても、新しい見積もりを取得して条件を見直すことで、自社の資金繰りにとって適切な水準かどうかを客観的に確認できます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 手数料率 | 請求書額に対する手数料の割合。例:1,000万円×10%=手数料100万円。 |
| 買取率 | 請求書額に対して実際に入金される割合。例:1,000万円×90%=入金額900万円。 |
| 実質コスト | 手数料に加え、振込手数料や事務手数料等を合計した金額。総額で比較して、実際の手取り額を把握することが重要。 |
- 現在の手数料率・買取率と他社見積もりの差額を、金額ベースで比較する
- 振込手数料や各種諸費用も含めた「最終的な手取り額」で判断する
- 対象となる請求書を整理し、同一債権を重複して申込まないよう管理する
入金スピードや上限額の改善
ファクタリングの「入金スピード」は、申込から資金が振り込まれるまでに要する時間を指し、運転資金の安定性に直結します。
審査の進め方や必要書類の範囲は会社ごとに異なるため、同じ売掛先・同じ金額でも、入金までの所要日数に差が生じることがあります。
他社利用中であっても、急な支払に備えたい案件や、決まった期日までに資金を準備したい案件について、より短いスケジュールで対応できる会社に申込むことで、資金繰りの安定性を高めることが可能です。
また、1社あたりの買取上限額や、特定の売掛先に対する集中リスクの管理方針も会社ごとに異なります。
ある会社では業種や売掛先の与信の都合で上限額が抑えられている一方、別の会社では同じ売掛先に対してより高い上限を設定しているケースもあります。
複数社を併用することで、一社では対応しきれない部分を別会社で補い、全体として必要な資金量に近づけることができます。
条件を比較する際には、「通常の審査日数」「最短入金目安」「案件ごとの上限額」「年間の累計利用枠」などを具体的な数字で確認し、自社の資金計画と照らし合わせて検討することが重要です。
- 申込から入金までの標準スケジュールと最短入金目安を確認する
- 1社あたりの買取上限額や売掛先ごとの上限設定の違いを把握する
- 急ぎ案件・大口案件など、目的別にファクタリング会社を使い分ける前提で検討する
売掛先ごとの使い分けパターン
他社利用中の状態でファクタリングを併用する場合、売掛先ごとに利用する会社を分ける方法は実務上有効です。
ファクタリング会社によって得意とする業種や顧客属性が異なり、ある会社は特定業種の与信評価に詳しく、比較的低い手数料を提示しやすい一方、別の会社は別の業種・売掛先に強みを持ち、高い買取率で対応できることがあります。
売掛先の支払サイト(請求から入金までの日数)や取引条件も、使い分けを考えるうえで重要な要素です。
支払サイトが長く資金拘束期間が長い売掛先については、3社間ファクタリングや登記付きのスキームを利用しやすい会社を選び、支払サイトが短い売掛先については、スピード重視で2社間ファクタリングを選ぶなど、条件に応じた組み合わせが考えられます。
売掛先の信用力、支払サイト、取引規模といった情報を一覧化し、それぞれに適したファクタリング会社を割り当てることで、コストと資金繰りのバランスがとりやすくなります。
| パターン | 対象となる売掛先 | 想定される使い分け |
|---|---|---|
| パターンA | 大企業・官公庁など信用力の高い売掛先 | 手数料の低さを優先し、3社間ファクタリングや登記付きスキームを組み合わせて条件を最適化する。 |
| パターンB | 支払サイトが長く、入金タイミングが偏りやすい売掛先 | 資金繰りの山谷をならす目的で、上限額や入金スピードを重視して利用先を選ぶ。 |
| パターンC | 少額案件が多い売掛先 | 少額でも利用しやすい手数料体系の会社を優先し、事務負担を抑える。 |
- 売掛先の信用力・支払サイト・請求書額を整理し、一覧化する
- 各パターンに適したファクタリング会社を割り当て、二重譲渡防止のため管理台帳を作成する
- 手数料水準や市場環境の変化に合わせて、定期的に条件を見直す
他社利用中ファクタリングの主なリスク
他社でファクタリングを利用している状態で、さらに別の会社へ申込を行う場合は、通常のファクタリング取引に比べて意識すべきリスクが増えます。
特に問題となるのは、同じ売掛債権を複数の会社に譲渡してしまう「同一債権の二重譲渡」、債権譲渡登記や売掛先への通知の有無を誤解したまま新たな契約を結ぶこと、そして既存トラブルや資金繰りの悪化が新規審査に悪影響を及ぼすことです。
ファクタリング会社は、契約書、通帳、債権譲渡登記事項証明書、売掛先との基本契約書などを通じて、既存取引の状況を確認します。
他社利用中であることを申込時に正しく申告しなかった場合、事実が判明した時点で契約解除や一括返還請求が行われるおそれがあります。
さらに、売掛先や取引金融機関からの信用にも影響し、将来の取引条件の悪化につながる可能性もあります。
こうしたリスクは、事前に契約内容や利用中の債権を整理し、対象とする請求書を明確に区分することで、多くが回避可能です。
他社利用中であること自体が直ちに危険というわけではありませんが、管理が不十分な状態で複数社を併用すると、意図せず契約違反を招きやすくなります。
| リスクの種類 | 内容 |
|---|---|
| 法的リスク | 同一債権の二重譲渡や虚偽申告により、損害賠償請求や詐欺と評価される可能性がある。 |
| 信用リスク | 売掛先・金融機関・ファクタリング会社からの信用が低下し、取引条件の悪化や取引停止につながるおそれ。 |
| 資金繰りリスク | 複数社への返済・清算スケジュールが重なり、逆に資金繰りが圧迫されるリスク。 |
同一債権二重譲渡の禁止
同一債権の二重譲渡とは、同じ売掛債権を複数のファクタリング会社に対して譲渡する行為を指します。
売掛債権は原則として譲渡可能ですが、同じ債権を重ねて売却すると、「誰が優先的に回収できるのか」が不明確となり、契約違反に加えて不正行為と評価されるおそれがあります。
多くのファクタリング契約では、二重譲渡の禁止が契約条項として明記されており、違反時には損害賠償請求や一括返還を求める内容が定められています。
二重譲渡は、意図的な不正だけでなく、管理体制が不十分な場合にも起こり得ます。
例えば、同じ売掛先の請求書を複数部署が別々に申込んでしまったり、既に他社へ譲渡済みの請求書を十分に確認しないまま再申込してしまったりするケースです。
ファクタリング会社側は、通帳の入金履歴、債権譲渡登記の状況、売掛先への確認などを通じて、二重譲渡の有無をチェックします。
二重譲渡が発覚した場合、利用者は複数社からの返還請求に対応せざるを得ず、短期間で資金繰りが急激に悪化する危険があります。
また、売掛先との信頼関係が損なわれ、請求書の発行条件や取引自体の見直しにつながる可能性もあります。
- 契約違反として、ファクタリング会社から損害賠償や一括返還を求められるリスク
- 売掛先・金融機関からの信用低下により、将来の取引条件が不利になる可能性
- 複数社への返還義務が重なり、一時的に資金繰りが大きく悪化するおそれ
債権譲渡登記・通知の注意点
債権譲渡登記は、金銭債権の譲渡について第三者に対して優先的な権利を主張するための制度であり、法務局で「債権譲渡登記事項証明書」を取得すれば、誰がどの債権を譲り受けたかを確認できます。
ファクタリング会社は、一定額以上の取引や継続的な取引では、将来の回収リスクを抑えるために登記を行うことがあります。
また、売掛先への通知(債権譲渡通知)や売掛先の承諾も、対抗要件と呼ばれる権利保護のための重要な手続きです。
他社利用中に新たな申込を行う際、すでに債権譲渡登記がなされている債権や、売掛先に対して支払先変更の通知・承諾を行っている債権は、原則として別の会社に譲渡することができません。
登記簿や通知書によって先に譲渡を受けた会社が明らかになっているため、あとから申込を受けた会社は対象外と判断します。
利用者が誤った申告をすると、審査中や契約後に事実が判明し、契約取消や信用低下につながるおそれがあります。売掛先への通知・承諾の内容も確認が必要です。
たとえば、「今後、この請求書の支払先はファクタリング会社となる」と売掛先に通知している場合、利用者側が同じ請求書を別会社で資金化しようとしても、売掛先の支払先はすでに変更済みであるため、新たな資金化は行えません。
通知や登記の状況を把握しないまま複数社を併用すると、思わぬトラブルの原因となります。
- 現在利用中の取引で、債権譲渡登記を行っている債権があるかどうか
- 売掛先に対して、支払先変更の通知や承諾を行っているかどうか
- 新規申込で対象とする請求書が、既存の登記や通知の範囲に含まれていないか
審査で不利になる状況とは
他社利用中であることが直ちに審査上のマイナスになるわけではありませんが、一定の状況では評価が厳しくなります。
代表的なのは、すでに利用しているファクタリング契約で支払遅延が発生している場合や、清算資金を確保できないまま複数社へ申込を繰り返している場合です。
こうした状況は、資金繰りの逼迫や事業収益の不安定さを示す材料となるため、審査担当者は返済能力や事業の継続性をより慎重に確認します。
また、売掛先の支払遅延や取引停止が頻発している場合も、ファクタリング会社にとっては回収リスクが高いと判断されます。
売掛先の信用力は、支払履歴や信用調査、決算情報などから総合的に評価されるため、遅延が続いている状態で新たな申込を行うと、手数料が高く提示されたり、取扱い自体が難しくなったりすることがあります。
加えて、税金や社会保険料の滞納が長期間続いている場合や、過去にファクタリング会社とのトラブル・紛争があった場合も、審査上のマイナス材料です。
他社利用の状況や滞納の有無を申込時に正確に説明できないと、情報の信頼性そのものが疑われ、審査に通りにくくなります。
- 既存のファクタリング契約で支払遅延や清算トラブルが発生している
- 売掛先の支払遅延・取引停止が多く、回収リスクが高いと判断される
- 税金・社会保険料の滞納や他社とのトラブル歴があるにもかかわらず、申告が不十分な場合
他社利用中ユーザーの資金繰り課題
ファクタリングを継続利用している事業者のなかには、「資金は入ってくるが最終的に手元に残るお金が少ない」「常に次の請求書を資金化しないと支払いが回らない」といった資金繰りの課題を抱えるケースが見られます。
ファクタリングは売掛金の早期現金化によって資金ショートを防ぐ手段ですが、手数料や買取率が高コストになると、粗利やキャッシュフローを圧迫する要因にもなります。
特に、複数のファクタリング会社を併用している場合、各社への支払スケジュールが重なりやすく、どの売掛債権をどこに譲渡しているか把握しづらくなることも実務上のリスクです。
資金繰りを把握するうえでは、「1回の取引でいくら残るか」だけでなく、「年間を通じて手数料としてどれだけ外部に流出しているか」「ファクタリングを利用しない月にどれだけ資金を確保できているか」といった視点で構造を整理することが重要です。
他社利用中の状態で新たな申込を検討する前に、現状の資金繰り構造を客観的に把握しておくと、改善策の選択肢が見えやすくなります。
| 課題の種類 | 具体的な状況 |
|---|---|
| 手数料負担 | 高い手数料率により、売上総利益の多くが手数料として外部に流出している。 |
| 資金繰りの固定化 | 毎月の支払に合わせ、ファクタリング利用が前提となる資金繰り構造になっている。 |
| 管理の複雑化 | 複数社併用により、どの売掛債権をどの会社へ譲渡したかの把握が難しくなっている。 |
高い手数料で資金が残らない
ファクタリングの手数料率が高水準にある場合、一時的な資金不足は解消できても、最終的に手元に残る資金は少なくなります。
例えば、売掛債権1,000万円を2社間ファクタリングで利用し、手数料率20%の場合、手数料は200万円、入金額は800万円です。
この取引が毎月1回、年間12回行われると、手数料総額は2,400万円に達し、売上総利益の相当部分が手数料として外部に流出する可能性があります。
他社利用中で乗り換えや併用を検討する際は、「期日まで待った場合の資金繰り」と「ファクタリングを利用した場合のコスト」を比較して考えることが重要です。
また、取引先との支払条件の見直しや仕入条件の調整などと組み合わせて検討しないと、高い手数料を前提とした資金繰りが固定化しやすくなります。
会計上は、ファクタリング手数料は費用として処理されますが、資金繰りの観点では「現金の流出」として管理することがポイントです。
月次・四半期・年次などの単位で手数料総額を一覧化し、粗利とのバランスを確認することで、現在の利用水準が事業規模に見合っているかを客観的に把握できます。
- 請求書額(円)・手数料率(%)・年間利用回数から、年間手数料総額を算出する
- 手数料総額と売上総利益(粗利)の比率を確認し、事業規模に対して過大でないかを把握する
- 支払条件の見直しやコスト削減と併せて、ファクタリング依存度を下げる余地がないか検討する
追加資金が必要なときの選択肢
他社でファクタリングを利用している事業者が、急な支払や大型案件への対応などで追加資金を必要とする場合、取り得る選択肢を整理しておくことが重要です。
まず検討されるのは、現在取引しているファクタリング会社への増額相談や、新たな売掛債権の買取依頼です。
この場合でも、既に譲渡済みの債権と重複しない範囲の売掛先や新規請求書を対象とすることが前提となります。
次の選択肢として、別のファクタリング会社への申込も考えられますが、ここでも既存契約の対象債権と重複しないことを明確にする必要があります。
また、ファクタリング以外にも、取引金融機関の短期融資やビジネスローン、リース会社の割賦・リースなど、売掛債権以外を基礎とする資金調達手段も客観的に比較する必要があります。
追加資金をファクタリングだけで繰り返し賄うと、手数料負担が累積し、資金繰りがかえって厳しくなる場合もあります。
そのため、「一時的な資金ショートの補完」なのか、「構造的な運転資金不足への対応」なのかを切り分け、後者の場合には利益率の改善や固定費削減など、事業面の対策も並行して検討することが求められます。
- 既存ファクタリング会社への増額相談(対象債権の重複がないか確認したうえで検討)
- 別会社でのファクタリング利用や、短期融資・ビジネスローンなど他の資金調達手段との比較
- 一時的なショートか構造的な資金不足かを切り分け、事業面の改善策も含めて検討する
継続利用NGと言われた場合の対応
ファクタリング会社から「今後の継続利用は難しい」と判断される場合、その背景には売掛先の支払状況や事業の収益性、既存取引でのトラブルなど複数の要因があることが一般的です。
たとえば、売掛先の支払遅延や取引停止が頻発している、通帳の入出金が不自然で実態が読み取りにくい、既存契約で支払遅延や契約違反があった、といった状況は、継続利用判断に大きく影響します。
継続利用NGの連絡を受けた場合には、まずその理由を確認し、売掛先の入金状況や自社の経理・会計処理に改善すべき点がないかを整理することが重要です。
原因が売掛先の信用力にあるのか、自社の財務状況や管理体制にあるのかを切り分けることで、対策の方向性が明確になります。
そのうえで、取引金融機関との相談や他の資金調達手段の検討、不要な固定費の削減など、資金繰り全体の見直しを進める必要があります。
実態と異なる情報を伝えて利用再開を求めたり、同じ売掛債権を別会社へ重ねて譲渡しようとしたりすると、信用低下や契約トラブルを一層招くおそれがあります。
客観的な事実にもとづき、改善可能な部分から着実に対応していくことが求められます。
- 継続利用が難しいと判断された理由(売掛先の状況・自社の財務・契約面)を具体的に確認する
- 資金繰り表を作成し、短期的な資金需要と長期的な収支バランスを整理する
- 金融機関や専門家への相談も含め、ファクタリング以外の選択肢と事業面の改善策を検討する
他社申込前の安全チェック項目
他社でファクタリングを利用中の状態で別会社へ申込む場合、事前確認が不十分だと、同一債権の二重譲渡や契約違反、資金繰り悪化などのリスクが高まります。
安全に乗り換え・併用を行うためには、現在の契約条件と残高、売掛先ごとの利用状況、必要書類や通帳記録の整備状況を把握し、複数社への申込スケジュールを管理することが重要です。
とくに、どの請求書をどの会社に譲渡しているのか、いつまで債務が残るのかを把握していないと、意図せず同じ債権を重ねて申込んでしまうおそれがあります。
実務上は、「契約・残高」「売掛先」「書類・記録」「申込タイミング」という4つの観点でチェックリストを作成し、客観的な情報にもとづいて可否を判断することが、トラブル防止につながります。
| チェック観点 | 主な確認内容 |
|---|---|
| 契約・残高 | 基本契約書・個別契約書の条件、残高や清算予定日、禁止事項の有無。 |
| 売掛先 | 売掛先ごとの譲渡状況、未利用の請求書の有無、支払実績。 |
| 書類・記録 | 決算書、試算表、請求書、通帳コピー、登記事項証明書などの整備状況。 |
| 申込タイミング | 既存取引の清算時期、複数社への申込順序・日程の管理。 |
現在の契約内容・残高の確認
他社への申込を検討する際に、まず確認すべきなのが現在利用中のファクタリング契約の内容と残高です。
具体的には、基本契約書・個別契約書に記載されている「譲渡対象となる債権の範囲」「禁止されている行為(再譲渡・二重譲渡など)」「手数料・遅延損害金」「清算条件」などを整理します。
加えて、どの請求書がいくらで譲渡され、現在どれだけの残高が残っているか、いつまでに売掛先からの入金によって清算される予定かを一覧化することが必要です。
残高の確認は、ファクタリング会社からの残高明細や請求書、通帳の入金記録を突き合わせて行います。
清算が完了していない債権については、同じ請求書を別会社に譲渡することはできないため、新規申込の対象外と判断する必要があります。
また、契約によっては「他社のファクタリングや融資を利用する場合には事前承諾が必要」といった条項が設定されていることもあり、その有無の確認も重要です。
- 基本契約書・個別契約書で、譲渡対象債権の範囲と禁止事項を再確認する
- 残高明細と通帳を照合し、未清算の債権と清算済みの債権を区分する
- 他社利用や追加資金調達に関する条項の有無を確認し、条件を把握する
売掛先ごとの利用状況の整理
次に重要となるのが、売掛先ごとにどの請求書をどのファクタリング会社へ譲渡しているかを整理することです。
同一売掛先でも、締日や案件の違いにより複数の請求書が存在しますが、どの請求書が既に譲渡済みで、どの請求書が未利用なのかを明確にしておかないと、同一債権の二重譲渡リスクが高まります。
売掛先単位の管理表を作成し、「請求書番号・請求日・金額・譲渡先・清算予定日」等を一覧化することで、他社申込の対象として問題ない債権を抽出しやすくなります。
併せて、売掛先の支払実績や遅延履歴も、審査や利用可否に大きく影響します。
支払遅延が続いている売掛先の請求書は、他社でもリスクが高いと判断されるため、条件が厳しくなったり、取扱対象外とされたりする可能性があります。
他社申込前に、売掛先ごとの支払サイト・遅延状況・取引規模を整理し、どの売掛先の債権を優先的に資金化すべきかを検討することが実務上の安全策です。
- 請求書番号・請求日・金額・支払期日
- 譲渡先ファクタリング会社名と、譲渡済み/未利用の区分
- 売掛先の支払実績(遅延の有無・過去トラブルの有無)
必要書類と通帳記録の準備
他社へ新たに申込む際には、決算書や試算表、税務申告書、売掛先との基本契約書、請求書、入金が記載された通帳コピーなど、一定の書類提出が求められます。
他社利用中の場合、既存のファクタリング取引の契約書や通帳記録も確認対象となることが多く、申込前に内容を整理しておくことで審査をスムーズに進めやすくなります。
通帳記録では、売掛先からの入金とファクタリング会社への支払の流れがチェックされ、取引実態や資金繰りの状況が評価されます。
必要な書類が不足している、あるいは通帳の記録が分かりづらい場合、審査に時間がかかるだけでなく、取引実態への疑問につながることもあります。
そのため、他社申込前に必要書類のリストを作成し、直近数期分の決算書、直近数か月分の通帳コピー、対象売掛先の請求書一式などをあらかじめファイル化しておくことが望ましいです。
電子データで管理している場合も、提出形式(PDF・画像など)に合わせて整理しておくと、対応が円滑になります。
- 決算書・試算表・税務申告書など事業の実態が分かる資料
- 売掛先との契約書・対象請求書・納品書など、債権の根拠となる書類
- 売掛先からの入金とファクタリング会社への支払が確認できる通帳コピー
複数社への同時申込の進め方
複数のファクタリング会社へ同時に申込む場合、条件比較がしやすい反面、管理を誤ると同一債権の二重譲渡や情報不整合のリスクが高まります。
安全に進めるためには、事前に対象とする請求書を確定し、どの会社にどの債権で見積もりや審査を依頼したのかを一覧表で管理することが重要です。
また、申込書に「他社への申込状況」を記載する欄が設けられている場合は、事実に即した情報を記入する必要があります。
実務的な進め方としては、同じ請求書を複数社へ見積依頼する段階では、「契約前の見積」または「審査前相談」にとどめ、実際の契約締結は条件比較が完了したうえで1社に絞る方法が一般的です。
契約締結後に別会社と新たな契約を結ぶ場合は、対象とする請求書を入れ替えるなど、二重譲渡にならないよう管理します。
また、複数社からの問い合わせに対しては、決算内容や売掛先情報について一貫した説明を行うことが求められます。
- 同じ請求書を複数社と「契約」しないよう、見積段階と契約段階を分けて管理する
- 申込書の「他社申込状況」欄には、実態どおりの情報を記載する
- 対象債権・契約締結日・清算予定日を一覧化し、同一債権の二重譲渡を防ぐ管理体制を整える
まとめ
他社でファクタリングを利用中であっても、条件を満たせば別会社への申込や乗り換え・併用は可能です。
一方で、同一債権の二重譲渡や債権譲渡登記・売掛先通知の重複といった法的トラブルにつながるリスクも存在します。
現在の契約内容・残高や売掛先ごとの利用状況を整理し、手数料水準、入金スピード、買取上限額、審査で見られるポイントを客観的に把握することで、自社の資金繰りに適したファクタリングの活用方法を検討しやすくなります。
他社申込前には、契約条件・売掛先別の利用状況・必要書類・申込タイミングを事前に確認し、同一債権の二重譲渡を防ぐ管理体制を整えることが重要です。
そのうえで、複数社からの見積もり取得や売掛先ごとの使い分けを通じて、手数料負担と資金繰りリスクのバランスを取りながら、無理のない範囲でファクタリングを活用していくことが求められます。
























