ファクタリングと銀行融資は、どちらも資金調達の手段ですが、審査のポイント・コスト・資金化までのスピードが大きく異なります。
本記事では、銀行とノンバンクが扱うファクタリングの仕組み、三社間スキームの特徴、銀行融資との比較、赤字決算でも検討しやすい活用場面、安全なサービスの選び方までを整理し、自社に合う資金調達の判断材料を提供します。
銀行とファクタリング基礎
銀行融資とファクタリングは、いずれも企業の資金調達手段ですが、仕組みと決算書への影響が大きく異なります。
銀行融資は、銀行からお金を「借りる」取引であり、借入金という債務が発生します。
一方、ファクタリングは、売掛金(取引先に対する代金請求権)をファクタリング会社に「売却」して現金化する取引で、典型的な買取型では新たな借入金は発生しません。
銀行は、主に融資(貸出)を通じて企業の資金繰りを支え、金利や信用格付などを踏まえて長期的な取引関係を構築します。
これに対し、ファクタリング会社(銀行系・ノンバンク系)は、売掛債権の買取や保証を通じて「売掛金の早期回収」「貸倒リスクのヘッジ」を提供します。
両者は競合する部分もありますが、短期運転資金のギャップ解消はファクタリング、中長期の設備投資や運転資金は銀行融資、といったように役割分担されることも多いです。
| 項目 | 銀行とファクタリングの違いイメージ |
|---|---|
| 資金の性質 | 銀行:借入金(債務)/ファクタリング:売掛金の売却(債権の現金化) |
| 利用目的 | 銀行:中長期の運転・設備資金/ファクタリング:売掛金の早期回収・資金繰り調整 |
| 審査の主眼 | 銀行:自社の財務・担保・返済能力/ファクタリング:売掛先の信用力・債権の実在性 |
ファクタリング取引の基本
ファクタリングは、企業(利用者)が保有する売掛金を、支払期日前にファクタリング会社へ譲渡し、その対価として現金を受け取る取引です。
請求書額面から手数料を差し引いた金額が入金され、その割合を「買取率」(請求書額面に対する支払い割合)と呼びます。
例えば、請求書額が300万円、手数料率5%の場合、買取率は95%で、入金額は285万円となります。
スキームとしては、売掛先を巻き込まない「2社間ファクタリング」と、売掛先も含めた「3社間ファクタリング」が代表的です。
2社間では、売掛先はこれまでどおり利用者に支払い、利用者がファクタリング会社に精算します。3社間では、売掛先が支払先をファクタリング会社へ変更し、売掛金が直接ファクタリング会社に支払われます。
一般に、3社間の方が回収リスクが低いため手数料は低め、2社間は売掛先に知られず利用できる反面、手数料は高めになる傾向があります。
- 売掛金を「前倒しで現金化」する取引で、基本は債権の売買
- 2社間か3社間かによって、売掛先への通知・手数料水準が異なる
- 銀行融資のような元本返済ではなく、売掛金の入金で精算する仕組み
銀行融資スキームの基礎概要
銀行融資は、銀行が企業に対して資金を貸し付け、企業が元本と利息を返済していく取引です。代表的なものに、運転資金・設備資金の「証書貸付」、必要なときに借り入れと返済を繰り返せる「当座貸越」、短期資金向けの「手形貸付」などがあります。
いずれも、契約書(借入証書)に基づいて返済条件(返済期間・金利・返済方法)が定められ、借入金は貸借対照表上の「負債」として計上されます。
銀行融資の審査では、決算書や試算表による財務内容、資金繰り計画、担保(不動産・保証協会保証など)の有無、代表者の経歴や事業の将来性などが総合的に判断されます。
赤字決算や債務超過が続いている企業、税金・社会保険料の滞納がある企業の場合、新規融資や追加融資のハードルは高くなりやすく、一方で財務内容が安定している企業に対しては、低金利での長期資金を供給する役割も担っています。
- 契約に基づき元本と利息を返済する「借入」であり、負債として計上される
- 財務内容・担保・事業計画など、企業側の信用力が審査の中心
- 中長期の運転資金・設備投資など、長めの資金需要に向きやすい
銀行系ファクタリングの位置付け
ファクタリングは、もともと銀行や信託銀行などが大企業間取引を対象に提供してきた歴史があり、現在も銀行グループが提供する「銀行系ファクタリング」が存在します。
銀行系ファクタリングの多くは、取引先にも通知する3社間スキームで、一定規模以上の売掛債権を対象とし、大企業や安定した売掛先を前提とした商品設計がなされていることが一般的です。
銀行系の強みは、売掛先の信用調査や回収ノウハウを既存の銀行業務と連携して活用できる点、信用度の高い取引先との間で大口債権を扱える点などです。
一方で、申込条件(最低利用額・対象業種・売掛先の格付けなど)が厳しめに設定されていることも多く、中小企業や少額債権では利用しにくいケースがあります。
また、銀行本体でなく、銀行が提携するファクタリング会社(ノンバンク)を紹介する「提携型」もあり、この場合はサービス提供者・手数料体系・審査ポリシーが銀行とは異なる点に注意が必要です。
- 主に3社間・大口債権・信用力の高い売掛先を対象とすることが多い
- 銀行グループの信用力・調査力を活かしたサービス設計がされている
- 中小企業・少額案件向けには、ノンバンク系やクラウド型の方が選択肢が多い場合もある
資金調達手段としての位置付け
資金調達全体の中で、銀行融資とファクタリングをどう位置付けるかは、資金の「目的」と「期間」によって整理すると分かりやすくなります。
銀行融資は、設備投資・人員増強・新規事業など、複数年にわたる回収を前提とした資金需要に対応しやすく、元本返済と利息支払いを通じて計画的に返済していくイメージです。
一方でファクタリングは、売掛金の入金タイミングを前倒しする短期資金調達の性格が強く、「今月の支払に必要な運転資金」「長い入金サイトを埋めるためのつなぎ資金」といった用途に向いています。
実務上は、「長期的に必要な資金」は銀行融資やリース・出資などで賄い、「単発案件や繁忙期の資金ギャップ」はファクタリングで補う、といった役割分担が現実的です。
銀行融資が難しい局面でも、売掛先の信用力と債権の実在性がしっかりしていれば、ファクタリングという選択肢が残ることがありますが、手数料負担が利益を圧迫し過ぎない範囲にとどめることが条件となります。
- 中長期資金:銀行融資・リース・出資などを基本ラインに検討する
- 短期資金ギャップ:ファクタリングや当座貸越などで機動的に対応する
- 「コスト・期間・債務負担」の3軸で、自社にとっての適切な組み合わせを考える
銀行系ファクタリング特徴
銀行系ファクタリングは、銀行または銀行グループ会社が提供するファクタリングサービスの総称です。
一般的に、売掛先も含めた三者間ファクタリングを中心に取り扱い、売掛先が一定規模以上の企業であることや、継続的な取引があることなどを前提とした商品設計になっているケースが多く見られます。
銀行の信用力と与信ノウハウを背景に、売掛債権の買取や保証を通じて、利用企業の資金繰り安定と与信管理の強化に貢献する位置付けです。
一方で、審査は銀行融資と同様に慎重に行われるため、ノンバンク系ファクタリングに比べると手続きに時間がかかる傾向があり、少額・即日資金化にはあまり向きません。
手数料水準は、三者間スキームを前提とすることから相対的に低めに抑えられますが、最低利用金額や対象となる売掛先の条件が設けられていることも多く、「ある程度の売上規模があり、売掛先も信用力が高い企業」であるほど利用しやすいと言えます。
| 項目 | 銀行系ファクタリングの傾向 |
|---|---|
| スキーム | 三者間ファクタリング中心、売掛先への通知・承諾が前提 |
| 対象 | 大企業・安定した売掛先との継続取引、大口債権が多い |
| 手数料 | 三者間相場(概ね1〜9%程度)のレンジに収まることが多い |
| スピード | 審査・売掛先承諾に時間がかかり、即日対応には向きにくい |
銀行系三社間ファクタリング概要
銀行系ファクタリングの多くは、いわゆる「三社間ファクタリング」です。三社間とは、利用企業(債権の売り手)、売掛先企業(商品・サービスの買い手)、ファクタリング会社(債権の買い手)の3者が関わるスキームを指します。
具体的には、利用企業が売掛金を銀行系ファクタリング会社へ譲渡し、売掛先に対して「今後はファクタリング会社に支払ってください」という通知・承諾が行われます。
支払期日が来ると、売掛先はファクタリング会社に代金を支払い、利用企業は支払期日前に手数料控除後の金額を受け取る形です。
銀行系の場合、三社間スキームを採用することで、売掛先への直接確認が可能になり、架空債権・二重譲渡・売掛先不払いといったリスクを低減しやすくなります。
その代わり、売掛先の承諾取得と信用調査が不可欠となるため、申込から資金化までに数日〜数週間を要するケースが一般的です。
短期の「今日中に資金が必要」というニーズよりも、「一定の準備期間を前提に、手数料を抑えて売掛金を現金化したい」というニーズに適しています。
- 売掛先への通知・承諾が前提の三者間スキームが基本
- 売掛先の信用調査が行われるため、架空債権・二重譲渡リスクを抑えやすい
- 資金化までのスピードよりも、手数料水準や信用力を重視する場面に向いている
銀行系手数料水準と利用金額目安
三者間ファクタリング全体の手数料相場は、一般的に1〜9%程度とされており、二者間ファクタリングの10〜20%前後と比べると低めです。
銀行系ファクタリングは、この三者間スキームを前提にしていることが多く、売掛先の信用力が高いほど手数料率が低く抑えられる傾向があります。
たとえば、信用格付の高い大企業や官公庁向けの売掛金であれば、数%台前半の料金が提示されるケースもあります。
一方、売掛先の信用力が相対的に低い場合や取引実績が浅い場合は、リスクを反映して手数料率が高めに設定されることもあります。
利用金額については、銀行系ファクタリングでは「一定以上の規模」を条件とする商品が多く、数千万円〜数億円単位の売掛金を対象とするケースが目立ちます。
保証型ファクタリング(売掛金保証)では、保証金額の下限が数千万円とされている例もあり、「少額の売掛金をこまめに資金化したい」というニーズとはやや相性が良くありません。
その一方で、大口債権を安定的にファクタリングしたい企業にとっては、銀行系の信用力と手数料水準のバランスが魅力となり得ます。
- 三社間相場(概ね1〜9%)のレンジで、売掛先の信用力に応じて設定される
- 保証型では保証金額の下限が数千万円以上とされる商品も多い
- 小口・少額よりも、一定規模以上の売掛金をまとめて扱う場面に向いている
高額債権対応と大企業取引の実務
銀行系ファクタリングが力を発揮しやすいのは、「高額債権」や「大企業との取引」に関するケースです。
メガバンクや大手銀行グループは、国内外の大企業との取引実績や信用情報を幅広く保有しており、売掛先が上場企業・大企業・官公庁などの場合、その信用リスクを精度高く評価できます。
その結果、数千万円〜数億円規模の売掛債権であっても、適切な保証や買取スキームを設計しやすく、大口案件でも手数料を比較的低水準に抑えた取扱いが可能になります。
また、銀行系では「保証型ファクタリング(売掛金保証)」や、「でんさい(電子記録債権)を活用した一括ファクタリング」「下請債権保全支援事業」など、制度・インフラと組み合わせたスキームも提供されています。
これらは、売掛先が倒産した場合の貸倒リスクヘッジや、工事代金・下請債権の保全などを目的としており、単なる資金調達を超えて、与信管理・決済合理化といった機能も併せ持つのが特徴です。
中堅〜大企業がサプライチェーン全体の資金フローを安定させる手段として活用するケースも見られます。
- 大企業・官公庁など、信用力の高い売掛先向け大口債権と相性が良い
- 保証型やでんさい活用型など、与信管理・決済合理化も含めたスキームがある
- サプライチェーン全体の資金フロー安定化策として位置付けられることが多い
少額取引とスピード面の課題整理
銀行系ファクタリングには強みがある一方で、「少額取引」と「スピード」の面では課題もあります。
まず、対象となる売掛金の金額や売掛先の条件に下限が設定されていることが多く、数十万円〜数百万円程度の小口債権をスポットで資金化したい中小企業には利用しづらい場合があります。
また、三社間スキームであるため、売掛先の承諾取得と与信調査が必須となり、申込から契約・資金化までに一定の時間がかかります。
一般的には数日〜数週間を見込む必要があり、「即日〜数日以内に資金が必要」というニーズには応えにくいのが実情です。
これに対し、ノンバンク系や独立系の二社間ファクタリングは、売掛先の承諾が不要で、利用者の書類提出と自社審査だけで資金化できるため、最短即日入金に対応するサービスもあります。
その代わり、売掛先と利用者の両方の信用リスクを負うことになり、手数料率は銀行系三社間より高くなる傾向があります。
中小企業が資金調達の選択肢を検討する際には、「金額規模」「必要なスピード」「許容できるコスト」を踏まえ、銀行系ファクタリング・ノンバンク系ファクタリング・銀行融資などを組み合わせて考えることが重要です。
- 銀行系ファクタリングは、少額・即日資金化には向きにくい
- 三社間ゆえに売掛先承諾と与信調査が必要で、資金化まで時間を要する
- 小口・緊急資金ニーズには、二社間ファクタリングや他の手段との比較検討が不可欠
銀行融資とファクタリング比較
銀行融資とファクタリングは、どちらも企業の資金調達手段ですが、「何を基準に審査するか」「どのくらいのスピードで資金化できるか」「決算書上どう見えるか」が大きく異なります。
銀行融資は、企業の財務内容や返済能力、担保・保証の有無を中心に判断し、借入金として負債を増やすスキームです。
一方、ファクタリングは、売掛債権の実在性と売掛先の信用力を軸に審査し、売掛金の早期回収という形で資金化するスキームです。
そのため、「長期的な運転資金・設備投資」には銀行融資が向きやすく、「売掛金の入金タイミングの調整」にはファクタリングが向く場面が多くなります。
一方で、赤字決算や債務超過などで銀行融資が難しいケースでは、売掛先の信用力が高い場合に限り、ファクタリングが選択肢になることもあります。
ただし、ファクタリングは手数料という形で利益を削るため、短期資金のギャップ調整にとどめ、中長期的な資金需要は銀行融資や自己資本の強化などと組み合わせて検討することが重要です。
| 比較項目 | 銀行融資とファクタリングの違い(概要) |
|---|---|
| 審査対象 | 銀行融資:企業の財務・担保・返済能力/ファクタリング:売掛先の信用・売掛債権の内容 |
| 資金化スピード | 銀行融資:数週間〜数か月が目安/ファクタリング:数日〜数週間が目安 |
| 会計処理 | 銀行融資:借入金として負債計上/ファクタリング:売掛金の消滅+手数料費用が基本 |
審査項目と必要書類の主な違い
銀行融資の審査では、企業そのものの信用力と返済能力が中心となります。
具体的には、直近数期分の決算書、試算表、資金繰り表、税務申告書、事業計画書、担保に関する資料(不動産登記簿など)、代表者個人の資産・収入状況などが求められます。
銀行は、これらの情報を基に、返済原資となるキャッシュフロー、自己資本の厚み、債務比率、担保価値などを総合的に判断し、「いくらまで、どの条件で貸せるか」を決めます。
一方、ファクタリングの審査では、利用者の財務内容も見られますが、それ以上に重視されるのが「売掛先の信用力」と「売掛債権の実在性」です。
提出書類としては、対象となる請求書・納品書・注文書・契約書、対象売掛金の入出金が分かる通帳や入金明細、売掛先との取引実績が分かる資料、利用者の決算書・確定申告書などが一般的です。
銀行系の三社間ファクタリングでは、売掛先への通知・承諾が行われるため、売掛先の審査・信用調査もセットで行われます。
利用者側から見ると、「自社の決算が悪くても、売掛先が安定していればファクタリングの審査に通る可能性がある」という点はメリットですが、逆に売掛先の信用状態が悪い場合は、決算が良くても利用できないことがあります。
審査の軸が「自社中心の銀行」と「売掛先中心のファクタリング」で異なることを理解しておくと、どの手段を選ぶべきか整理しやすくなります。
- 銀行融資:自社の財務・担保・事業計画が主な審査対象
- ファクタリング:売掛先の信用力と売掛債権の実在性が審査の中心
- 必要書類も「決算書中心」か「請求書・取引資料中心」かで大きく異なる
調達スピードと柔軟性の比較
資金調達のスピードと柔軟性は、銀行融資とファクタリングの大きな違いの一つです。銀行融資は、融資稟議や審査、担保評価、内部決裁などのプロセスを踏むため、新規融資や条件変更には数週間〜数か月を要することが一般的です。
その分、実行後は安定した資金枠や返済スケジュールが得られ、中長期の計画を立てやすいというメリットがあります。
一方で、「急に大口の発注が来た」「税金の支払期限が迫っている」といった突発的な資金ニーズには間に合わないことも多くなります。
ファクタリングは、売掛債権の内容と売掛先の信用力を中心に判断するため、初回でも数日〜数週間程度、2回目以降は書類の省略によりさらに短縮されることがあります。
特にノンバンク系の二社間ファクタリングでは、「最短即日」「翌営業日」など、短期での資金化を前提とした商品も存在します。
ただし、その分手数料は高めに設定され、継続利用するとコスト負担が蓄積する点に注意が必要です。
柔軟性という観点では、銀行融資は一度枠が設定されれば、その範囲内で繰り返し利用できる当座貸越などが便利な反面、新規枠の追加や条件変更は慎重な審査が必要になります。
ファクタリングは、売掛金の発生状況に応じて案件ごとに利用額を決められますが、「売掛金がなければ利用できない」「売掛先の信用悪化で突然利用できなくなる」などの制約もあります。
- 銀行融資:実行まで時間はかかるが、枠設定後は安定した資金源になりやすい
- ファクタリング:資金化は早いが、売掛金と売掛先の状況に利用が左右される
- 「緊急度」と「安定性」のバランスで、どちらを使うか判断する
コスト負担と会計処理の違い
銀行融資のコストは、基本的に「利息」で表現されます。利息は年〇%といった金利で示され、借入残高に応じて日割りで計算されます。
たとえば、1,000万円を年2%で借りた場合、年間の利息は約20万円となります(実際には返済による元本減少を反映)。
決算書上は、借入金が負債として計上され、利息は「支払利息」などの営業外費用として処理されます。
ファクタリングのコストは、「手数料」として一括で差し引かれます。請求書額面300万円、手数料率5%なら、手数料は15万円で、入金額は285万円です。
期間が1か月でも3か月でも、手数料率が同じであれば差し引かれる金額は同じですが、利用期間が短いほど年換算の実質負担率は高くなります。
会計上は、売掛金の帳簿価額と受取額の差額を「ファクタリング手数料」「支払手数料」「債権売却損」などで費用計上し、売掛金は消滅するのが典型的なパターンです(実質が借入に近いスキームは別途検討が必要)。
このため、銀行融資とファクタリングのコストを比べる際には、「利息率」と「手数料率」をそのまま並べるだけでなく、「実際の利用期間」と「資金調達額」に対する負担を年率ベースで概算することが重要です。
短期間であればあるほど、同じ手数料率でも実質コストは高くなります。一方で、銀行融資は長期間にわたり利息を支払い続けるため、「どのくらいの期間資金を必要とするのか」を踏まえて比較する必要があります。
- 銀行融資:借入金(負債)+支払利息(営業外費用)
- ファクタリング:売掛金の消滅+手数料(支払手数料・債権売却損など)
- 利息率と手数料率は、利用期間と資金額を揃えたうえで年率換算して比較する
資金ニーズ別の向き不向き
銀行融資とファクタリングは、それぞれ得意な資金ニーズの領域が異なります。銀行融資は、店舗の新設・増改築、設備投資、人員増強、事業拡大に伴う運転資金など、「複数年にわたって回収していく投資型の資金需要」に向いています。
返済期間を数年〜十数年に設定できるため、大きな投資でも月々の返済額を抑えながら計画的に返済していくことが可能です。
ただし、財務内容や担保条件が厳しく、赤字や債務超過が続いている企業には新規融資が難しい場合もあります。
ファクタリングは、「既に売上計上済みだが、入金まで時間がある売掛金」を前提とするため、「短期的な資金ギャップの解消」に適しています。
例えば、検収後60日サイトの工事代金、月末締め翌々月末払いの取引など、売掛金の入金が遅い取引で発生する資金ショートに対して、前倒しで資金を確保する使い方です。
また、銀行融資が難しい状況でも、売掛先が安定していれば利用の余地が残る点も特徴です。ただし、継続的に利用すると手数料負担で利益が圧迫されるため、「一時的なギャップ調整」にとどめることが前提となります。
- 中長期の投資・増員・設備導入:銀行融資・リース・出資が基本
- 売掛金の入金サイトに伴う一時的な資金ショート:ファクタリングが有力候補
- 銀行融資が難しい場合でも、売掛先が安定していればファクタリングが選択肢になり得るが、依存は避ける
銀行融資が難しい会社の選択肢
銀行融資が難しい局面でも、資金調達の選択肢がゼロになるわけではありません。
銀行は、過去数期の決算や自己資本比率、返済実績、税金・社会保険料の納付状況などを重視するため、赤字決算や債務超過が続いている企業、多数の借入が重なっている企業では、新規融資やプロパー融資のハードルが高くなりがちです。
一方で「売掛先の信用力」や「取引の実在性」を重視するファクタリングや、銀行が紹介するクラウド型ファクタリング、ノンバンク系のファクタリング・ビジネスローンなど、性質の異なる手段を組み合わせることで、当面の資金ショートを回避できる場合があります。
ただし、これらはあくまで「一時的な資金ギャップを埋める」ための手段であり、赤字や債務過多といった構造的な課題を解決するものではありません。
特にファクタリングは、売掛金を前倒しで回収する代わりに手数料として利益を削る仕組みのため、乱用すると長期的には財務体質の悪化を招きます。
銀行との関係を維持しながら、クラウドファクタリングやノンバンク系サービスを補完的に使い、同時にコスト削減や事業整理、必要に応じて専門家と進める再建策を組み合わせることが重要です。
| 選択肢 | 位置付けのイメージ |
|---|---|
| ファクタリング | 売掛金を前倒しで資金化。短期の資金ギャップ対応が中心。 |
| 銀行紹介型クラウド | 銀行が提携サービスを紹介。データ連携等で審査を効率化。 |
| ノンバンク系 | スピード重視のファクタリング・ローン。コストとリスクの見極めが重要。 |
| 再建・債務整理 | 根本的な財務改善。専門家と再生計画・条件変更を検討。 |
赤字決算企業とファクタリング活用
赤字決算や債務超過の企業にとって、銀行融資の新規実行や増額は厳しくなる一方で、ファクタリングは条件次第で利用余地が残る場合があります。
ファクタリングは、自社の財務内容に加え「売掛先の信用力」と「売掛債権の実在性」を重視するため、売掛先が大企業や官公庁など信用力の高い相手であり、過去に支払遅延が少ない場合、利用者が赤字であっても取引が成立するケースがあります。
また、在庫や設備ではなく「既に発生している売掛金」を対象とするため、案件単位で必要額を前倒しできる柔軟性もあります。
一方で、赤字だからといってファクタリングが万能というわけではありません。手数料は「売掛金を現金に変えるためのコスト」であり、継続的に利用すれば利益を圧迫し、自己資本を削る結果につながります。
赤字の原因が一時的な投資や大型案件への対応であり、今後の収益で挽回できる見込みがあるのか、それとも構造的な収益性の問題なのかによって、ファクタリングの位置付けは大きく変わります。
後者の場合、ファクタリングで延命を図るより、事業の縮小・再編や債務整理など抜本的な対策を優先すべき局面も少なくありません。
- 売掛先の信用力・支払実績がしっかりしているかを確認する
- 利用目的を「一時的な資金ショートの解消」に明確に限定する
- 手数料負担が中長期の収益・自己資本に与える影響を試算する
- 必要に応じて、専門家と再建計画やコスト削減策を並行して検討する
銀行紹介型クラウドファクタリング
近年、銀行が自らファクタリングを提供するだけでなく、「提携しているクラウドファクタリングサービス」を紹介するケースも増えています。
クラウドファクタリングとは、オンライン上で申込・審査・契約・入金まで完結できるスキームで、請求書や通帳データ、会計ソフトのデータ連携などを活用して審査を効率化しているサービスを指します。
銀行紹介型の場合、銀行が取引先企業に対して、自行が提携するクラウド事業者を紹介し、必要に応じてデータ連携や情報提供に協力する形が一般的です。
銀行紹介型のメリットは、①紹介の出所が銀行であるため、利用者にとって安心感がある、②銀行側も取引先の資金繰りを支えるための一手段として位置付けており、融資と競合しない範囲で活用しやすい、③オンライン手続きにより、ノンバンク系ファクタリングよりも審査プロセスが透明化されやすい、という点です。
一方で、手数料水準や最低利用額、対象となる売掛先の条件はクラウド事業者ごとに異なるため、「銀行の紹介だから必ず有利」と決めつけず、自社で条件を比較・確認する姿勢が必要です。
- 紹介元が自社のメインバンクか、どの程度関係性がある銀行か
- クラウド事業者の手数料・利用額・対象売掛先条件を他社と比較する
- 銀行とのデータ連携に伴う情報の扱い(プライバシー・セキュリティ)を確認する
- 融資との併用方針(どの場面でクラウドを使い、どこから融資で対応するか)を整理する
ノンバンク系サービスとの組み合わせ
ノンバンク系のファクタリング会社やオンライン専業の事業者は、銀行に比べて審査の柔軟性とスピードを重視した商品設計になっていることが多く、赤字決算・債務超過・担保不足といった企業でも、売掛先と債権内容がしっかりしていれば利用できる余地があります。
また、二社間ファクタリングを中心に、最短即日入金や少額債権への対応など、銀行系が苦手とする領域をカバーしている点も特徴です。
ただし、ノンバンク系サービスは、銀行系三社間と比べて手数料水準が高くなりがちであり、偽装ファクタリングや過度な買戻義務・個人保証を求めるスキームが混在している点に注意が必要です。
安全に組み合わせるためには、①クラウド型や銀行紹介型など透明性の高いサービスを優先する、②協会加盟状況や公的な注意喚起情報を確認する、③「常に同じ会社に頼らない」のではなく、複数社から見積もりを取得して条件比較を行う、といったスタンスが重要になります。
- スピードと柔軟性のメリットと、手数料・リスクのデメリットをセットで把握する
- 協会加盟状況・会社概要・契約条項(リコース・保証)を必ず確認する
- 銀行系・クラウド型・ノンバンク系を「場面ごと」に使い分け、単一サービスへの依存を避ける
銀行取引を悪化させない利用姿勢
銀行融資が難しいからといって、銀行に何も伝えずにファクタリングやノンバンク系サービスを多用すると、後に銀行との関係が悪化するリスクがあります。
例えば、銀行融資契約には「主要債権の譲渡や担保設定には事前承諾が必要」といった財務制限条項が含まれていることがあり、これに反して売掛金を譲渡すると契約違反とみなされるおそれがあります。
また、決算書を提出した際に、ファクタリング手数料の急増や売掛金の急減が見られれば、「資金繰りが悪化している」「情報共有が足りない」と判断される可能性もあります。
銀行との関係を悪化させないためには、①ファクタリングの利用状況や目的を、メインバンクに適切な範囲で共有しておく、②契約条項(譲渡禁止・財務制限)の内容を事前に確認し、抵触しないようなスキームを選ぶ、③ファクタリングを一時的な資金繰り対策として位置付け、中長期的な改善策(コスト削減・収益性改善・資本増強など)を銀行と共有しながら進める、という姿勢が重要です。
銀行に対して「隠れた債務」や「過度な手数料負担」を後出しするのではなく、透明性のある情報開示と再建方針の共有が、長期的な取引継続につながります。
- 融資契約の条項(債権譲渡制限・財務制限)を確認し、違反しないスキームを選ぶ
- ファクタリング利用の目的と期間をメインバンクと共有し、隠さない
- 短期の資金対策だけでなく、中長期の改善計画を銀行と一緒に検討する
安全な銀行ファクタリング選び方
安全に銀行系ファクタリングを利用するには、「銀行が自ら提供している商品なのか」「銀行が提携先として紹介しているノンバンクなのか」「そのサービスが業界のガイドラインや公的な注意喚起に反していないか」を冷静に見極めることが大切です。
銀行ブランドが前面に出ているサービスでも、実際の契約主体はグループ外のファクタリング会社というケースがあり、手数料水準や契約条件、トラブル時の窓口などは銀行融資とまったく異なります。
さらに、銀行側の融資契約には債権譲渡制限や財務制限条項が含まれていることも多く、売掛金を譲渡することで融資契約上の義務違反にならないかも確認しておく必要があります。
この章では、まず銀行窓口での確認ポイントと提携ファクタリングの構造、次に協会加盟状況や公的な注意喚起情報の調べ方、さらに複数サービスの手数料・スキーム比較の考え方、最後に将来の銀行融資・取引関係への影響を踏まえた使い方の基本姿勢を整理します。
銀行系ファクタリングだからといって無条件に安全と考えるのではなく、「誰とどんな契約を結ぶのか」「自社の財務と銀行との関係にどう響くのか」をセットで確認していくことが、長期的なリスクを抑えるポイントです。
| 確認軸 | 主な確認内容 |
|---|---|
| 契約主体 | 銀行本体か、銀行子会社か、外部提携ノンバンクか |
| 条件 | 手数料・利用金額・対象売掛先・スキーム(2社間/3社間) |
| 安全性 | 協会加盟状況、公的注意喚起との整合性、契約条項の内容 |
| 銀行との関係 | 融資契約との整合性、将来の融資姿勢への影響 |
銀行窓口と提携ファクタリング確認
銀行系ファクタリングを検討する場合、最初のステップは「そのサービスが銀行の自社商品なのか、提携先紹介なのか」を窓口で確認することです。
自社商品であれば、契約主体は銀行または銀行グループ会社となり、手数料や取引条件も銀行側の基準に基づいて運用されます。
一方、提携型の場合は、銀行はあくまで紹介にとどまり、実際の契約相手は外部のファクタリング会社になります。
申込窓口は銀行でも、審査方針・手数料水準・トラブル時の対応は提携先のルールに従うことになるため、「銀行商品と同じ感覚」で捉えるとギャップが生じやすくなります。
窓口では、「このサービスの契約相手はどこか」「支払いや問い合わせはどこに行うのか」「銀行との情報連携の範囲(売上・残高・入出金情報など)はどうなっているか」を具体的に確認しておくと安心です。
また、既存の融資契約書に債権譲渡制限や財務制限条項が含まれている場合、売掛金を譲渡するスキームが問題にならないかどうかも重要な論点です。
メインバンクに相談しているのであれば、「どの程度までのファクタリング利用なら契約上・与信上問題にならないか」を早めに共有しておくと、後のトラブルを避けやすくなります。
- 契約主体が銀行本体か、子会社か、提携ノンバンクか
- 料金や条件の決定権が銀行側と提携先のどちらにあるか
- 既存の融資契約条項(債権譲渡制限・財務制限)との関係
- 銀行と提携先との情報連携範囲(どのデータが共有されるか)
協会加盟状況と公的情報の確認手順
サービスの安全性を確認するうえで、「業界団体(協会)への加盟状況」と「行政・公的機関の注意喚起と矛盾しないか」を押さえておくことが重要です。
銀行グループ会社や提携ノンバンクであっても、ファクタリング業界の協会(オンライン型ファクタリング協会、日本ファクタリング業適正化協会、ファクタリング事業推進協会など)の会員となっている場合があり、協会サイトの会員一覧から社名・所在地・会員種別を確認できます。
ここで社名が見つかれば、少なくとも協会のガイドラインや行動基準に従うことが前提となっていると判断できます。
さらに、公的機関(金融行政・消費生活関連機関など)が発信している「注意喚起」の内容とも照らし合わせます。
たとえば、給与ファクタリングや実質高金利の偽装ファクタリングなど、貸金業法上問題となるスキームに該当していないか、手数料や償還義務の設定が公的な警鐘と矛盾していないかを確認します。
これらの情報は、個別サービスの規約を読む際の「ものさし」として活用できます。「銀行系だから安全」と考えるのではなく、「協会・行政が示す基準と比べてどうか」という観点を持つことで、過度な条件のサービスを避けやすくなります。
- 協会公式サイトの会員一覧から、銀行子会社・提携先の社名を確認する
- 協会ガイドラインやQ&Aに目を通し、望ましい手数料表示・契約のあり方を把握する
- 行政の注意喚起(偽装ファクタリング・給与ファクタリング等)の内容と照らし合わせる
- サービス条件が、これらの基準から大きく外れていないかをチェックする
手数料条件とサービス内容の比較
銀行系・提携型を含むファクタリングサービスを比較する際は、「手数料率だけ」に注目するのではなく、「総支払額」と「実際の入金額」を軸に条件を並べることが大切です。
三社間ファクタリングの手数料相場は概ね数%〜1桁台とされていますが、サービスによっては最低手数料や事務手数料、振込手数料などが別途設定されていることがあります。
請求書額面300万円、手数料率3%、事務手数料3万円、振込手数料1,000円といった条件であれば、実際の入金額は300万円−9万円−3万円−1,000円=288万9,000円となり、名目の3%より実質負担は重くなります。
同時に、「どのスキームで、どの範囲まで対応しているか」も比較の重要ポイントです。銀行系三社間ファクタリングは、大企業向け売掛金・高額債権に強い一方、少額・短期の案件には向きにくい傾向があります。
提携クラウド型は、オンライン完結や少額対応に強みがあるものの、ノンバンク系に近いスキームを採る場合もあるため、実質の条件を確認する必要があります。
各社の見積りを同一条件(請求書額面・売掛先・入金予定日)で揃え、「入金額」「手数料総額」「入金予定日」「必要書類・手続きの手間」を表形式で比較すると、自社にとってのコストと利便性のバランスが見えやすくなります。
- 手数料率だけでなく、最低手数料・事務手数料・振込手数料を含めた「総支払額」で比較する
- 同じ請求書額・売掛先・入金日を前提に複数社から見積りを取り、「実際の入金額」を一覧化する
- 三社間・二社間・保証型など、スキームの違いと自社ニーズ(売掛先への通知可否)を照らし合わせる
- 手続きの手間やサポート体制も、単なる金額だけでなく評価に含める
将来の銀行融資への影響を意識
銀行系ファクタリングを含め、どのようなファクタリングを利用する場合でも、「将来の銀行融資・銀行との関係にどう影響するか」を意識しておくことが欠かせません。
ファクタリングの利用自体は、必ずしもマイナス評価になるわけではなく、「入金サイトが長い取引に対する合理的な資金繰り手段」として理解されるケースもあります。
一方で、決算書におけるファクタリング手数料の急増、売掛金残高の不自然な減少、短期借入金の増加などが同時に見られると、「慢性的な資金不足」「ファクタリング依存」と判断されるリスクもあります。
メインバンクとの関係を維持・改善したい場合は、①ファクタリングを使う理由(特定案件の入金サイトが長い、急な大型受注があった等)と期間を説明できるようにしておく、②将来的には銀行融資やリース、自己資本強化などに切り替えていく方針を共有する、③ファクタリング手数料を含めた資金繰り計画・収益計画を提示し、無理のない範囲で活用していることを示す、といった姿勢が重要です。
「融資が出ないから隠れてファクタリングを使う」のではなく、「どのように組み合わせて再建していくか」を銀行と共通認識にすることが、長期的な信頼関係と追加融資の余地につながります。
- ファクタリング利用の目的・期間・金額規模を明確にし、決算書でも説明可能な形にする
- 資金繰り表にファクタリング利用を反映させ、手数料の影響を銀行と共有する
- 中長期的には銀行融資や資本強化にシフトしていく計画を持ち、依存状態を避ける
まとめ
本記事では、銀行融資とファクタリングの基本構造、銀行系ファクタリングの特徴、審査・手数料・スピードの違い、赤字決算企業でも検討しやすい活用パターンを整理しました。
あわせて、協会情報や公的な注意喚起を使った事業者チェック、銀行との関係を悪化させない利用姿勢、依存を防ぐルール作りの重要性も解説しました。
資金繰りの緊急度と将来の財務への影響を比較しながら、銀行融資とファクタリングを組み合わせて無理のない資金調達計画を検討することが大切です。























