「ファクタリングを申し込んだのに審査が通らない…」と感じている企業は少なくありません。ファクタリングは銀行融資が難しい場面でも利用しやすい資金調達手段ですが、一定の審査基準を満たさないと利用できません。
この記事では、ファクタリング審査の基本、審査に通らない主な理由、売掛先・売掛金のチェックポイント、銀行融資NG時の対策、審査落ち後の対応までを体系的に整理します。
どこに問題があるのかを客観的に確認し、通過の可能性を高めつつ、安全な資金調達につなげるための整理に役立てることができます。
ファクタリング審査の基本
ファクタリングは、事業者が持つ売掛債権(掛取引で発生した請求書の回収する権利)をファクタリング会社に譲渡し、支払期日より前に資金化する取引です。
融資と異なり、返済義務の中心は取引先の支払い能力にあり、担保や代表者保証を求めないケースが多いことが特徴です。
その一方で、売掛債権が確実に回収できるかどうかを判断するため、独自の審査が行われます。
一般的に審査の基本構造は、
- 売掛先(取引先)の信用力
- 売掛金(請求書)の内容と回収可能性
- 利用者(申込企業)の信頼性や取引実態
の三つを組み合わせて評価する形になります。売掛先の経営状態、支払遅延の有無、取引年数、請求書の記載内容、契約書や注文書との整合性、税金・社会保険の納付状況などが、総合的に確認されます。
また、ファクタリングには、取引先に知られない「二社間ファクタリング」と、取引先も契約に参加する「三社間ファクタリング」があり、仕組みとリスクの違いから審査の着眼点や手数料水準も変わります。
審査が通らない場合、多くはこの三つの軸のどこかにリスク要因があるため、自社と売掛先・売掛金の状況を分けて整理することが重要です。
ファクタリング取引の全体像
ファクタリングの全体像を知っておくと、どこで審査が行われ、どこで不備が出やすいかを把握しやすくなります。典型的な取引の流れは次のようなイメージです。
- 売掛債権が発生(取引先に商品・サービスを提供し、請求書を発行)
- ファクタリング会社へ申込(申込書、請求書、契約書、決算書などを提出)
- ファクタリング会社による審査(売掛先・売掛金・申込企業の三つの観点)
- 審査通過後に契約締結(基本契約書・個別契約書の締結、必要に応じて債権譲渡登記や売掛先への通知)
- ファクタリング会社から申込企業へ入金(請求額面から手数料を差し引いた金額)
- 支払期日に売掛先が支払い(そのままファクタリング会社へ、または申込企業が受領して精算)
二社間の場合は、売掛先からの入金をいったん申込企業が受け取り、その後ファクタリング会社に支払う形が多く、三社間の場合は売掛先からファクタリング会社へ直接支払われます。
いずれの場合も、請求書の内容と実際の取引が一致しているか、売掛先が実在し事業実態があるか、といった点が審査で厳密に確認されます。
- 売掛債権がどの時点で発生し、いつ資金化されるかを把握する
- どの書類がどの工程で必要になるかを整理しておく
- 二社間か三社間かによって、資金の流れと責任範囲が変わる点を意識する
審査で重視されるポイント
ファクタリング審査では、どの会社でも類似した観点で売掛債権の安全性を確認しています。代表的な評価軸を整理すると、次のようになります。
| 評価軸 | 主な確認内容 |
|---|---|
| 売掛先の信用力 | 決算内容、財務状況、支払遅延の有無、信用情報機関の事故情報、業歴・規模など |
| 売掛金の回収可能性 | 支払期日までの期間、取引継続年数、請求書・契約書の整合性、債権譲渡禁止特約や二重譲渡の疑いの有無 |
| 申込企業の信頼性 | 決算書や試算表、税金・社会保険の納付状況、反社会的勢力との関係、書類の正確性や説明の一貫性など |
ファクタリングは一般に「売掛先重視」と説明されますが、申込企業に重大な問題(税金の長期滞納、過去の不誠実な対応、反社会的勢力との関係など)がある場合、審査に通らないことがあります。
二社間ファクタリングでは、期日まで売掛金をきちんと回収してファクタリング会社へ渡す役割を負うため、申込企業側の管理能力や信頼性も特に重視されます。
- 売掛先の経営が安定しているか
- 請求書と契約書の内容が一致しているか
- 税金や社会保険の未納がないか
- 説明内容と提出書類に矛盾がないか
二社間/三社間の違い
二社間と三社間は、当事者の数だけでなく、リスクと審査の方向性も異なります。一般的な違いは次の通りです。
| 項目 | 二社間ファクタリング | 三社間ファクタリング |
|---|---|---|
| 当事者 | 申込企業+ファクタリング会社 | 申込企業+ファクタリング会社+売掛先 |
| 売掛先への通知 | 原則不要(売掛先は知らない) | 通知・承諾が前提 |
| 手数料 | おおむね10〜30%程度と高め | おおむね2〜20%程度と低め |
| 資金調達スピード | 即日〜数日と早い | 売掛先との調整が必要でやや遅い |
| 債権譲渡登記 | 二重譲渡防止のため求められる場合あり | 売掛先への通知・承諾があるため不要なことが多い |
二社間は取引先に知られずに資金調達できる反面、売掛金の回収を申込企業が担うため、ファクタリング会社のリスクが高く、手数料や審査の厳しさに反映されます。
三社間は売掛先が直接ファクタリング会社へ支払うため、回収リスクが低くなり、手数料は低めに設定される傾向です。
その代わり、売掛先に資金繰りの状況が伝わる可能性や、契約手続の時間が長くなる点を踏まえて選択する必要があります。
- 「早さ」と「コスト」「透明性」のバランスを確認する
- 売掛先との関係性が悪化しないかを事前に検討する
- 債権譲渡登記の有無や費用も総コストとして把握する
審査の流れと時間
審査の流れとおおよその時間感覚を知っておくと、「なぜ今回は通らなかったのか」「どの段階で時間がかかっているのか」を冷静に整理できます。一般的な審査の流れは、次のように段階ごとに整理できます。
- 事前相談・仮見積もり:売掛先名、請求書額、支払期日などの基本情報を伝え、買取の可否や概算手数料の目安を確認
- 本申込・書類提出:申込書、請求書、契約書・発注書、決算書、試算表、登記事項証明書、身分証、納税証明書などを提出
- 審査:売掛先の調査、取引実態の確認、売掛金の内容確認、申込企業の信用・税金・社保などの確認
- 条件提示・契約締結:買取率(請求書額に対する支払い割合)、手数料率、入金日を提示し、問題なければ契約書を締結
- 入金・債権管理:契約に基づきファクタリング会社が入金し、支払期日に売掛金を回収
二社間の少額案件では、書類が整っていれば申込から入金まで当日〜数日程度で完了するケースもあります。
一方、三社間や高額案件では、売掛先との調整や債権譲渡登記の有無なども含めて、数日〜1週間程度かかることが一般的です。
審査落ちが続く場合は、どの段階で「時間がかかっているのか」「追加で何を聞かれているのか」を記録しておくと、次の申込時に改善点を洗い出しやすくなります。
- 最新の決算書・試算表、納税証明書をあらかじめ準備しておく
- 請求書と契約書・注文書をセットで提出し、取引実態を説明できるようにする
- 過去の支払遅延やトラブルがあれば、事前に経緯と再発防止策を整理しておく
審査に通らない主な理由
ファクタリングの審査に落ちるケースは、単一の要因ではなく、いくつかのポイントが重なっていることが多いです。
大きく分けると「売掛先(取引先)の信用」「売掛金(請求書)の内容と支払条件」「申込企業の財務状況や税金・社会保険」「提出書類の不備や説明不足」の四つのグループに整理できます。
どこに課題があるかを切り分けて確認することで、次回以降の申込で改善しやすくなります。
代表的な論点を整理すると、次のようなイメージです。
| 論点 | 審査に通らない典型パターン |
|---|---|
| 売掛先の信用 | 支払遅延が多い、債務超過、法的整理中などで回収リスクが高い |
| 売掛金の内容 | 実際の取引と請求内容の不一致、支払期日が極端に先、債権譲渡禁止特約あり |
| 財務・税金 | 長期の赤字決算、税金・社会保険料の滞納、資金繰りの悪化が続いている |
| 書類・説明 | 契約書がない、取引実態を示す資料が不足、説明内容と書類に矛盾がある |
どれか一つでもリスクが大きいと判断されると、審査が通らない可能性が高まります。この記事では、特に影響の大きい四つの論点を個別に確認し、自社の状況をチェックするための視点を整理していきます。
売掛先の信用と事故情報
ファクタリングでは、売掛先(請求書の支払義務を負う取引先)の信用力が最も重視されます。売掛先が安定して売上を上げ、期日どおりに支払いを続けているかどうかが、売掛金の回収可能性に直結するためです。
審査では、売掛先の決算書や業歴、規模、取引の継続年数、支払遅延の有無などに加え、信用情報機関に登録されている「事故情報」(法的整理、長期延滞などの否定的情報)が確認されます。
売掛先に次のような状況があると、審査に通りにくくなります。
- 支払遅延や分割払いが慢性的に続いている
- 債務超過や大幅な赤字決算が続いている
- 差押え・破産申立てなどの法的手続きが発生している
- 設立間もないなど事業実態や信用の蓄積が少ない
売掛先の財務状況は利用者側では把握しにくい部分もありますが、入金遅延が増えていないか、担当者の入れ替わりが急に増えていないか、支払い条件が一方的に変更されていないかといった現場の兆候からリスクを推測することは可能です。
- 支払遅延や条件変更が増えた取引先の売掛金はまとめて申込まない
- 一社に売上が集中している場合は、その売掛先の信用を重点的に確認する
- 売掛先の経営悪化が疑われる場合は、ファクタリング以外の対策も検討する
売掛金の内容と支払条件
売掛金そのものの内容や支払条件も、審査に大きく影響します。ファクタリングの対象になる売掛債権は、実際に完了した取引に基づいて発生した請求であることが前提です。
業務が未完了の段階で先に請求書を発行している場合や、キャンセルが多い商材の売掛金などは、回収リスクが高いと判断されやすくなります。
具体的には、次のような点がチェックされます。
- 請求書の内容が契約書・注文書・納品書と一致しているか
- 支払期日までの期間が極端に長くないか(例:半年以上先など)
- 売掛金が一回限りのスポット取引ではなく、継続的な取引の一部かどうか
- 返品・クレームが発生しやすい商材ではないか
たとえば、請求書額1,000万円、支払期日が3か月後という条件の売掛金と、支払期日が1か月後の売掛金では、後者の方が回収リスクが低く、審査も通りやすくなります。
また、契約書がなく口頭ベースの取引に依存している場合、取引実態の裏付けが弱く見えるため、審査にマイナスとなることがあります。
- 取引開始直後の一回限りの大口請求だけをまとめて申込んでいる
- 支払期日が極端に先で、途中解約やキャンセルの可能性が高い取引
- 契約書や発注書がなく、請求書だけで取引を説明している
財務状況と税金・社保
ファクタリングは売掛先重視とはいえ、申込企業の財務状況や税金・社会保険料(社保)の納付状況も確認されます。
これは、特に二社間ファクタリングの場合、売掛金の回収を申込企業が管理し、ファクタリング会社へ支払う立場になるためです。
一般的に、次のような点が見られます。
- 直近の決算書・試算表から見た売上・利益・自己資本の状況
- 複数期にわたる大幅な赤字、債務超過の有無
- 法人税や消費税、源泉所得税、社会保険料などの納付状況
- 借入金の返済状況やリスケジュール(返済条件変更)の有無
税金や社保の滞納がある場合、「資金繰りが恒常的に厳しい」「差押えリスクがある」と判断され、審査に通りにくくなります。
また、売上の大部分を特定の1社に依存している場合、取引が停止したときの事業継続リスクが高いと評価されることもあります。
- 滞納がある税金・社保は、分納計画や解消方針を整理しておく
- 決算数値だけでなく、最新の試算表も用意し、改善傾向があれば説明する
- 特定の取引先への依存度が高い場合は、そのリスクも自覚しておく
必要書類の不備とリスク
必要書類の不足や内容の不一致も、審査に通らない大きな要因です。
ファクタリング会社は、売掛債権が実在し、譲渡可能であることを客観的な書類で確認する必要があります。書類の抜け漏れや整合性の欠如は、その前提を揺るがすため、慎重な対応につながります。
典型的に求められる書類としては、次のようなものがあります。
- 請求書、納品書、検収書、注文書・契約書など取引実態を示す資料
- 直近の決算書・試算表、残高試算表
- 商業登記簿謄本(履歴事項全部証明書)
- 代表者の本人確認書類、銀行口座情報
- 税金・社会保険の納付状況が分かる資料
これらが不足していたり、内容に矛盾があったりすると、ファクタリング会社はリスクを判断しづらくなります。
また、売掛金を他社にすでに譲渡しているにもかかわらず、その事実を申告しないといった行為は、二重譲渡のリスクがあり、審査落ちだけでなく取引中止の原因にもなります。
- 請求書だけで申込まず、契約書・注文書なども必ず揃える
- 説明内容と書類の金額・日付が一致しているか事前に確認する
- 他社への債権譲渡歴や担保設定は、必ず正直に申告する
売掛先と売掛金のポイント
ファクタリング審査では、「誰から」「どのような条件の売掛金を回収するか」が中心的な確認ポイントになります。
具体的には、売掛先の信用力と、売掛金そのものの内容・支払条件・取引実績の三つを組み合わせて評価するイメージです。
売掛先の財務状況や支払遅延の有無に加え、請求書の根拠となる契約書・発注書・納品書、銀行口座の入金履歴から取引の継続性が確認されます。
継続的に請求・入金が繰り返されている売掛金ほど、回収可能性が高いと判断されやすくなります。
代表的な確認項目を整理すると、次のようになります。
| 確認対象 | 主なチェックポイント |
|---|---|
| 売掛先 | 決算内容、支払遅延の有無、倒産リスク、業歴・規模、取引態度 |
| 売掛金 | 請求内容と契約書等の整合性、支払期日までの期間、返品・キャンセルリスク |
| 取引実績 | 過去の請求・入金履歴、取引開始からの年数、入金日の安定性 |
同じ金額の請求書でも、①長年取引があり毎月きちんと入金されている売掛先の売掛金と、②今回が初回のスポット取引で今後の入金実績が不明な売掛金とでは、審査の評価が大きく変わります。
自社側の事情だけでなく、「どの売掛先のどの売掛金を出すか」を選ぶことが、審査通過率を高めるうえで重要なポイントになります。
取引実態と請求書のチェック
ファクタリングで最も重視されるのは、売掛金が「実際に行われた取引に基づく、回収可能性の高い債権であるかどうか」です。
そのため、請求書単体ではなく、契約書・発注書・納品書・検収書・見積書などと照らし合わせて、取引実態が裏付けられているかが細かく確認されます。
取引実態と請求書を確認する際の代表的なポイントは、次のとおりです。
- 請求書の宛先・金額・品目・数量・納品日が、契約書・発注書・納品書と一致しているか
- 請求書の発行日と、実際の納品完了日・役務提供完了日が不自然にずれていないか
- 同じ売掛先との過去の請求・入金履歴と矛盾がないか(通帳の入金記録など)
- キャンセルや返品が発生しやすい商材・サービスではないか
たとえば、請求書には「一式」とだけ記載されているのに、契約書には複数の項目・条件が設定されている場合、取引内容が不明確に見えます。
また、契約書や発注書が存在せず、口頭契約だけで高額の請求をしているケースも、審査上は慎重に扱われやすくなります。
- 請求書と契約書・発注書・納品書の金額・日付・数量が揃っているか
- 過去の入金履歴と今回の請求内容に大きなギャップがないか
- 後から訂正や再発行が多い請求書になっていないか
支払期日と取引年数の目安
ファクタリング会社は、売掛金の「回収サイト(請求から入金までの期間)」と「売掛先との取引年数」も重要な判断材料とします。
支払期日までの期間が長いほど、その間に売掛先の経営状況が悪化するリスクが高まるため、一般的には回収サイトが短い売掛金ほど評価されやすい傾向があります。
また、取引を開始したばかりで入金実績がほとんどない売掛先よりも、半年〜1年以上継続的な取引があり、支払遅延がない売掛先の方が信頼性は高いと見なされます。
支払期日と取引年数を確認する際のイメージは、次のようになります。
- 回収サイトは、できるだけ1〜2か月程度までに収まっている方が望ましい
- 3か月以上先の支払期日が設定されている場合、慎重な審査になりやすい
- 取引年数は、少なくとも半年〜1年以上の継続実績があると説明しやすい
- 過去の入金が毎回期日どおりであることを、通帳などで示せると有利
たとえば、売掛先Aとの取引で、ここ1年間毎月500万円前後の請求・入金が期日どおりに繰り返されている場合、この売掛先の売掛金は信用度が高く評価されます。
一方、売掛先Bとの初回取引で、支払期日が4か月先かつ高額な請求の場合、実績がないぶん慎重な判断になり、審査に通らない可能性が高まります。
- 初回取引や長期サイトの売掛金だけをまとめて申込むのは避ける
- 入金遅延のない売掛先を優先して、対象売掛金を選ぶ
- 取引期間や入金履歴を説明できる資料(通帳コピーなど)を用意しておく
債権譲渡禁止特約の有無
売掛先との基本取引契約書には、「債権譲渡禁止特約(譲渡制限特約)」と呼ばれる条項が含まれていることがあります。これは、売掛債権を第三者に譲渡してはならない、または一定の条件がない限り譲渡できないと定める条項です。
改正民法の施行により、法律上は譲渡禁止特約が付いている売掛債権でも譲渡自体は有効とされる方向になりましたが、実務上は依然として注意が必要なポイントです。
債権譲渡禁止特約がある売掛金には、次のような影響が考えられます。
- 売掛先が債権譲渡に強く反対していると、三社間ファクタリングが成立しにくい
- ファクタリング会社によっては、特約付きの売掛金を原則取り扱わない方針の場合がある
- 売掛先が特約を理由にファクタリング会社への支払いを拒否するリスクがある
- トラブル防止のため、売掛先から個別の承諾書を取得する必要が生じる場合がある
そのため、申込前に売掛先との契約書を確認し、債権譲渡禁止特約や譲渡制限に関する条項がないかを把握しておくことが重要です。
特約がある場合でも、売掛先と協議し、資金調達の目的や取引継続の意向を説明したうえで、個別に承諾を得られればファクタリング利用が可能になることもあります。
- まず契約書の条文を確認し、譲渡禁止・譲渡制限の有無を把握する
- 特約がある売掛金は、事前にファクタリング会社へ必ず相談する
- 必要に応じて、売掛先から書面での譲渡承諾を取得することを検討する
少額・単発取引の扱い
少額の売掛金や単発のスポット取引に対するファクタリングの扱いは、ファクタリング会社ごとに違いがあります。
少額専門のサービスでは、1万円〜数十万円程度の小口でも利用できるところがありますが、一方で「最低買取額◯◯万円以上」といった下限を設けている会社もあり、審査の手間と手数料収入のバランスから、小口・単発の売掛金を積極的には扱わない方針の会社も存在します。
また、同じ少額でも、次のような違いで評価が変わります。
- 継続的な取引の一部として発生した少額請求か、完全なスポット取引か
- 売掛先が大企業・上場企業など信用力の高い先か、設立間もない中小企業か
- 今後も同様の取引が継続する見込みがあるかどうか
たとえば、「毎月100万円前後の請求がある売掛先に対する、追加の20万円分の少額請求」であれば、継続取引の一部として評価されやすくなります。
一方、「今回限りの単発取引で、今後のリピート予定もない売掛先に対する小口請求」の場合、取引実績や入金履歴が乏しく、審査は慎重になりやすいと考えられます。
- 可能であれば、継続取引の中で発生した売掛金を優先して申込む
- 単発取引の場合は、売掛先の信用力や契約内容を補強できる資料を揃える
- 小口を複数まとめる場合でも、取引実績がある売掛先を中心に選ぶ
銀行融資NG時の対策
銀行融資が否決されたあとにファクタリングを検討する企業は多くありますが、「融資がダメだった=ファクタリングも必ず落ちる」というわけではありません。
銀行融資は「将来の返済能力」を中心に、過去の決算や担保・保証の有無などを厳しく見るのに対し、ファクタリングは「既に発生している売掛金が回収できるか」を主な判断軸とします。
そのため、融資否決の理由を整理しつつ、売掛先・売掛金・自社の管理体制を客観的に見直せば、資金調達の選択肢を残せるケースもあります。
銀行融資NG時に整理しておきたい論点は、次のようにまとめられます。
| 論点 | 確認したいポイント |
|---|---|
| 融資否決歴 | いつ・どの金融機関で・どのような理由で否決されたのか(売上減少、債務超過、税金滞納など) |
| 売掛先・売掛金 | 回収サイト、取引年数、支払遅延の有無、債権譲渡禁止特約の有無など |
| 自社の財務・税金 | 最新の決算・試算表、税金・社会保険の納付状況、資金繰り表 |
| 調達手段の比較 | ファクタリング会社ごとの手数料、買取率、入金スピード、契約条件 |
これらを整理した上で、ファクタリングだけに依存せず、コストや期間の観点から他の資金調達手段(リスケジュール、リース・割賦、支払サイト交渉など)と比較検討することが、長期的な資金繰りを安定させるうえで重要です。
融資否決歴と影響
銀行融資が否決された事実は、ファクタリング審査にも一定の影響を与えます。ただし、銀行とファクタリングでは重視するポイントが異なるため、「融資否決=ファクタリング不可」と機械的に判断されるわけではありません。
重要なのは、なぜ否決されたのかを自社で整理し、その内容が売掛金の回収リスクにどの程度結びつくかを把握することです。
融資否決の理由としては、次のようなパターンが多く見られます。
- 売上減少や赤字計上により、今後の返済能力が不十分と判断された
- 債務超過が続いており、自己資本が薄い状態になっている
- 税金・社会保険料の滞納があり、差押え等のリスクが懸念された
- 既存借入が多く、返済負担が限界に近いと見なされた
ファクタリング会社は、これらの情報を参考にしつつも、「売掛先が期日どおりに支払うか」「売掛金が法的に有効な債権か」という点を中心に判断します。
そのため、融資否決理由が主に「過去の損失や債務超過」であっても、現在の売掛先が安定して支払っているのであれば、ファクタリングが可能なケースもあります。
一方、税金滞納や差押えの可能性が高い場合には、売掛金への強制執行リスクがあるため、審査にマイナスとなりやすくなります。
- 否決理由(書面・口頭)の内容を可能な範囲でメモに残しておく
- 売掛金の回収リスクと直接関係する部分かどうかを切り分けて考える
- 税金滞納や差押えリスクがある場合は、その状況と解消方針も併せて説明できるようにする
取引先分散とリスク分散
銀行融資が難しい企業の中には、売上の大半を一社の取引先に依存しているケースが少なくありません。
売掛金の多くが特定の売掛先に集中していると、その企業の経営悪化や支払遅延が発生した際に、一気に資金繰りが悪化するリスクが高くなります。
ファクタリング審査でも、「売掛先の集中度」は重要な確認ポイントであり、一社依存が強いほど慎重に見られる傾向があります。
取引先分散とリスク分散の観点で、代表的なチェックポイントは次のとおりです。
- 上位1社・3社で売上全体の何%を占めているか
- 売掛先ごとの業種・地域・支払条件が偏っていないか
- 新規取引先の開拓状況や、既存先の入替え実績があるか
- 各売掛先の支払遅延や条件変更の頻度
たとえば、売上の80%以上が1社に集中している場合、その1社の業況変化が資金繰りに直結します。
ファクタリングとしても、その1社の売掛金をまとめて買取ることは、回収リスクが高いと判断されやすくなります。
一方で、複数の売掛先からバランスよく売掛金が発生しており、それぞれに一定の入金実績がある場合は、全体としてリスクが分散され、審査上もプラスに働きます。
- 売掛金残高を売掛先別に一覧化し、上位先の構成比を可視化する
- 支払遅延が目立つ先の売掛金は、ファクタリングの対象から外すことも検討する
- 新規取引先やサブの取引先の売上を徐々に増やし、一社依存度を下げていく方向性を持つ
決算内容と税金・社保
銀行融資NGの背景には、決算内容や税金・社会保険料の納付状況に課題があるケースが多く見られます。
ファクタリング審査では、融資ほど厳密に格付けを行うわけではありませんが、「事業として継続性があるか」「売掛金を安定して生み出せる状態が維持されているか」を確認するために、決算書・試算表・納税状況などがチェックされます。
主な確認ポイントは、次のとおりです。
- 売上・利益の推移:複数期連続の売上減少や大幅な赤字が続いていないか
- 資本構成:債務超過の有無、自己資本比率の水準
- 税金・社保:法人税・消費税・源泉所得税・社会保険料などの滞納状況
- 資金繰り:短期借入金や買掛金の支払遅延が膨らんでいないか
特に、税金・社会保険料の滞納は、行政による差押えリスクと直結するため、売掛金の回収を妨げる要因となり得ます。
そのため、ファクタリング会社は、滞納の有無だけでなく、「どの税目が・どの期間分・どれくらい滞納しているのか」「分納や解消の見込みがあるのか」といった点も含めて確認することがあります。
- 最新決算だけでなく、直近の試算表や資金繰り表も準備しておく
- 税金・社保の滞納がある場合は、金額・期間・分納計画などを明確にしておく
- 一時的な赤字か、構造的な赤字かを自社で分析し、説明できるようにしておく
複数社見積もりと比較
銀行融資がNGとなり、ファクタリングを検討する際には、1社だけでなく複数のファクタリング会社から見積もりを取り、条件を比較することが一般的です。
ファクタリングは、手数料率・買取率・入金スピード・契約形態(二社間/三社間)・債権譲渡登記の有無など、各社で条件が大きく異なるため、1社だけの提示条件を見て判断すると、結果的にコストが割高になる可能性があります。
比較時に整理しておきたい項目は、次のとおりです。
- 手数料率と実質コスト:請求書額に対する手数料率だけでなく、登記費用や事務手数料を含めた総額
- 買取率:請求書額面の何%が入金されるか(例:請求書額500万円、買取率90%なら450万円入金)
- 入金までのスピード:申込から何営業日で入金される想定か
- 契約形態:二社間か三社間か、再契約のしやすさ、継続利用時の条件
同じ手数料率5%でも、「別途登記費用や事務手数料が必要なケース」と、「すべて込みで5%のケース」では、実際に手元に残る金額が変わります。
また、「審査が甘い」とうたう事業者の中には、実質的な手数料や違約金が非常に高いケースもあるため、見積書や契約書の記載内容を細かく確認することが重要です。
- 手数料率だけでなく、登記費用・事務手数料・違約金などを含めた実質コストで比較する
- 入金スピードとコストのバランスを見て、自社の資金繰りに合うか確認する
- 電話や面談の対応姿勢も含めて、「継続して取引できる相手か」を総合的に判断する
審査落ち後の対応
ファクタリングの審査に一度落ちたからといって、すぐにあきらめる必要はありません。ただし、同じ条件のまま再申込を繰り返しても結果が変わらない可能性が高いため、「どこに問題があったのか」を整理したうえで、改善策を講じることが重要です。
売掛先の信用や売掛金の内容、自社の財務・税金・社会保険、書類の整合性など、審査で見られるポイントを一つずつ点検し、時間を置いて再申込するか、別の資金調達手段を組み合わせるかを検討していきます。
審査落ち後の対応を大きく整理すると、次のような流れになります。
| 段階 | 主な対応内容 |
|---|---|
| 原因整理 | 売掛先・売掛金・自社財務・書類のどこに課題があるかを切り分ける |
| 是正・改善 | 書類整備、税金・社保の滞納整理、対象売掛金の見直しなどを実施する |
| 再申込・比較 | 条件が改善されたタイミングで、必要に応じて別会社も含めて見積もりを取得する |
| 資金繰り対策 | 短期・中期の資金繰り計画を作成し、ファクタリング以外の選択肢も検討する |
この章では、再申込前の見直しポイントや、広告表現への注意点、他サービスとの比較視点、資金繰り改善の考え方を整理し、審査落ち後にとるべき具体的な対応の方向性を確認していきます。
再申込前に見直すポイント
再申込を検討する前に、まずは審査で指摘された内容や、ファクタリング会社からの質問内容を整理し、どこにリスク要因があったのかを把握することが重要です。
売掛先の信用に問題があったのか、売掛金の内容・支払条件に不自然な点があったのか、自社の財務・税金・社会保険の状況が影響したのか、あるいは書類不足や説明不足で判断材料が足りなかったのかを分けて考えます。
見直しの際に確認しておきたい主なポイントは、次のとおりです。
- 売掛先ごとの支払遅延や条件変更の有無
- 請求書と契約書・発注書・納品書の整合性、取引実態の裏付け
- 決算内容や試算表、税金・社会保険料の滞納の有無
- 提出した書類に抜け漏れや矛盾がなかったか
一度審査に落ちた場合でも、書類の整備や滞納解消、対象とする売掛金の見直しなど、改善可能な項目は少なくありません。
むやみに複数社へ同条件で申込むのではなく、自社側で対応できる修正を加えてから再申込した方が、審査通過の可能性は高まります。
- 取引実態を示す書類(契約書・発注書・納品書・通帳コピー)を揃えたか
- 税金・社会保険の滞納がある場合、状況と解消方針を整理したか
- リスクの高い売掛金だけに偏って申込んでいないか
審査なし広告の注意点
審査に落ちたあと、「審査なし」「誰でも利用可能」「即日現金化」などの広告に目が留まりやすくなりますが、このような表現には注意が必要です。
ファクタリングは、売掛債権の回収可能性を前提とした取引であり、実務上まったく審査を行わないということは考えにくいため、「審査なし」を強調する事業者の中には、実質的に極めて高い手数料を課したり、契約条件が不利であったりするケースもあります。
広告を見る際に意識したいポイントは、次のような点です。
- 具体的な手数料率や費用の範囲が明示されているか
- 契約書の内容を事前に確認できるか(違約金、途中解約条件など)
- ファクタリングなのか、実質的な貸付(融資)なのかが明確か
- 会社の所在地や連絡先、運営実態が確認できるか
実質的な金利換算で非常に高い水準となる取引や、何らかの名目で追加費用が重なり、手元に残る金額が大幅に減るケースもあります。
審査に落ちて焦っている状況ほど、広告の文言だけで判断せず、条件面を冷静に比較・検討することが重要です。
- 手数料率だけでなく、総支払額と実質負担を必ず計算する
- 契約書を十分に確認できない事業者との契約は避ける
- 「必ず通る」などの断定的表現には慎重に対応する
他サービス比較のチェック
審査落ちをきっかけに、ファクタリング以外の資金調達手段を含めて見直すことも有効です。
短期資金を補う手段としては、ファクタリングのほかに、ビジネスローン・当座貸越・リース・割賦払い・カード決済の早期入金サービス・売掛先による早期支払制度など、複数の選択肢が存在します。
各手段ごとに、必要な審査・コスト・スピード・返済負担の有無などが異なるため、自社の事情に合った組み合わせを検討することが重要です。
代表的な手段の比較イメージは、次のとおりです。
| 手段 | 特徴 | 留意点 |
|---|---|---|
| ファクタリング | 売掛金を早期資金化、返済は不要、入金スピードが比較的早い | 手数料負担が発生、売掛先・売掛金の条件によっては利用不可 |
| ビジネスローン等 | 用途を比較的柔軟に使える、分割返済で資金繰りを調整しやすい | 返済義務があり、金利負担が継続する |
| 支払サイト交渉 | 仕入先との交渉により支払いタイミングを調整できる | 取引関係への影響に配慮が必要 |
| 早期入金サービス | カード売上や特定プラットフォームの売上を早期に受け取れる | 利用できる業種・プラットフォームが限定される場合がある |
複数の手段の特徴を整理したうえで、「今は一時的な資金不足なのか」「事業構造そのものの見直しが必要なのか」を見極めることが、過度なコスト負担を避けるためのポイントになります。
- 調達コスト(手数料・金利)だけでなく、返済義務の有無を確認する
- 入金までのスピードと、必要書類・審査の負担を比較する
- 一時的な資金不足か、構造的な課題かを踏まえて手段を選ぶ
資金繰りの短期/中期改善
審査に落ちたタイミングは、資金繰りの見直しを行う良い機会でもあります。短期的には、「今月・来月の支払を乗り切るために何ができるか」を中心に、支出の平準化や回収の前倒しを検討します。
中期的には、「半年〜1年程度の時間軸で、売上構成やコスト構造をどう改善していくか」を考え、過度に外部調達に依存しない体制を作っていくことが重要です。
短期と中期で、意識したい対策の例は次のとおりです。
- 短期:売掛金の回収徹底、不要な支出の削減、支払いタイミングの調整
- 短期:在庫水準の見直し、早期入金のインセンティブ(早期支払割引など)の検討
- 中期:利益率の低い取引の見直し、取引先分散、固定費構造の改善
- 中期:資金繰り表の作成と更新ルールの整備、金融機関との情報共有の継続
ファクタリングはあくまで資金繰りを補う手段の一つであり、継続的な赤字や構造的な資金不足を根本的に解決するものではありません。
短期・中期の視点で資金の入りと出を整理し、「どの時期に」「いくら不足しそうか」を数値で把握することで、必要な金額や期間に応じた対策を選びやすくなります。
- 月次・週次で資金繰り表を更新し、早めに不足を把握する
- 一時的な不足と構造的な不足を区別し、それぞれに合った対策を検討する
- 外部調達に頼りきらず、利益体質の改善や取引条件の見直しも並行して進める
まとめ
ファクタリングの審査は「売掛先の信用」「売掛金の内容」「申込企業の税金・社保や書類」の三つの軸で総合的に判断されます。
審査に通らない場合も、請求書と取引実態の整合性、支払条件、債権譲渡禁止特約の有無、決算内容や未納状況などを一つずつ確認することで、改善できる点を整理できます。
また、「審査なし」「誰でもOK」といった広告はトラブルリスクが高く、条件比較と事業計画を前提に慎重に検討することが重要です。
自社の資金繰りと取引実態を見直しながら、複数社に相談し、無理のない資金調達方法を選択することが安定した経営につながります。
























