ファクタリングを検討する際、「司法書士にはどこまで頼むべきか」「債権譲渡登記は必ず必要なのか」と疑問を持つ中小企業は少なくありません。本記事では、ファクタリングと司法書士の基本的な関係、債権譲渡登記が必要となる場面と手続きの流れ、登記不要型スキームとの違いを整理します。
あわせて、契約書チェックや違法な給与ファクタリングへの対応、弁護士など他の専門家との役割分担も解説し、安全かつ適切に資金調達を行うための判断材料を提供します。
目次
ファクタリングと司法書士の基本関係
ファクタリングと司法書士の関係を理解するには、まず双方の役割を押さえる必要があります。
司法書士は、司法書士法に基づき「登記・供託・訴訟等に関する手続の適正かつ円滑な実施」を通じて国民の権利保護に寄与することを目的とする法律専門職で、不動産登記・商業登記などの登記申請を代理することが主な業務です。
近年は、不動産登記や会社・法人登記に加え、動産・債権譲渡登記など企業金融に関わる登記も取り扱う実務が広がっています。
一方、ファクタリングは、事業者が保有する売掛債権などの金銭債権をファクタリング会社に譲渡し、手数料を差し引いた金額を早期に受け取る資金調達方法で、法形式上は「債権譲渡契約」として扱われます。
売掛債権の譲渡は、民法上、第三者に対抗するために通知または承諾、あるいは債権譲渡登記による対抗要件の具備が必要とされており、特に2社間ファクタリングでは、取引先に通知を出さずに法務局への債権譲渡登記を利用するケースがあります。
この「債権譲渡登記」は、法人が行う金銭債権の譲渡について、譲渡の事実を公示し、第三者に対する優先関係を明確にする制度であり、東京法務局民事行政部債権登録課が全国一括で取り扱っています。
ファクタリング会社が債権譲渡登記を行う際、登記申請書類の作成・申請代理を専門家である司法書士に依頼する運用が広く見られ、債権譲渡登記事項証明書の取得までを含めてサポートするのが典型的な関与パターンです。
| 当事者 | ファクタリング取引での主な役割 |
|---|---|
| 利用者(中小企業) | 売掛債権の内容を示す請求書・契約書を用意し、ファクタリング会社と契約を締結 |
| ファクタリング会社 | 売掛債権の買取審査・契約締結・資金支払を行い、必要に応じて債権譲渡登記を実施 |
| 司法書士 | 債権譲渡登記申請書や添付書類の作成・法務局への登記申請代理など、登記手続の専門部分を担う |
司法書士の主な業務と役割
司法書士は、登記や供託、裁判所等に提出する書類の作成を通じて、権利関係を公的に明確化する役割を担う国家資格者です。
司法書士法および各司法書士会の規程では、目的として「登記・供託・訴訟等に関する手続の適正かつ円滑な実施を図り、国民の権利保護に寄与すること」が掲げられており、企業や個人が行う各種登記を専門的に支援する立場にあります。
具体的な業務としては、不動産の所有権移転・抵当権設定などの不動産登記、会社設立や役員変更、本店移転などの商業・法人登記が中心ですが、動産・債権譲渡登記や後見登記など、企業金融や相続・事業承継に関連する登記も代理することができます。
これらの登記は、法務局に備え付けられた登記簿に権利関係を記録し、第三者に対する公示・対抗要件の役割を果たすものであり、記載内容の正確性が重要です。
司法書士は、登記対象となる権利の内容、契約関係、当事者の意思などを確認し、誤りのない申請を通じて権利関係の安定に寄与します。
また、司法書士は、裁判所・検察庁等に提出する書類の作成や、一定範囲(簡易裁判所管轄・訴額140万円以下)の民事紛争について代理する「認定司法書士」としての業務も担うことができ、契約トラブルや債権回収に関する相談窓口として機能する場合もあります。
ファクタリングに直接関わる場面に限らず、会社・法人の登記事項の整備や、事業承継・再編に伴う登記実務など、企業活動全般の法務インフラを支える存在と言えます。
- 不動産登記・商業登記など各種登記申請を代理し、権利関係を公的に明確化する
- 動産・債権譲渡登記や後見登記など、企業金融・相続関連の登記も取り扱う
- 裁判所提出書類の作成や、一定範囲での民事紛争の代理(認定司法書士)も可能
- 企業・個人の法的手続を支援し、権利保護と取引の安全性向上に寄与する
ファクタリングで関わる典型場面
ファクタリングの実務において司法書士が関わりやすいのは、債権譲渡登記を行う場面です。
債権譲渡登記は、債権を譲渡した事実を法務局に記録し、「誰が正当な債権者か」を第三者に主張できるようにする制度で、法人が行う金銭債権の譲渡について第三者対抗要件を備える手段と位置付けられています。
この債権譲渡登記は東京法務局民事行政部債権登録課が全国一括で取り扱っており、登記申請書の作成や添付書類の整備には専門的な知識が必要とされるため、ファクタリング会社が司法書士に登記申請を依頼する運用が一般的です。
ファクタリングには、利用者とファクタリング会社の2者間で行う「2社間ファクタリング」と、取引先(債務者)を含む「3社間ファクタリング」があり、2社間では取引先に債権譲渡の通知をせずに債権譲渡登記で対抗要件を確保するスキームが用いられることがあります。
3社間では、取引先への通知・承諾を前提とするため、必ずしも債権譲渡登記を要しないケースもありますが、大口取引やリスク管理の観点から登記を併用する事例も見られます。
このように、どのスキームを採用するかによって、司法書士が関与する場面や頻度は変わります。
中小企業の利用者の立場から見ると、ファクタリング契約書の中に「債権譲渡登記費用」などの名目で費用項目が設けられており、その裏側でファクタリング会社が司法書士に登記申請を依頼しているケースが多いとされています。
利用者自身が直接法務局に出向いて登記申請を行う場面は少なく、実務上はファクタリング会社と司法書士との間で登記手続が完結し、その結果として発行される債権譲渡登記事項証明書などをもとに、取引の安全性や権利関係が確認される流れが一般的です。
こうした役割分担を理解しておくと、「なぜ司法書士費用が発生するのか」「どの範囲まで司法書士に依頼されているのか」を判断しやすくなります。
- 債権譲渡登記申請書・添付書類の作成と法務局への申請代理
- 登記事項概要証明書・登記事項証明書の取得など登記情報の取得
- 2社間ファクタリングでの対抗要件確保スキームの実務サポート
- 契約内容と登記内容の整合性確認など、取引の安全性を高めるための助言
債権譲渡登記と司法書士の役割
債権譲渡登記は、会社などの法人が行う金銭債権の譲渡について、その内容を法務局(正確には東京法務局民事行政部債権登録課)に登記し、「誰が正当な債権者か」を第三者に対して主張できるようにする制度です。
対象は「法人が行う指名債権(金銭債権)の譲渡」に限定されており、登記をすることで、民法上の確定日付のある通知・承諾と同様に第三者対抗要件を備えることができます。
ファクタリングは、売掛債権の譲渡を前提とした取引であるため、特に2社間ファクタリングでは、取引先に通知をしない代わりに債権譲渡登記を利用して対抗要件を確保するスキームがよく使われます。
一方で、取引先への通知・承諾を前提とする3社間ファクタリングでは、債権譲渡登記を行わないケースも多く、登記の要否はスキームとファクタリング会社のリスク管理方針によって決まります。
司法書士は、こうした債権譲渡登記の申請書作成や手続を代理し、登記事項証明書・登記事項概要証明書の取得まで含めて実務をサポートする役割を担います。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象となる債権 | 法人が行う指名債権(金銭債権)の譲渡が対象 |
| 主な目的 | 債権譲渡の事実を公示し、他の債権者・譲受人に対する優先関係を明確化 |
| ファクタリングでの位置付け | 特に2社間ファクタリングで、対抗要件確保とリスク管理のために利用されることが多い |
| 司法書士の役割 | 登記申請書類の作成・申請代理、証明書取得など登記実務全般のサポート |
債権譲渡登記が必要となるケース
債権譲渡登記は、法律上「必ず行わなければならない」ものではなく、第三者対抗要件をどの方法で備えるかの選択肢の一つです。
民法上、債権譲渡の対抗要件は原則として、債務者への確定日付のある証書による通知または承諾、もしくは債権譲渡登記によって備えることができます。
そのため、ファクタリングでも、売掛先に通知・承諾を行う3社間スキームであれば、登記を行わずに対抗要件を確保することが可能です。
一方、2社間ファクタリングで売掛先に通知をしない場合、ファクタリング会社は「将来、同じ売掛金が二重に譲渡されないか」「他の債権者より優先して回収できるか」といった点を重視します。
このとき、債権譲渡登記を行っておくと、他の譲受人や差押えを行った債権者などに対して、自社が優先的に権利を主張しやすくなります。
そのため、大口の売掛金、複数回の継続的なファクタリング取引、複数の金融機関・債権者との関係がある企業などでは、ファクタリング会社から債権譲渡登記の実施を求められるケースが多くなります。
なお、債権譲渡登記の対象は「法人が行う金銭債権」に限定されているため、個人名義の債権だけでは登記ができません。
個人事業主がファクタリングを利用する場合は、3社間ファクタリングで売掛先への通知・承諾を行う、あるいは法人化してから法人名義の売掛金を対象にするなど、別の形で対抗要件を備えるのが一般的です。
いずれにしても、「どの範囲の債権について、どの方法で対抗要件を備えるか」は、ファクタリング会社のリスク管理方針や案件の規模によって決まるため、契約前に説明を受けておくことが重要です。
- 2社間ファクタリングで売掛先に通知をしないケース
- 大口・継続取引など、他の債権者との優先関係を明確にしたいとき
- 複数の金融機関・債権者と取引があり、二重譲渡リスクに配慮する必要があるとき
- 法人名義の金銭債権を対象とし、第三者対抗要件を確実に備えたいとき
登記手続きの流れと費用相場
債権譲渡登記の手続きは、概ね「ファクタリング契約の締結 → 司法書士による登記申請書類の作成 → 登録免許税の納付 → 東京法務局民事行政部債権登録課への申請(書面またはオンライン) → 登記完了・証明書取得」という流れで進みます。
申請にあたっては、譲渡人・譲受人の名称、対象となる債権の内容(債務者名・債権の種類・金額・支払期日など)を記載した登記申請書に、債権譲渡契約書など必要書類を添付します。
実務上、多くのファクタリング会社は司法書士に申請手続を依頼し、登記完了後に債権譲渡登記事項概要証明書や登記事項証明書を取得して保管します。
費用面では、登記申請1件あたりの登録免許税が、対象となる債権の個数が5,000個以下の場合7,500円、5,000個を超える場合15,000円と定められています(租税特別措置法による軽減後)。
これに加えて、登記事項証明書・概要証明書の交付手数料が1通あたり数百円程度必要になります。
さらに、司法書士に手続を依頼する場合、司法書士報酬として数万円程度が必要になるとの試算も示されており、登記に関する総費用は案件規模にもよりますが「登録免許税+証明書手数料+司法書士報酬」を合計して数万円台になることが多いとされています。
ファクタリング取引では、これらの登記関連費用を「登記費用」「事務手数料」などの名目で利用者側が負担するケースと、ファクタリング会社が負担するケースがあります。
契約書や見積書で、手数料率とは別に「登記関連費用」がどのように扱われているかを確認しておくと、実質的なコストを把握しやすくなります。
- 登録免許税は通常1件7,500円(債権個数5,000個以下の場合)
- 証明書交付手数料や司法書士報酬を含めると総額は数万円台になりやすい
- 申請は東京法務局民事行政部債権登録課への書面またはオンライン申請
- ファクタリング契約書で「登記費用」の負担者と金額の扱いを確認する
登記を省略できるファクタリング
ファクタリングにおいて、債権譲渡登記は必ずしも「必須」ではありません。
3社間ファクタリングでは、取引先(債務者)に対して債権譲渡通知を行ったり、承諾を得たりすることで対抗要件を備えるのが一般的であり、この場合は債権譲渡登記を行わないスキームが多く採用されています。
また、2社間ファクタリングでも、取引規模やリスク許容度に応じて債権譲渡登記を行わない商品を提供する事業者もあり、「登記不要」「通知不要」を特徴とするサービスもみられます。
債権譲渡登記を行わない場合、登記に伴う登録免許税や司法書士費用がかからないため、利用者にとってのコスト負担を抑えやすいという側面があります。
また、登記情報は一定範囲で第三者が閲覧できるため、「取引先に知られにくい形でファクタリングを利用したい」というニーズがあるケースでは、登記を使わないスキームが選択されることもあります。
一方で、登記を行わない場合は、二重譲渡や他の債権者との優先関係について、通知・承諾スキームや契約管理でリスクをコントロールする必要があり、そこは各ファクタリング会社の審査・管理方針に委ねられます。
利用者としては、「登記を行うかどうか」で、費用負担・情報開示の範囲・リスク管理の方法が変わることを理解し、自社の状況に合ったサービスを選ぶことが重要です。
登記があるから良い、ないから悪いという一律の評価ではなく、取引規模・売掛先との関係・利用頻度などを踏まえて、手数料率やその他の条件と合わせて比較検討すると、より自社に適したファクタリングを選びやすくなります。
- 3社間ファクタリングでは通知・承諾により対抗要件を備えるのが一般的
- 登記不要型は登記費用がかからず、コスト面で有利になる場合がある
- 登記を行わない分、通知・契約管理など別の方法でリスク管理が行われる
- 費用・開示範囲・リスク管理のバランスを踏まえてサービスを比較する
中小企業が司法書士へ相談する場面
中小企業がファクタリングを利用する際、「どの書類まで専門家に見てもらうべきか」「登記や名義変更は自社で対応できるのか」といった実務的な悩みが生じやすくなります。
司法書士は、不動産登記・商業登記などの登記手続の専門家であり、会社設立や役員変更、本店移転など企業の基本情報に関わる登記のほか、動産・債権譲渡登記など企業金融に関連する登記も扱うことができます。
これらは、ファクタリングを含む資金調達スキームの安全性や、取引先・金融機関との信頼性に直結する部分です。
また、日本司法書士会連合会は、全国の司法書士会を通じて「司法書士総合相談センター」や各種法律相談窓口を設置しており、会社や借金問題、相続など、企業活動に関係する幅広いテーマで相談を受け付けています。
中小企業にとっては、ファクタリング契約そのものの是非を検討する段階だけでなく、「会社登記の現状が適切か」「今後の資本政策や事業承継と合わせてどう設計するか」といった中長期的な視点でも、司法書士に相談する価値があります。
| 相談テーマ | 司法書士が関わりやすい場面 |
|---|---|
| ファクタリング利用前 | 会社・法人登記の内容(商号・本店・目的・役員等)が現状と合っているかの確認 |
| 契約締結時 | 登記手続を前提とする契約条項や、役員決議・株主総会決議の要否を確認 |
| 利用後・継続利用時 | 債権譲渡登記、動産譲渡登記、役員変更・増資等に伴う商業登記の実務サポート |
契約書チェックとトラブル予防
ファクタリングを含む資金調達の場面では、契約書の内容が将来のトラブルを左右します。
中小企業の実務では、法務担当者が不在で「契約書等をチェックする担当者を設置していない」ケースが多いとされ、契約内容の把握不足や手続き漏れが法令・手続違反の一因になるとの指摘もあります。
そのため、自社だけでは判断が難しい条文や登記に関連する条項について、司法書士や弁護士など専門家の意見をあらかじめ確認しておくことは、トラブル予防の観点から有効です。
司法書士は、登記に直結する議事録や契約書、各種合意書など「法律関係に関する文書」の作成・チェックに関わる職務を担うべきだとする意見も日本司法書士会連合会から示されており、契約書の内容を依頼者に分かりやすく説明することの重要性が指摘されています。
ファクタリング契約においても、例えば「債権譲渡の範囲」「2社間/3社間スキームの違い」「登記や通知の扱い」「取引先への影響」など、登記や権利関係に関係する部分を中心に、条文の意味を整理してもらうことで、自社が負う義務とリスクを把握しやすくなります。
もっとも、事業者間の契約トラブル全般については、中小企業庁が「事業者間の契約等トラブルに関しては、弁護士に相談するように」と案内しているように、紛争性が高い案件や損害賠償・訴訟を見据えた対応は弁護士の領域となります。
そのため、ファクタリング利用前には「登記や会社法上の手続きが適切か」「契約の形式面に問題がないか」といった予防的な観点で司法書士に相談し、すでにトラブルが顕在化している場合には弁護士を含めた相談体制を検討する、という役割分担を意識しておくとよいでしょう。
- 登記や会社法上の手続きと関連する条文の確認・整理
- 議事録や合意書など、登記に必要な書面の作成・形式面のチェック
- 専門用語や条項の意味を、経営者にも分かりやすく説明するサポート
- トラブルが顕在化する前の予防的な相談窓口としての活用
登記や名義変更の実務サポート
ファクタリングは単体の取引として完結する場合もありますが、実務上は「会社の体制を整える」「将来的な資金調達や事業承継を見据えて、登記情報を最新に保つ」といった経営全体の視点が重要になります。
日本司法書士会連合会の情報でも、司法書士は不動産登記や会社・法人登記の専門家として、会社設立・役員変更・目的変更・本店移転など、企業活動に伴うさまざまな登記を担う存在とされています。
例えば、ファクタリングを利用する際に、商業登記簿上の代表者や本店所在地が実態と異なっていると、ファクタリング会社の審査で追加資料の提出が必要になったり、契約書・登記情報の不一致から手続きが長引いたりする可能性があります。
また、今後、借入や保証付き融資、他の金融機関との取引を併用する場合にも、登記情報が現状と一致していることは、信用力や手続きのスムーズさに直結します。
司法書士に相談することで、こうした商業登記の内容が現状に合っているかを点検し、必要に応じて役員変更登記や本店移転登記などの名義変更を適切に行うことができます。
さらに、債権譲渡登記や動産譲渡登記など、ファクタリングや在庫・売掛金を担保とする資金調達に関係する登記では、申請書類の作成や法務局への申請窓口が限定されているため、司法書士の実務サポートが有効です。
相続や事業承継を見据えた場合には、株主構成や役員構成の変更、持株会社化など、会社法上の手続きと商業登記の両面から検討する必要があり、この点でも司法書士が関わる場面が増えています。
ファクタリングの利用をきっかけに、登記・名義の整備を一体的に進めることで、今後の資金調達や事業運営の土台を強化しやすくなります。
- 商業登記簿と実態(代表者・本店・目的など)のズレを解消できる
- 役員変更や本店移転など、会社の変化に応じた登記手続を適切に実行できる
- 債権譲渡登記・動産譲渡登記など、専門性の高い登記も一括して依頼できる
- 将来の融資・事業承継を見据えた、法務インフラの整備につながる
給与ファクタリング等の違法取引対応
「ファクタリング」という名称が付いていても、対象が事業用の売掛金ではなく、個人の給与(賃金債権)である場合は、法的な位置付けが大きく異なります。
金融庁や消費者庁は、個人の賃金債権を買い取って金銭を渡し、給与支払日に労働者から資金を回収するいわゆる「給与ファクタリング」は、実質的には貸付けであり貸金業に該当すると明確に示しています。
貸金業登録のない事業者が同様のスキームを行うと、違法なヤミ金融として扱われる可能性が高く、極端に高い手数料(年率換算で数百〜千数百%)や悪質な取立てによる被害が問題となっています。
さらに、最高裁判所は令和5年2月、給与ファクタリングと称する取引を貸金業法や出資法上の「貸付け」に当たると判断し、この種の取引がヤミ金融であることを明確にしました。
日本司法書士会連合会も、この判決を受けて、給与ファクタリング事業者は出資法の上限を超える利息を受け取る違法なヤミ金融であるとする声明を公表し、後払い現金化等の新たな手口にも警戒を呼び掛けています。
一方で、企業間で行われる通常の売掛金ファクタリングは、適切な枠組みのもとであれば債権譲渡契約として認められており、給与ファクタリングとは区別して考える必要があります。
重要なのは、「誰のどの債権を対象にしているのか」「実質的に貸付けになっていないか」を見極めることです。
| 項目 | 事業用ファクタリング | 給与ファクタリング等 |
|---|---|---|
| 対象債権 | 法人・個人事業主の売掛金など事業用金銭債権 | 個人の給与(賃金債権)など生活資金に直結する債権 |
| 法的位置付け | 債権譲渡契約(条件によっては貸金規制との関係に注意) | 貸金業法上の「貸付け」に該当(登録がなければヤミ金融) |
| 主なリスク | 二重譲渡・回収不能リスクなど商取引上のリスク | 過大な手数料・違法金利、悪質な取立て、生活破綻リスク |
| 公的見解 | 利用に当たって条件や手数料への注意喚起 | 利用しないよう強い注意喚起・ヤミ金融としての取締り対象 |
給与ファクタリングの法的位置付け
給与ファクタリングとは、個人が勤務先に対して持つ給与(賃金債権)を、支給日前に「買取り」という形で業者に譲渡し、手数料を差し引いた金銭を受け取り、給与支給日以降に本人から業者へ返済する仕組みを指します。
消費者庁・金融庁・警察庁などは連名で、「このような給与ファクタリングを業として行う行為は、経済的には金銭の貸付けと同様の機能を持ち、貸金業に該当する」との見解を示しており、貸金業登録のない事業者は違法なヤミ金融に当たると注意喚起しています。
背景には、労働基準法上、賃金は原則として労働者本人に直接支払うべきとされており、賃金債権を第三者に譲渡しても、使用者(勤務先)はその第三者に直接支払うことが想定されていないという構造があります。
そのため、実際には業者が労働者本人から資金を回収する形になり、金銭交付から回収までを含めた「資金移転の仕組み」として貸付けと同様に評価されると説明されています。
さらに、最高裁判所第三小法廷は令和5年2月、給与ファクタリングと称する取引について、貸金業法および出資法にいう「貸付け」に当たると判断しました。
日本司法書士会連合会は、この判決を受けて「給与ファクタリング事業者はヤミ金融であることが認定された」とし、多くの事業者が出資法の上限を超える利率の金員を受け取っていたことを指摘しています。
このように、給与ファクタリングは、名称に「ファクタリング」と付いていても、法的には高金利の貸付けとして扱われるケースが一般的であり、事業者向けの売掛金ファクタリングとは明確に区別されています。
事業者が自社の売掛債権を資金化する通常のファクタリングと、個人の給与を対象とする給与ファクタリングを混同しないことが重要です。
- 個人の賃金債権を対象とし、実質は貸付けと評価される
- 貸金業登録のない事業者が行えば違法なヤミ金融となる
- 高額な手数料は、年率換算で法定上限を大きく超えるケースが多い
- 事業者向け売掛金ファクタリングとは区別して考える必要がある
闇金型ファクタリングへの司法書士対応
給与ファクタリングや「後払い現金化」「先払い買取現金化」など、名目上は債権の売買やファクタリングを装いながら、実質的には高金利の貸付けとなっているスキームは、ヤミ金融の一形態として問題視されています。
日本司法書士会連合会は、給与ファクタリングを貸付けと認定した最高裁判決を踏まえ、「給与ファクタリングを営む者はヤミ金融である」と明確に指摘するとともに、業者が新たな手口に移行している現状への警戒を表明しています。
司法書士会は従来から、多重債務問題やヤミ金融被害に対して積極的に取り組んできた経緯があり、「ヤミ金撲滅に向けて最後まで闘う」とする決議を行い、登録・無登録を問わず違法な貸付けに関する相談に対応する姿勢を示しています。
司法書士は、簡易裁判所の管轄内・一定金額以下の債権については認定司法書士として代理権を持つため、ヤミ金融業者との交渉や返済条件の見直し、違法な利息部分の返還請求などに関与することができます。
給与ファクタリング等の被害に遭った個人は、金融庁・消費者庁・警察だけでなく、各地の司法書士会や総合相談センター、弁護士会の相談窓口に相談することで、法的な位置付けの確認や、今後取るべき対応の助言を受けることができます。
東京司法書士会なども、給与ファクタリングを「新手のヤミ金」と位置付け、注意喚起と相談先の案内を行っています。
中小企業の経営者にとっても、従業員が給与ファクタリングに巻き込まれた場合、勤務先への連絡や職場への影響が生じることがあり得ます。
その際には、従業員本人が司法書士や弁護士、消費生活センター等の公的窓口に相談できるよう情報提供を行い、企業は従業員の生活再建支援と法令遵守の両面から冷静に対応することが重要です。
- 各地の司法書士会・司法書士総合相談センター
- 弁護士会の法律相談窓口・法テラス等
- 消費生活センター・消費者ホットライン
- 金融庁・消費者庁・警察など公的機関への相談
司法書士と他専門家の選び方
ファクタリングやその他の資金調達で法的な検討が必要になったとき、「司法書士に相談すべきか、弁護士や他の専門家に相談すべきか」で迷う中小企業は少なくありません。
司法書士は、司法書士法に基づき登記・供託に関する手続の代理や、裁判所等に提出する書類作成などを行う専門職であり、主に不動産登記や商業登記、動産・債権譲渡登記、相続・成年後見などの分野を担当します。
一方、弁護士は弁護士法に基づき、訴訟事件・非訟事件その他一般の法律事務を取り扱うことを職務とし、紛争性の高い案件や高額なトラブルについても包括的に対応できる立場です。
さらに、税務・会計の分野には税理士、経営改善や事業承継・M&Aの分野には中小企業診断士や公認会計士など、目的に応じて選ぶべき士業が異なります。
中小企業庁の資料でも、事業承継や経営改善では、弁護士・税理士・司法書士・中小企業診断士など複数の専門家が連携して支援する体制の有効性が示されています。
そのため、「登記・契約書・社内体制の整備」は司法書士、「紛争・損害賠償・交渉」は弁護士、「税務・資金繰りの数字」は税理士、「事業計画・経営戦略」は中小企業診断士、といった大まかな役割分担を頭に入れたうえで、自社の課題にあった専門家を選ぶことが重要です。
| 専門家 | 中小企業が相談しやすい主なテーマ |
|---|---|
| 司法書士 | 不動産・会社登記、債権譲渡登記、会社設立・役員変更、相続・成年後見等 |
| 弁護士 | 契約トラブル、債権回収、取引紛争、労務紛争、訴訟・交渉全般 |
| 税理士 | 決算・申告、税務相談、資金繰りの数字管理、節税策の検討 |
| 中小企業診断士等 | 事業計画、資金繰り改善、事業承継・M&A、補助金活用など経営全般 |
司法書士と弁護士の役割の違い
司法書士と弁護士は、いずれも法律分野の専門家ですが、法律上の権限と主な守備範囲には明確な違いがあります。
司法書士は、司法書士法第3条に基づき、登記・供託手続の代理、法務局等に提出する書類の作成、裁判所・検察庁提出書類の作成などを業とすることとされています。
さらに、法務大臣の認定を受けた「認定司法書士」は、簡易裁判所が扱う訴額140万円以下の民事事件について、訴訟代理や和解交渉など一定範囲の代理業務を行うことが認められています。
これに対して弁護士は、弁護士法第3条で「訴訟事件、非訟事件、行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事務」を職務とすると定められており、法律事務全般を扱える立場です。
訴額の上限や裁判所の種類による代理権の制限はなく、高額な紛争や複雑な訴訟、交渉案件についても包括的に対応できます。
日弁連や各弁護士会も、「法律相談・裁判・交渉・契約書作成などの法律事務全般が弁護士の職務」であることや、「法律事件・事務のすべてを扱うことができる」といった説明を行っています。
したがって、ファクタリングを含む企業取引の場面で整理すると、「登記や会社・不動産に関する名義の整備」「債権譲渡登記など手続面のサポート」は司法書士が得意とする領域であり、「手続きの結果として生じた紛争」「取引先との交渉・訴訟」「高額な損害賠償の可能性がある案件」は弁護士の守備範囲になると理解しておくとわかりやすくなります。
- 登記・供託・裁判所提出書類の作成など「手続中心」は司法書士が得意
- 簡易裁判所・140万円以下の民事紛争は認定司法書士が一部代理可能
- 紛争性が高い事件や高額案件・訴訟全般は弁護士が担当
- 同じ案件でも「登記・名義」は司法書士、「紛争・交渉」は弁護士と役割分担するケースもある
相談先を選ぶチェックポイント
具体的にどこへ相談するかを決める際には、「何のテーマについて」「どの程度の金額・リスクがあるのか」「今後どこまで踏み込んだ対応が必要になりそうか」を軸に検討することが重要です。
登記や会社設立・役員変更、事業承継に伴う株式移転・相続登記など、主に登記や手続きが中心の課題であれば司法書士への相談が第一候補になります。
一方、すでに取引先と条件をめぐる対立が生じている、損害賠償や解除・解約を巡って紛争が顕在化しているといった場合には、初動から弁護士を含めて検討する方が適切です。
また、法テラスは、経済的に余裕のない人を対象に弁護士・司法書士による無料法律相談制度や費用立替え制度を用意しており、「どこに相談すべきか分からない」という段階でも、相談窓口や制度を案内する役割を担っています。
中小企業庁や商工会議所・商工会、よろず支援拠点なども、経営・資金繰り全般の相談窓口として、必要に応じて弁護士・司法書士・税理士・中小企業診断士などへの橋渡しを行っており、事業承継ガイドラインでも「弁護士や司法書士等の専門家に相談することが有益」と明記されています。
相談先を選ぶ際は、「専門分野・得意分野」「ファクタリングや資金調達に関する取扱実績」「費用体系の分かりやすさ」「コミュニケーションのしやすさ」なども重要です。
初回相談で、案件の概要と自社の希望(登記だけ任せたいのか、交渉・訴訟まで見据えるのか)を伝えたうえで、自社の状況に合うサポート範囲かどうかを確認すると、ミスマッチを防ぎやすくなります。
- 課題の中心が「登記・手続」か「紛争・交渉」かを整理する
- 金額規模(140万円以下か、それ以上か)や将来の紛争リスクを確認する
- ファクタリングや資金調達分野の取扱実績があるかを事前にチェックする
- 法テラス・商工会議所等の公的窓口も活用し、必要に応じて複数の専門家に相談する
まとめ
ファクタリングでは、債権譲渡登記の要否や契約内容の妥当性など、専門知識が関わるポイントが多く、司法書士に相談する場面も少なくありません。
登記手続きや名義変更などの実務サポートを司法書士が担い、紛争性が高いトラブルや違法性の判断は弁護士の領域になるなど、役割の違いを理解しておくことが重要です。
自社の取引形態・資金ニーズ・リスク許容度を整理したうえで、必要に応じて司法書士や他の専門家に相談することで、法的リスクを抑えながら、自社に合ったファクタリング利用や資金調達の選択肢を検討しやすくなります。























