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ファクタリング債権を徹底解説!対象5種・NG債権・登記と違法リスク

売掛金を早期に現金化できるファクタリングですが、「どの債権まで対象になるのか」「NG債権は何か」が分からないと、実務で使いにくい制度です。本記事では、ファクタリング債権の基本、対象となる5種の債権、利用できない債権、債権譲渡登記と違法リスクまでを体系的に整理し、中小企業が債権を用いた資金調達を検討する際の判断材料を提供します。

 

ファクタリング債権の基礎

ファクタリング債権とは、一般に事業者が保有している売掛債権などを、期日前にファクタリング会社へ譲渡して資金化する際の対象債権を指します。

金融庁は、ファクタリングを「売掛債権等を期日前に一定の手数料を徴収して買い取るサービス」であり、法的には債権の売買(債権譲渡)と位置付けています。

 

ファクタリングは融資ではなく資産の売却であるため、貸付金ではなく「債権譲渡取引」として整理されます。

一方で、買戻し条項が強い場合などは実質的に貸付と評価される可能性もあり、契約内容の確認が重要です。

ここでは、売掛債権の資金化に関わる基本構造と当事者の役割を整理し、後続の章で具体的な対象債権や法的論点を理解しやすくすることを目的とします。

 

当事者 役割
利用者 売掛債権を保有する事業者。ファクタリング会社へ債権を譲渡し、譲渡代金を受け取る。
ファクタリング会社 債権を買い取り、手数料を差し引いた金額を支払う。期日到来後、取引先から売掛金を回収する。
取引先(債務者) 商品・サービスの提供を受けた側。支払期日に、債権の新たな名義人に代金を支払う。

 

ファクタリングと債権売買

ファクタリングは、売掛債権などの金銭債権をファクタリング会社に売却する取引です。

金融庁は、二者間ファクタリング・三者間ファクタリングを含め、法的性質は「売買契約に基づく債権譲渡」であり、金銭消費貸借とは異なると示しています。

 

利用者は、請求書金額から手数料を差し引いた譲渡代金を受け取り、ファクタリング会社は期日到来後に取引先から売掛金を回収します。

代表的なスキームとして、取引先に通知しない二者間ファクタリングと、取引先に債権譲渡を通知・承諾してもらう三者間ファクタリングがあります。

三者間では取引先が直接ファクタリング会社に支払うため、債権回収の確実性が高い一方で、取引先に資金繰り状況が伝わる可能性がある点が実務的な論点になります。

 

【重要ポイント】

  • ファクタリングは債権の売買(債権譲渡)として整理される取引であること
  • 二者間と三者間で、通知の有無や回収方法が異なること
  • 実質的に貸付と評価される契約形態もあり得ること

 

ファクタリングと債権売買の整理
  • 法的には「債権の売買(債権譲渡)」として扱われる
  • 二者間・三者間で通知方法と回収スキームが異なる
  • 契約内容次第では貸付と評価される可能性がある

 

売掛債権と資金化

売掛債権とは、商品やサービスを先に提供し、代金が後日支払われる取引で発生する金銭債権です。

中小企業では、売掛債権が流動資産の中で大きな比率を占めることが多く、資金繰りに与える影響が大きい資産です。

 

売掛債権を期日前に資金化する手段の一つがファクタリングであり、不動産担保や保証人を必要とする従来型融資とは異なる枠組みで資金を確保できます。

資金化のイメージを具体的な数字で整理すると分かりやすくなります。例えば、請求書額面1,000万円の売掛債権を手数料率5%でファクタリング会社に売却する場合、買取率(請求書額面に対する支払割合)が95%とすると、利用者が受け取る金額は950万円です。

この950万円が、通常の支払期日より前に入金されることで、仕入や人件費の支払い資金として活用できます。

 

【重要ポイント】

  • 売掛債権は、提供済みの商品・サービスの代金を受け取る権利であること
  • ファクタリングでは、売掛債権を売却して早期に現金化すること
  • 請求書額面・手数料率・買取率を前提に、受取額を具体的に計算できること

 

売掛債権資金化の基本ポイント
  • 売掛債権=将来入金予定の「資産」を現金に変える手段がファクタリング
  • 買取率=請求書額面に対して利用者が受け取る割合として把握する
  • 手数料率と入金タイミングを考慮し、他の資金調達手段と比較する

 

債権譲渡契約の基本

ファクタリングは実務上、「債権譲渡契約」によって実行されます。多くの場合、継続取引を前提とした基本契約書と、個々の債権ごとに条件を定める個別契約書を組み合わせる形式が用いられます。

契約書では、対象となる債権の範囲(取引先・請求書番号・金額)、譲渡代金(買取率・支払期日)、通知や債権譲渡登記の方法、償還請求権(リコース)の有無などが明示されます。

 

リコース型とは、譲渡した債権が回収不能となった場合に、利用者がファクタリング会社に対して譲渡代金の返還や買戻しを行う義務を負う形態です。

ノンリコース型は、原則として利用者がそのリスクを負担しない形態です。契約上、買戻し条項や高額な違約金が設定されている場合、経済的には貸付と評価される可能性があるため、条項の内容を確認する必要があります。

 

【契約内容の主な確認ポイント】

  • 対象債権の特定方法(取引先、請求書、金額の記載)
  • 買取率・手数料率・支払期日などの金額条件
  • 通知方法・債権譲渡登記の要否
  • リコース条項の有無と範囲(買戻し・違約金の条件)

 

債権譲渡契約で注意したい条項
  • 回収不能時の買戻しや違約金が過度に重い条項の有無
  • 貸付と評価され得るほど強い償還義務がないかどうか
  • 対象債権が明確に特定されているかどうか

 

金融庁が示す位置付け

金融庁は、ファクタリングを「事業者が保有している売掛債権等を、期日前に一定の手数料を徴収して買い取るサービス」と整理し、その法的性質を「売買契約に基づく債権譲渡」と説明しています。

一方で、近年はファクタリングを名乗りつつ実質的には高金利の貸付である事案も確認されており、同庁は注意喚起を行っています。

具体的には、買取代金が債権額に比べて著しく低額である場合や、回収不能時に利用者が買戻し・償還を行うことを前提とした契約などが例示されています。

 

このような取引は、経済的に貸付と同様の機能を有すると判断されれば、貸金業法上の「貸付」に該当する可能性があります。

その場合、貸金業登録や上限金利規制の適用など、融資と同様のルールの対象となり得ます。金融庁は、中小企業向けの注意喚起資料で、契約書の名目にかかわらず、実質的な内容に基づき取引を判断する必要があるとしています。

 

【重要ポイント】

  • ファクタリングは原則として「債権譲渡」であり、融資とは区別されること
  • 実質的に貸付と同様の機能を持つ取引は、貸金業規制の対象となる可能性があること
  • 名目だけでなく、買戻し条項や手数料水準など契約内容を確認する必要があること

 

金融庁が注意喚起するポイント
  • 債権額に比べて著しく低い買取代金や過度な手数料設定
  • 回収不能時に利用者が実質的な返済義務を負う契約内容
  • 「ファクタリング」との名称だけで貸金業規制の対象外と誤解しないこと

 

対象債権の種類

ファクタリングの対象となる債権は、一般に「事業に伴って発生する金銭債権」のうち、法律上有効に譲渡でき、かつ回収見込みが一定程度見込めるものに限定されます。

典型例は売掛金ですが、実務では、発生内容やタイミングに応じて「確定債権」「将来債権」「想定債権」「継続債権」といった分類が用いられます。

さらに、医療・介護報酬債権、公共工事・建設代金債権のように、公的な支払主体や長期契約に基づく専門的な債権も、専用スキームを用いてファクタリングの対象とされることがあります。

 

対象債権の種類を整理しておくことで、自社のどの売掛金が資金化でき、どの債権は対象外になりやすいのかを事前に判断しやすくなります。

また、将来債権や継続債権を含めて包括的に譲渡する契約か、個別の請求書ごとに譲渡する契約かによって、資金繰りへの効果や事務負担も変わります。ここでは、代表的な対象債権の種類と、実務上の位置付けを概観します。

 

債権区分 概要
確定債権 発生原因・金額・支払期日が確定している売掛債権など。
将来債権 今後の取引により発生が見込まれるが、原因関係が特定できる債権。
想定債権・継続債権 継続的取引契約に基づき、一定期間にわたり繰り返し発生する債権。
医療・介護報酬債権 医療保険・介護保険制度に基づき、公的支払機関に対して有する診療・介護報酬債権。
公共工事・建設債権 公共工事や民間建設工事の請負代金債権、出来高・中間金などに関する債権。

 

確定債権と将来債権

確定債権とは、発生原因・債務者・金額・支払期日がすでに特定されている債権を指します。具体的には、商品やサービスの提供が完了し、請求書が発行済みで、支払期日も明記されている売掛金などが該当します。

ファクタリング会社は、こうした確定債権を主な対象とし、取引内容や取引先の信用力に基づいて買取可否や手数料率を判断します。

 

一方、将来債権とは、今後の取引によって発生が見込まれる債権で、発生原因となる基本契約や取引関係があらかじめ特定されているものを指します。

たとえば、継続的な取引基本契約に基づき、今後一定期間内に発生する売掛債権などです。

 

現行民法では、発生原因と範囲が特定されていれば、将来債権の譲渡も原則有効とされており、ファクタリング契約でも「現在および将来の売掛債権を包括的に譲渡する」形式が用いられることがあります。

ただし、将来債権を広く対象にすると、実際に発生しなかった取引分や、後から譲渡禁止特約が付された債権が混在する可能性があるため、契約上の記載や運用方法には注意が必要です。

 

  • 確定債権は、請求書発行済みなど条件が明確な債権が中心となる
  • 将来債権は、発生原因が特定された「今後の売掛金」などが対象となる
  • 包括的な将来債権譲渡では、対象範囲と管理方法の明確化が重要となる

 

確定債権・将来債権の整理ポイント
  • 資金化しやすいのは、金額・期日が明確な「確定債権」
  • 「将来債権」は、基本契約など発生原因が特定されていることが前提
  • 契約書上で、対象となる将来債権の範囲と管理方法を明示しておく

 

想定債権・継続債権

想定債権とは、継続的な取引関係を前提に、一定の範囲で発生が見込まれる売掛債権を想定して取り扱う概念です。

継続債権とは、継続的取引契約に基づき、定期的または反復的に発生する債権(例えば、毎月の供給契約や保守サービス料など)を指します。

 

ファクタリングでは、こうした想定債権・継続債権を対象に、「今後〇か月間に発生する特定取引先向け売掛金を包括して譲渡する」といったスキームが用いられることがあります。

このようなスキームでは、毎回個別の請求書ごとに契約を締結する手間を省き、一定期間に発生する債権をまとめて資金化できる点がメリットです。

 

一方で、実際に発生した債権の内容が、事前の想定範囲から外れないよう、売上データと契約条件を照合して管理する必要があります。

また、継続債権の中には、期間中の解約や取引量の変動が起こり得るため、ファクタリング会社は取引実績や解約条件も含めて審査します。

 

  • 想定債権は、継続取引に基づき今後発生が見込まれる売掛金を念頭に置いた概念
  • 継続債権は、定期的に発生する利用料・サービス料などの反復債権
  • 包括的な譲渡契約では、実績と契約範囲を定期的に照合する管理が重要

 

想定債権・継続債権を扱う際のポイント
  • 継続的取引契約の内容(期間・解約条件・単価)を事前に整理する
  • 発生した売掛金が契約で想定した範囲内かを定期的に確認する
  • 取引量の増減や解約が資金繰りに与える影響もあわせて把握する

 

医療・介護報酬債権

医療・介護報酬債権とは、医療保険制度や介護保険制度に基づき、医療機関や介護事業者が、公的な支払機関(医療保険者、国民健康保険団体連合会、社会保険診療報酬支払基金、市区町村など)に対して有する診療報酬・介護報酬の支払請求権を指します。

これらの債権は、公的保険制度に基づき支払われる性質上、債務不履行リスクが比較的低いとされ、医療・介護事業者向けの専門ファクタリングの対象となっています。

医療・介護報酬は、請求から実際の入金まで一定のタイムラグがあり、その間の運転資金を補う目的でファクタリングが利用されます。

 

例えば、診療報酬債権1,000万円を手数料率3%でファクタリングした場合、買取率97%とすると、医療機関が前倒しで受け取る金額は970万円となります。

一般の売掛金に比べて手数料率が低めに設定されることも多い一方で、制度上の手続きや支払機関ごとの運用に沿った処理が求められます。

 

  • 医療・介護報酬債権は、公的保険制度に基づく請求権であること
  • 債務不履行リスクが比較的低く、専門ファクタリングの対象となりやすいこと
  • 請求から入金までのタイムラグを埋める運転資金対策として利用されること

 

医療・介護報酬ファクタリングの注意点
  • 各保険者・支払機関ごとの手続きや通知方法を事前に確認する
  • 診療・介護報酬の返戻や減額が発生した場合の取り扱い条件を把握する
  • 専門スキームであっても、手数料率と入金タイミングを他の資金調達手段と比較する

 

公共工事・建設債権

公共工事・建設債権とは、国・地方公共団体・公共企業体などが発注する公共工事や、民間の建設工事に関する請負代金債権を指します。工事の出来高に応じた中間金や、完成後の請負代金などが主な対象です。

建設業では、材料費や下請業者への支払いが先行する一方、工事代金の入金は後ろ倒しになりがちなため、工事代金債権をファクタリングで資金化するニーズがあります。

 

公共工事代金債権については、発注者の承諾や所定の手続を経た上で譲渡が認められる制度が設けられている場合があり、債権譲渡の方法や書類があらかじめ定められていることもあります。

また、元請と下請の多層構造になっている案件では、どの請負人がどの範囲の債権を保有しているかを明確にした上で、対象とする工事・出来高・請求金額を特定する必要があります。

ファクタリング会社は、工事契約書、出来高報告書、請求書などの書類をもとに、工事の進捗や発注者の信用力を確認し、買取条件を判断します。

 

  • 公共工事・建設債権は、出来高や完成に応じて発生する請負代金債権
  • 発注者の承諾や所定の手続が必要な制度が設けられている場合がある
  • 元請・下請の関係を明確にし、対象工事と金額を特定することが重要

 

公共工事・建設債権ファクタリングの留意点
  • 工事請負契約書や発注者の債権譲渡ルールを必ず確認する
  • 出来高・請求金額・支払期日を書類で裏付ける
  • 元請・下請の債権関係を整理し、重複譲渡や範囲の混同を避ける

 

ファクタリング不可債権

ファクタリングでいう「不可債権」とは、法律上絶対に譲渡できない債権という意味ではなく、ファクタリング会社がリスク管理の観点から「原則として買取対象外」としている債権の総称です。

ファクタリングは、本来は正常に支払われる見込みの高い売掛債権を早期に現金化する資金調達手段であり、支払遅延が続く延滞債権や、回収見込みが乏しい不良債権の処理とは目的が異なります。

不良債権の回収は、弁護士や「債権回収会社(サービサー)」が担う領域とされることが多く、実務上、多くのファクタリング会社は不良債権の買取りを行わないと明示しています。

 

また、賃金債権のように労働者保護のため特別のルールがある債権や、個人の生活に直結する性質の強い債権、契約上「譲渡禁止特約」が付された債権などは、法的・実務的な制約が大きく、一般的な売掛金ファクタリングの枠組みでは取り扱いが難しいケースが多くなります。

こうした債権は、債務者への影響や消費者保護、契約違反リスクなどを踏まえ、ファクタリングではなく、債権回収会社への売却・委託や、法的手続による回収が検討されます。

 

区分 ファクタリングでの扱いの目安
延滞・不良債権 回収見込みが低く、多くのファクタリング会社で買取不可。債権回収会社や法的手続の対象となることが多い。
譲渡禁止特約付き債権 法改正により譲渡自体は原則有効だが、支払拒否・弁済対抗などのリスクがあり、実務上は慎重に取り扱われる。
給与・個人債権 賃金債権や消費者個人の生活費に直結する債権は、労働法・貸金業法・消費者保護の観点からファクタリングの対象外とされるのが一般的。
その他争訟中の債権 債務の存在や金額が争われている債権は買取対象外とされやすく、判決確定後に別途検討されることが多い。

 

延滞・不良債権の扱い

延滞債権とは、支払期日を過ぎても入金されていない債権を指し、不良債権とは、延滞や債務者の経営悪化などにより「元本・利息の全額回収が困難」と判断される債権をいいます。

ファクタリングは本来、期日どおりの支払が見込まれる「正常債権」を早期現金化するスキームであるため、すでに長期延滞している債権や、債務者の倒産・実質破綻が懸念される債権は、多くのファクタリング会社で買取不可とされています。

 

不良債権の処理は、「債権管理回収業に関する特別措置法」に基づき許可を受けた債権回収会社(サービサー)が担うことが想定されています。

同法は、金融機関等の貸付債権やファクタリング業者が保有する金銭債権などを「特定金銭債権」と定義し、債権回収会社が委託・譲渡を受けて回収できる仕組みを整えています。

したがって、延滞・不良債権について資金化・処理を図る場合、ファクタリングではなく、債権回収会社への売却や委託、または弁護士を通じた法的回収が検討対象となります。

 

また、不良債権や架空債権を「正常な売掛金」であるかのように装ってファクタリング契約を締結した場合、契約違反にとどまらず、場合によっては詐欺などの法的責任を問われる可能性があります。

不良債権の処理と資金調達目的のファクタリングは役割が異なるため、延滞・不良債権は切り離して管理し、適切な手段を選択することが重要です。

 

  • ファクタリングは「正常債権」を前提とする資金調達スキームである
  • 長期延滞債権や不良債権は、多くのファクタリング会社で買取対象外となる
  • 不良債権の処理は、債権回収会社や弁護士など専門ルートで検討する必要がある

 

延滞・不良債権をファクタリングに持ち込む際の注意点
  • 延滞・不良債権は、資金調達ではなく「回収・処理」の対象と整理する
  • 不良債権や架空債権を正常債権と偽ることは重大な契約違反・違法行為になり得る
  • 延滞が顕在化した債権は、早期に専門家や債権回収会社への相談を検討する

 

譲渡禁止特約付き債権

譲渡禁止特約付き債権とは、取引基本契約書や個別契約書で「本契約に基づく債権を第三者に譲渡してはならない」などの条項(譲渡制限特約)が付された債権を指します。

以前の民法では、この特約に反した債権譲渡は原則として無効と解されてきましたが、債権法改正(2020年4月1日施行)により、譲渡制限特約が付されていても債権譲渡自体は「原則有効」とされました。

ただし、債務者は元の債権者への弁済で債務を免れることが認められるなど、債務者保護の仕組みは維持されています。

 

このため、法的には譲渡制限特約付き債権もファクタリングの対象とすることは可能ですが、債務者が譲渡先への支払に応じないリスクや、契約違反を巡る争いが生じるリスクが比較的高くなります。

実務では、①債務者からの個別承諾を得た上で取り扱う、②譲渡制限特約の削除・緩和を交渉する、③特約付き債権は原則対象外とする、などの運用が一般的です。

 

  • 民法改正により、譲渡制限特約に反しても債権譲渡は原則有効となった
  • 一方で、債務者は元の債権者に支払えば足りるなど、債務者保護のルールが残されている
  • ファクタリングでは、債務者の承諾の有無や取引関係への影響を踏まえて慎重に取り扱われる

 

譲渡禁止特約付き債権を扱う際の実務上のポイント
  • 契約書に譲渡制限特約がないかを事前に確認する
  • ファクタリングを予定する場合は、取引開始時から特約の削除・緩和を交渉しておく
  • 特約付き債権の譲渡は、債務者の承諾や運用ルールを明確にしたうえで検討する

 

給与・個人債権の問題

給与債権(賃金債権)は、労働基準法24条1項の「通貨払い・直接払い・全額払い」の原則により、使用者が労働者本人に直接支払うことが義務付けられています。

判例・学説上、賃金債権の譲渡自体は当事者間では有効とされますが、使用者は譲受人ではなく労働者本人に支払えば足りると解されています。

そのため、第三者が賃金債権を買い取っても、使用者に直接支払いを請求することはできず、賃金債権のファクタリングは実務上ほとんど成立しません。

 

近年、「給与ファクタリング」と称して個人の賃金債権を買い取るサービスが問題となりましたが、監督当局は、賃金債権を買い取り、賃金支払日に労働者から資金を回収するスキームは実質的に「貸付け」に当たり、貸金業法上の貸金業に該当すると明確に示しています。

また、最高裁判所も、給与ファクタリングを貸金業法等の「貸付け」に当たると判断しており、貸金業登録を受けずに業として行うことは違法とされています。

 

このため、一般的な売掛金ファクタリングの文脈では、給与債権は「ファクタリング不可債権」と整理するのが実務上適切です。

また、個人を債務者とする債権(個人向け販売の分割代金など)については、消費者保護規制や割賦販売法の枠組みが関係することが多く、通常のBtoBファクタリングとは異なる論点が生じます。

こうした個人債権の管理・回収は、クレジット会社や債権回収会社など、専用のスキームを持つ事業者が担うケースが多く、中小企業向けの一般的なファクタリングサービスでは対象外とされることが少なくありません。

 

  • 賃金債権は「直接払いの原則」があるため、実務上ファクタリングに適さない
  • 給与ファクタリングは、実質的な貸付と判断され、無登録で行えば貸金業法違反となる
  • 個人債権は消費者保護・割賦販売法などの規制が強く、専門スキームで扱われることが多い

 

給与・個人債権をファクタリング対象としない理由
  • 賃金債権は使用者が労働者本人に直接支払うことが法律で義務付けられている
  • 給与ファクタリングは実質的な貸付と評価され、無登録で行えば貸金業法違反となる
  • 個人債権は消費者保護規制が強く、一般的なBtoBファクタリングの枠組みとは性質が異なる

 

債権回収会社売却判断

延滞・不良債権については、ファクタリングではなく「債権回収会社(サービサー)」への売却・委託を検討することがあります。

債権回収会社は、「債権管理回収業に関する特別措置法」に基づき法務大臣の許可を受けた法人であり、銀行等の貸付債権、リース・クレジット債権、資産流動化に関する金銭債権、ファクタリング業者が保有する金銭債権など、法律で定められた「特定金銭債権」の管理・回収を業として行うことが認められています。

債権者は、社内での督促・法的回収を続けるか、弁護士に直接依頼するか、債権回収会社に譲渡・委託するかを比較検討します。

 

特に、件数が多い小口延滞債権や、長期間にわたり回収の見込みが低い不良債権については、自社で追い続けるよりも、一定額で売却しバランスシートから切り離すことを選ぶケースがあります。

一方で、売却価格は額面を大きく下回るのが通常であり、売却による損失計上も含め、財務・税務の観点からの検討が必要です。

 

  • 債権回収会社は、法務大臣の許可を受けて特定金銭債権の管理・回収を行う専門事業者である
  • 延滞・不良債権は、社内回収・弁護士依頼・債権回収会社への売却など複数の選択肢がある
  • 売却は早期に回収を確定できる一方、売却損や取引先との関係への影響も考慮が必要

 

債権回収会社への売却を検討しやすい場面
  • 長期延滞や倒産で、元本全額回収の見込みが乏しい債権が多い
  • 社内で回収を続けるコスト・人員負担が大きくなっている
  • 不良債権をバランスシートから切り離し、財務の健全性を高めたい

 

債権譲渡登記とリスク

債権の譲渡は、契約当事者間では合意だけで有効に成立しますが、債務者や他の譲受人など第三者に対抗するためには、民法上定められた「対抗要件」を備える必要があります。

一般的な方法は、譲渡人から債務者への通知または債務者の承諾ですが、法人が行う金銭債権の譲渡については、「債権譲渡登記制度」を利用して第三者対抗要件を備える簡便な仕組みも用意されています。

 

法務省は、この制度を法人による金銭債権の譲渡について、債務者以外の第三者に対する対抗要件を備えるための制度と位置付けています。

債権流動化やファクタリング取引では、多数の債権を1件ずつ通知するのは事務負担が重いため、登記を活用することで、二重譲渡などのリスクを抑えつつ、スキーム全体の透明性を高めることができます。

 

他方で、債権譲渡登記制度には、譲渡人・譲受人の共同申請で登記を行うことを前提とする一方、通謀して実体のない譲渡を登記した場合には、虚偽登記として無効・抹消の対象になり得るというリスクもあります。

また、金融庁は、ファクタリングを装いながら実質は高金利の貸付けである「偽装ファクタリング」に注意喚起しており、債権譲渡登記が行われていても、経済的実態が貸付に近ければ貸金業法の規制対象となり得ることを示しています。

こうした点から、ファクタリングを利用・提供する双方にとって、対抗要件と債権譲渡登記の仕組みを正しく理解し、契約内容と登記内容が一致しているかを確認することが重要です。

 

項目 概要
対抗要件 債権譲渡を第三者に主張するための要件(通知・承諾・登記など)。
債権譲渡登記 法人が行う金銭債権の譲渡について、登記により第三者対抗要件を備える制度。
主なリスク 二重譲渡、虚偽登記、偽装ファクタリングなど、実体と登記が一致しないことによるトラブル。

 

対抗要件と通知方法

債権譲渡は、譲渡人と譲受人の合意だけで当事者間では有効に成立しますが、債務者や他の譲受人など第三者に対して譲渡を主張するためには、民法が定める対抗要件を備える必要があります。

現行民法では、債権の譲渡(将来債権の譲渡を含む)は、譲渡人から債務者への通知または債務者の承諾がなければ、債務者その他の第三者に対抗することができないとされています。

通知・承諾の方式自体に厳格な形式は求められていませんが、確定日付のある証書による通知・承諾があれば、複数の譲受人が存在する場合の優先関係の判断に利用できるとされています。

 

ファクタリングでは、三者間ファクタリングのように債務者(取引先)に対する通知や承諾を前提とするスキームと、二者間ファクタリングのように債務者に通知せずに行うスキームがあります。

三者間では、債務者が譲受人への直接支払に同意するため、債権回収の透明性と法的安定性が高まる一方、取引先に資金繰り状況が伝わるという実務上の影響があります。

二者間では、債務者に通知しないため表面上の取引関係を維持しやすいものの、対抗要件をどのように備えるか(例:将来債権も含めて登記を使うか)という設計が重要になります。

 

  • 債権譲渡は、通知または承諾がなければ第三者に対抗できない。
  • 確定日付のある通知・承諾は、複数譲受人間の優先関係判断に有利。
  • 三者間では通知・承諾、二者間では登記等を組み合わせた設計が重要。

 

対抗要件と通知方法を整理するポイント
  • 基本は「通知」か「承諾」で対抗要件を備えることを前提に考える。
  • 三者間は通知・承諾を前提とし、二者間では登記など別の手段も検討する。
  • 通知の有無・方法を契約書に明確に定め、後日の紛争を避ける。

 

債権譲渡登記制度の要点

債権譲渡登記制度は、法人が行う金銭債権の譲渡について、債務者以外の第三者に対する対抗要件を簡便に備えるために設けられた制度です。

法務省は、この制度を「債権流動化をはじめとする法人の資金調達手段の多様化」に対応するため、平成10年10月1日から施行された制度と説明しています。

 

法人が金銭債権を譲渡する際、個々の債務者に通知する代わりに、法務局で債権譲渡登記を行うことで、第三者対抗要件を具備することができます。

債権譲渡登記では、譲渡人と譲受人が共同で登記申請を行うことが原則とされ、債権の範囲や譲渡日などの必要事項を登記記録に反映させます。

 

登記により備えられるのは、主として第三者対抗要件であり、債務者に対する対抗要件は別途通知・承諾によって備える必要がある点に注意が必要です。

また、法務省の解説では、譲渡人・譲受人が通謀して虚偽の登記をした場合などには、登記の抹消や損害賠償の問題が生じ得るとされており、実体と一致しない登記は大きなリスクを伴います。

 

  • 対象は「法人がする金銭債権の譲渡」が中心。
  • 第三者対抗要件を簡便に備えることができる制度。
  • 債務者への対抗は、別途通知・承諾が必要になる点に注意。

 

債権譲渡登記制度を活用する際の要点
  • 多数の債権をまとめて譲渡する場合の第三者対抗要件として有効。
  • 登記内容(対象債権・譲渡日など)が実体と一致しているかを厳密に確認する。
  • 債務者への通知・承諾が別途必要かどうかをスキーム設計段階で検討する。

 

偽装ファクタリングの論点

偽装ファクタリングとは、外形上は「債権譲渡契約」「ファクタリング契約」と称しつつ、その実態が高い手数料を伴う貸付け(債権担保貸付け)であるような取引を指します。

金融庁は、中小企業の経営者向けの注意喚起資料で、債権の買取代金が債権額に比べて著しく低額であるケースや、譲渡した債権の回収を売主に委託し、回収できない場合に買戻しや償還請求を行う条項があるケースなどを、偽装ファクタリングの疑いがある取引として例示しています。

 

このような取引は、契約書上は「売買」「債権譲渡」と記載されていても、経済的実態としては貸付と同様の機能を有していると判断されれば、貸金業法上の貸金業に該当するおそれがあります。

貸金業登録を受けていない事業者が、実質的に貸付けを行っている場合は違法となり、利用者にとっても、上限金利を超える高コストな資金調達となる可能性があります。

金融庁は、高額な手数料・大幅な割引率のファクタリングを利用すると、かえって資金繰りが悪化し、多重債務につながる危険があることも指摘しています。

 

  • 債権額に比べて極端に低い買取代金や高額な手数料。
  • 回収不能時の過度な買戻し義務・償還義務。
  • 債権の回収を売主に委託し、回収金を原資に返済させる構造。

 

偽装ファクタリングを見抜くためのチェックポイント
  • 手数料や買取率が、他のファクタリング会社と比べて著しく不利でないか。
  • 契約書に「買戻し義務」「過大な違約金」など、実質的な返済義務を課す条項がないか。
  • 事業者が貸金業登録を受けているか、公的機関の注意喚起情報と照らして確認する。

 

将来債権と民法改正

民法の債権法改正では、債権譲渡に関して「現に発生していない債権(将来債権)の譲渡」や「譲渡制限特約」の取り扱いが明文化されました。

改正前から判例・実務上、一定の条件のもとで将来債権の譲渡は認められていましたが、条文上明確ではなかったため、法務省の説明資料でも「将来の債権の譲渡が可能であることが条文上明確でない」との問題点が指摘されていました。

改正法では、将来債権であっても、発生原因や範囲が特定されていれば譲渡の対象となり得ることが条文上整理され、ファクタリング等の実務で広く利用される包括的な債権譲渡契約の法的安定性が高まりました。

 

また、譲渡制限特約についても、改正法は、特約があっても債権譲渡自体は原則として有効である一方、債務者が元の債権者への弁済で債務を免れることができるなど、債務者保護のルールを維持する形で整理しています。

これにより、資金調達の円滑化と債務者保護のバランスを図ることが意図されています。将来債権を含む包括譲渡や、譲渡制限特約のある債権を取り扱うファクタリングでは、改正民法に基づくルールを前提に、対象範囲や通知・登記の方法を設計することが重要です。

 

  • 改正民法は、将来債権の譲渡が可能であることを条文上明確化した。
  • 譲渡制限特約があっても、譲渡自体は原則有効だが、債務者保護ルールが維持されている。
  • 包括的な将来債権譲渡では、対象範囲の特定と管理方法の明確化が重要。

 

将来債権と民法改正を踏まえた実務ポイント
  • 取引基本契約など「発生原因」が特定できる将来債権を中心にスキームを設計する。
  • 譲渡制限特約の有無と内容を確認し、必要に応じて債務者の承諾や契約見直しを検討する。
  • 通知・登記などの対抗要件の備え方を、将来債権も含めて一体的に設計する。

 

中小企業の債権活用

中小企業にとって、売掛債権は「将来入ってくる現金」の大きな部分を占める資産であり、その活用次第で資金繰りの安定度が変わります。

近年は、約束手形の廃止や支払サイト短縮の流れの中で、売掛債権や電子記録債権、ファクタリングを組み合わせた資金繰り支援が中小企業政策の論点として取り上げられています。

中小企業庁の検討会資料でも、「手数料が安いこと」「比較的少額の債権にも対応すること」「短時間で現金化できること」などを、中小企業にとって使い勝手の良いファクタリングの条件として挙げています。

 

一方で、下請取引分野では、ファクタリング利用によって支払期日までに下請事業者が「代金相当額を満額受け取れない」ようなスキームは認めないとする指針改正の議論もあり、大企業側の支払手段としての乱用を防ぐ動きもあります。

中小企業が自らファクタリングを利用する場合も、あくまで自社の資金繰り安定化・リスク分散を目的とし、手数料や契約条件を踏まえて「他の資金調達手段との比較」「売掛先との取引関係への影響」を総合的に判断することが重要です。

 

活用目的 主な内容・適した場面
一時的な資金繰り対応 売上はあるが入金まで時間があり、仕入・人件費などの支払資金を早めに確保したいケース。
手形依存からの脱却 長期サイトの約束手形に依存せず、売掛債権や電子記録債権を活用した資金繰りへ転換したいケース。
取引先リスク分散 特定の大口取引先に売掛金が集中している場合に、保証やファクタリングで回収リスクを分散したいケース。

 

資金繰り悪化時の活用

資金繰りが悪化した場面でファクタリングを検討する場合、「資金ショートの原因」と「必要な資金の期間」を明確にしたうえで使い方を設計することが重要です。

中小企業政策審議会などでも、資金繰り悪化時には、まず早期相談と経営・財務の再建策を組み合わせ、その上で必要に応じて資金繰り支援策を使うという考え方が示されています。

 

ファクタリングは、その中で「短期間の資金ギャップを埋める手段」として位置づけるイメージです。

具体的には、今後3〜6か月程度の資金繰り表を作成し、入金予定のうちどの売掛債権を前倒しで資金化すると資金ショートを回避できるかを検討します。

 

その際、手数料を支払うことで粗利がどの程度目減りするか、同じ期間を銀行融資で賄った場合の利息と比べてどうか、といった比較も不可欠です。

また、毎月恒常的にファクタリングに依存すると、手数料負担が利益を圧迫し、中長期的には財務体質の悪化につながるおそれがあります。

 

  • 資金繰り表で不足額と不足期間を把握する。
  • 一時的なギャップ解消に絞り、常用化しない前提で検討する。
  • 他の公的融資・リスケジュールと組み合わせて全体の資金計画を立てる。

 

資金繰り悪化時にファクタリングを使うときのポイント
  • まず原因分析と資金繰り表の作成を行い、「どの売掛債権を資金化するか」を明確にする。
  • 必要な資金期間が長い場合は、公的融資や条件変更も含めて検討する。
  • ファクタリングは「つなぎ資金」に位置付け、手数料負担を許容できる範囲にとどめる。

 

売掛先信用力と買取率

ファクタリングの買取率(請求書額面に対する支払割合)や手数料率は、主に「売掛先の信用力」「支払サイトの長さ」「取引実績」などによって決まります。

売掛先の信用調査は、保証型ファクタリングや買取型ファクタリングいずれでも重要な工程であり、ファクタリング会社は決算情報・帝国データバンク等の信用情報・支払実績などを基に、売掛先ごとの信用リスクを評価します。

 

例えば、オンライン型ファクタリング会社の公開情報では、「売掛先への通知を行う三者間ファクタリングは信用リスクが低く、その分手数料率を低くできる」「二者間ファクタリングは売掛先の実在性・信用力を利用者の提出書類だけで確認する必要があり、リスクが高い分手数料率が上がりやすい」と説明されています。

また、フィンテック系ファクタリングの紹介資料では、具体例として買取手数料2〜9%程度のサービスが公表されており、案件ごとに売掛先の信用力やサイトの長さに応じて料率が変動することが示されています。

 

買取率と手数料のイメージを整理すると、次のようになります。

売掛先の状態 買取率・手数料の傾向(イメージ)
上場企業・大手 信用リスクが比較的低く、買取率が高く手数料率は低めに設定されやすい。
中堅企業 決算内容や支払実績により、買取率・手数料が中位水準で決定される。
中小企業・新規取引先 情報量が少ない場合や支払実績が短い場合は、買取率が低め・手数料率が高めとなることがある。

 

売掛債権の資金化を検討する際は、「自社の信用力」よりも「売掛先の信用力」が買取条件に強く影響する点を理解しておくことが重要です。

 

売掛先信用力と買取率を見るときのポイント
  • 買取率と手数料率は、主に売掛先の信用力と支払サイトの長さで決まる。
  • 三者間ファクタリングは通知・承諾により信用リスクが下がり、二者間より手数料が低い傾向がある。
  • 取引先ごとの信用度を把握し、「どの売掛先の債権を出すか」を戦略的に選ぶ。

 

債権選別と手数料管理

ファクタリングのコストを適切に管理するには、「どの債権を出すか」を選別し、「実質コスト(年率換算)を把握する」ことが重要です。

ファクタリング手数料は、請求書額面に対する割合(例:手数料率5%)として表示されるのが一般的ですが、実際には「何日分前倒しで資金化するのか」によって負担の重さが大きく変わります。

 

実質年率の概算は、次のようにイメージできます。

「実質年率 ≒ 手数料率 ÷(入金を前倒しした日数 ÷ 365)」

 

例えば、請求書額面1,000万円の売掛債権を、支払期日より30日早くファクタリングし、手数料率5%(手数料50万円)の場合、実質年率はおおよそ60%前後になります。

一方、同じ5%でも前倒し日数が90日であれば、実質年率は約20%程度に下がります。短期間の前倒しで高い手数料率を設定すると、実質的な資金コストが非常に高くなる点に注意が必要です。

 

  • 粗利率が低い取引の売掛債権を頻繁にファクタリングすると、利益が圧迫されやすい。
  • 単価が小さい売掛債権を多数出すと、最低手数料や事務コストの比率が高まる。
  • 支払期日までの日数と手数料率を組み合わせて、実質年率を概算する。

 

債権選別と手数料管理の実務ポイント
  • 粗利率が高く、入金サイトが長い取引を優先してファクタリング対象とする。
  • 毎月恒常的に利用するのではなく、「繁忙期」「一時的な設備投資」など目的を限定する。
  • 見積もり時に、手数料以外の事務手数料・振込手数料も含めた総コストを確認する。

銀行融資との使い分け

ファクタリングと銀行融資はどちらも資金調達手段ですが、性質とコスト構造が異なります。銀行融資は、借入金として貸借対照表の負債に計上される一方、ファクタリングは売掛債権の譲渡であり、負債ではなく資産の売却として扱われるのが一般的です。

また、日本政策金融公庫など公的金融機関の中小企業向け融資では、代表例として年1〜2%台の利率が示されており、長期の運転資金・設備資金を低コストで調達することが想定されています。

 

一方、オンライン型ファクタリングの手数料は、公開情報上、案件や期間にもよりますが「数%〜10数%程度」の範囲で設定されている例が多く、年率換算すると銀行融資より高コストになるケースが一般的です。

その代わり、担保・保証人が不要で、審査から入金までが早いという点がメリットです。

中小企業庁の資料でも、「少額債権に対応」「審査が早い」といった点が中小企業の資金繰り支援として期待される一方で、高コストになり過ぎないようなサービス設計が課題とされています。

 

  • 長期・反復的な運転資金や設備投資 ⇒ 公的融資・銀行融資を軸に検討。
  • 一時的な資金ギャップの解消 ⇒ ファクタリングや手形割引など短期手段も選択肢。
  • 決算書上の借入金残高を増やしたくない場合 ⇒ ファクタリングで売掛債権を現金化する選択肢。

 

銀行融資とファクタリングの使い分けイメージ
  • 銀行融資:低コストだが審査に時間がかかり、決算内容や担保・保証が重視される。
  • ファクタリング:コストは高めだが、売掛先の信用力を重視し、スピードと柔軟性に優れる。
  • 両者を対立的に捉えるのではなく、「長期資金=融資」「短期ギャップ=ファクタリング」と役割分担を意識する。

 

まとめ

本記事では、ファクタリング債権の基礎から、対象となる債権の種類、利用できない債権、債権譲渡登記と法的リスクまでを一連の流れで整理しました。どの債権を資金化できるかを把握することで、資金繰り悪化時でも選択可能な手段を客観的に検討できます。

自社の売掛先の信用力や契約上の譲渡制限の有無を確認し、銀行融資とファクタリングを比較しながら、適切な資金調達スキームの選定に役立てることができます。