「ファクタリングと助成金はどちらを優先すべきか」「併用して資金繰りを安定させたい」と考える中小企業は少なくありません。本記事では、ファクタリングと助成金・補助金・給付金の仕組みや審査、入金タイミング、資金用途の違いを整理し、起業期・赤字期・成長期それぞれで想定しやすい資金調達パターンを解説します。あわせて、補助金交付決定後のつなぎ資金としての活用例や、どの場面でどの制度を選ぶべきかの判断軸も確認できます。
目次
ファクタリングと助成金の基本
ファクタリングは、事業者が保有している売掛債権(請求書等)を期日前にファクタリング会社が買い取り、手数料を差し引いた現金を支払う仕組みです。
金融庁も「事業者の資金調達の一手段」であり、法的性質は債権の売買(債権譲渡)であると説明しています。
売掛金を早期に現金化できるため、運転資金(仕入れ、外注費、給与、家賃など)の不足を補う目的で利用されることが一般的です。
中小企業庁の資料でも、支払サイトが長い売掛債権を持つ事業者の資金繰りを改善する手段の一つとして、質の良いファクタリングの活用が挙げられています。
一方、助成金・補助金・給付金は、国や自治体などの公的機関が、一定の要件を満たした事業者に対して行う資金支援です。
中小企業庁の資料では、補助金・助成金などの行政からの支援は「返済不要」である一方、単年度の資金提供が多く、事業目的や資金使途があらかじめ定められている点が特徴とされています。
たとえば、IT導入補助金は中小企業・小規模事業者のITツール導入を支援する補助金、小規模事業者持続化補助金は販路開拓などの取り組みを支援する補助金として制度設計されています。
雇用関係では、キャリアアップ助成金のように、非正規雇用労働者の正社員転換や賃金アップを行った事業主に対して支給される助成金もあります。
このように、ファクタリングは「既に発生している売掛金を原資にした短期資金調達」、助成金・補助金・給付金は「政策目的に応じた返済不要の資金支援」と整理できます。
両者の違いを理解したうえで、自社の資金ニーズ(タイミング・金額・使途)に応じて組み合わせを検討することが重要です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ファクタリング | 売掛債権を早期に現金化する取引。法的には債権売買であり、主に運転資金の確保を目的とする。返済義務はなく、手数料が発生。 |
| 助成金 | 雇用や人材育成など一定の取組みを行った事業主に支給される返済不要の資金。要件を満たせば支給されるものが多い。 |
| 補助金 | 設備投資・IT導入・販路開拓など特定の事業を支援する返済不要の資金。公募・審査・採択を経て交付される。 |
| 給付金 | 災害・景気悪化などに対応し、一定の要件を満たす事業者・個人に支給される資金の総称。目的や対象は制度ごとに異なる。 |
ファクタリングの仕組みと資金用途
ファクタリングの基本的な流れは、売掛金が発生した段階で、その債権をファクタリング会社に譲渡し、手数料を差し引いた金額を早期に受け取る、というものです。
一般に「二者間ファクタリング」と「三者間ファクタリング」があり、二者間では取引先に通知せずに利用者が回収・支払いを行う方式、三者間では取引先に債権譲渡を通知し、取引先からファクタリング会社へ直接支払う方式が採用されます。
金融庁は、こうした取引の法的性質を「債権の売買(債権譲渡)であり、金銭の貸し借りではない」と説明しています。
資金用途としては、以下のような「短期の運転資金」に充てられるケースが多くみられます。
- 仕入代金や外注費の支払い
- 従業員の給与・賞与、外注スタッフへの支払い
- 家賃・リース料・光熱費などの固定費
- 一時的な売上減少時の資金ギャップの補填
簡単な計算例として、請求書額面1,000万円(税込)・買取率90%・手数料率10%・入金サイト60日と仮定すると、
- 請求書額面:1,000万円
- 買取金額:900万円(買取率90%)
- 手数料:100万円(10%)
となり、本来60日後に1,000万円入金されるところを、早期に900万円を受け取る代わりに100万円をコストとして負担するイメージです。
実際には、手数料は利用者の信用力・売掛先の信用力・取引期間などによって変動します。
助成金・補助金と異なり、ファクタリングは「既に発生している売掛金」が前提となるため、創業直後で売掛金がない場合には利用が難しい一方、交付決定後の補助金が実際に入金されるまでの間の「つなぎ資金」として、通常の売掛金を対象にファクタリングを利用する、といった組み合わせも考えられます。
中小企業庁が示す支払条件改善の議論でも、売掛債権の流動化手段としてファクタリングが位置付けられており、資金繰りを平準化するツールの一つとして整理されています。
- 売掛金はあるが、銀行融資の追加が難しく短期の運転資金だけ不足している
- 補助金申請中・交付決定後で、本入金までの資金ギャップをカバーしたい
- 支払サイトが長い大口取引の増加で、一時的に仕入・人件費負担が膨らんでいる
助成金・補助金・給付金の違い
助成金・補助金・給付金はいずれも「原則として返済不要」の公的支援ですが、目的や支給方法には違いがあります。
中小企業庁の資料では、補助金・助成金等は返済不要である一方、事前に設定された事業目的・資金使途からの変更が難しく、単年度の資金提供が多いことが指摘されています。
一般的な整理としては、次のように理解されることが多いです。
- 助成金:一定の取組み(雇用維持・賃上げ・人材育成など)を行った結果に対して支給される資金。雇用関係助成金(キャリアアップ助成金など)は、要件を満たせば原則として受給可能な「事後支給型」が多い。
- 補助金:設備投資・IT導入・販路開拓など、事業計画に基づく取組みに対して交付される資金。申請・審査・採択を経る「公募・選考型」であり、採択率には限りがある。持続化補助金やIT導入補助金、ものづくり補助金などが代表例。
- 給付金:景気対策や災害対応などの目的で、一時的に支給される資金の総称。事業者向け・個人向けいずれの制度もあり、要件や申請方法は制度ごとに異なる。
中小企業向けの実務では、「新しい設備やITツールへの投資」「販路開拓・展示会出展」「賃上げや正社員化」に対して補助金・助成金を活用し、これらの事業に伴う仕入・外注費・人件費などの支払いには、必要に応じて融資やファクタリングを併用する、という形が現実的です。
助成金・補助金の交付タイミングは、申請から交付決定・実績報告・精算払いまで一定の期間を要するため、「当面の支払い」と「数か月〜1年後に戻ってくる資金」を分けて考えることが重要になります。
- いずれも原則返済不要だが、目的・対象・手続きが異なる
- 助成金:要件を満たせば受給しやすい事後支給型が多い(例:雇用関係助成金)
- 補助金:公募・審査で採択される投資支援型が多い(例:持続化補助金、IT導入補助金)
- 給付金:経済・社会状況に応じて設計される一時的な支援が多い
この違いを押さえたうえで、「短期の資金不足にはファクタリングや融資」「中長期の設備・人材投資には補助金・助成金」といった役割分担を意識すると、自社に合った資金調達の組み立てがしやすくなります。
資金繰りから見るファクタリングと助成金
資金繰りの視点で見ると、ファクタリングと助成金は「お金が入るタイミング」と「審査・手続き」が大きく異なります。
ファクタリングは、すでに発生している売掛金を前提に、ファクタリング会社が取引先の信用力や請求書の内容を確認し、短期間で資金化を行う民間サービスです。
一方、助成金・補助金は、国や自治体が定めた事業目的・要件に合致するかどうかを審査し、交付決定後に事業を実行し、実績報告を経て精算払いされる「公的支援」であり、入金までに一定の期間を要します。
IT導入補助金などの手引きでも、公募→審査→交付決定→実績報告→精算払という流れが示されています。
また、中小企業庁の取引適正化ガイドラインでは、手形やファクタリング等の一括決済方式は、下請事業者が直ちに現金化できるものでなければならず、手数料等が利益を著しく阻害してはならないとされています。
このように、ファクタリングは「売掛金を前倒しで受け取ることで資金ギャップを埋める手段」、助成金・補助金は「一定の取組みや投資を行った事業者を後から支援する制度」と整理できます。
資金繰り表を用いて、いつ・いくら不足するのか、売掛金がどの程度あるのか、投資計画がどの期間に集中しているのかを整理したうえで、両者をどう組み合わせるかを検討することが重要です。
| 比較項目 | ファクタリング | 助成金・補助金 |
|---|---|---|
| 資金の性格 | 売掛金を前倒しで受け取る短期資金。返済は不要だが手数料が発生。 | 要件を満たせば返済不要。事業目的や対象経費があらかじめ決められている。 |
| 入金タイミング | 審査通過後、比較的短期で入金されるサービスが多い。 | 申請・審査・交付決定・実績報告を経て精算払い。入金まで数か月以上かかることが多い。 |
| 審査の観点 | 主に売掛先の信用力や請求内容、取引実績などを重視。 | 公募要件との適合性、事業計画の内容、経費の妥当性などを重視。 |
入金タイミングと審査の違い比較
入金タイミングの違いは、資金繰りに直接影響します。ファクタリングは、売掛債権に基づく民間サービスであり、申込後に必要書類(請求書、入出金明細、決算書など)を提出し、取引先の信用力や取引実績の審査を経て、早ければ数日程度で入金されるサービスも見られます。
民間の解説では「最短即日」などをうたう事例もあり、銀行融資と比べると、資金化までのスピードを重視したサービス設計になっていることがうかがえます。
一方、助成金・補助金は、申請書・事業計画書・見積書などを準備し、公募期間内に申請したのち、事務局による審査・採択を経て交付決定が出されます。
その後、事業を実施し、実績報告書や経費の証拠書類を提出し、内容が確認されてから補助金額が精算払いされる、という流れが一般的です。
IT導入補助金の手引きや事業再構築補助金の交付要綱でも、公募→審査→交付決定→事業実施→実績報告→補助金支払というプロセスが明記されており、申請から入金までに一定の期間を要することが前提とされています。
審査の観点も異なります。ファクタリングでは、売掛先が大企業・官公庁かどうか、支払遅延の有無、請求書内容の妥当性など、個々の債権の回収可能性が重視されます。
これに対し、助成金・補助金では、制度ごとに定められた要件を満たしているか、事業計画が政策目的(生産性向上、販路開拓、人材育成など)に合致しているか、対象経費がルールに沿っているかといった点を中心に審査されます。
- ファクタリングは売掛金を前提とした民間サービスで、入金までの期間が比較的短い
- 助成金・補助金は公募・審査・実績報告を経て精算払いされるため、入金まで時間がかかる
- ファクタリングは債権の回収可能性、助成金・補助金は制度要件・事業計画の妥当性が主な審査対象
短期資金と投資資金の使い分け方
資金繰りの観点では、「短期資金」と「投資資金」を分けて考えることが重要です。短期資金とは、当面数か月以内の仕入れ・外注費・給与・家賃など、日々の事業運営に必要な支出を賄うための資金を指します。
売掛金の回収サイトが長い取引では、売上が増えるほど一時的に資金が足りなくなることもあり、このギャップを埋める手段として、ファクタリングや短期融資が検討されます。
中小企業庁の資料でも、支払条件(サイト)の長期化が下請事業者の資金繰りを圧迫する要因になりうることが示されており、売掛債権の現金化手段が資金繰り安定の一要素として位置付けられています。
一方、投資資金とは、設備投資・ITツール導入・新商品開発・人材育成など、中長期的な成長のための支出を賄う資金であり、投資回収には一定の期間がかかります。
この領域では、日本政策金融公庫や信用保証付き融資といった中長期の融資、ものづくり補助金・IT導入補助金・小規模事業者持続化補助金などの補助金・助成金が想定されます。
これらの制度は、設備・IT投資や販路開拓など特定の目的に対して費用の一部を補助する仕組みとして設計されています。
短期資金を長期的な赤字補填に使い続けると、将来の資金繰りが一層厳しくなる一方、投資資金の不足を短期資金で埋めようとすると、返済・償還の負担が前倒しで重くなりがちです。そのため、
- 売掛金の有無・回収サイト・固定費水準などを踏まえ、短期的な資金ギャップを把握する
- 設備・人材・ITなど中長期の投資計画を整理し、補助金・助成金や中長期融資の活用余地を検討する
- ファクタリングは原則として短期の運転資金向けと位置付け、投資資金は別枠で考える
といった切り分けが実務上のポイントになります。
- ファクタリングで得た資金を、長期の赤字補填や大型投資の恒常的な原資にしない
- 投資案件は、補助金・助成金や中長期融資など回収期間に合った資金で賄うことを検討する
- 資金繰り表で、短期の運転資金と中長期の投資資金を別枠で管理する
このように、ファクタリングと助成金・補助金は、資金繰りの中で担う役割が異なります。
それぞれの特徴を理解し、自社の資金ニーズ(期間・目的)に応じて適切に使い分けることが、中小企業の健全な資金計画づくりにつながります。
助成金と併用しやすいファクタリング
助成金・補助金とファクタリングを組み合わせる場合、ポイントになるのは「資金が出ていくタイミング」と「補助金が入ってくるタイミング」のズレです。
多くの補助金では、交付決定後に事業を実施し、ITツールや設備などの代金を一度事業者が支払ったうえで、実績報告を行い、精算払いで補助金が入金されます。
IT導入補助金の手引きでも、「交付決定→契約・納品・支払い→事業実績報告→補助金の交付」という流れが示されており、支払いが先・補助金が後になる仕組みが明記されています。
一方で、日々の事業では、補助事業とは別に通常の売上が発生しており、その売掛金の支払サイト(30日・60日など)が資金繰りに影響します。
支払サイトが長いと、設備やITツールの代金、外注費、人件費などを先に支払う必要があるにもかかわらず、売上入金が後ろ倒しになり、一時的に資金が不足しやすくなります。
中小企業庁の資料でも、支払条件の長期化は中小企業の資金繰り負担を高める要因とされ、売掛債権の現金化手段(手形割引やファクタリング等)のコスト負担が課題として挙げられています。
このギャップを埋める手段の一つが、通常取引で発生している売掛金を対象にしたファクタリングです。
補助金の対象となる設備やサービスの支払いは自己資金や融資で行いつつ、それとは別に、売掛金を早期に現金化して運転資金にまわすことで、補助事業期間中の資金繰りに余裕を持たせる、という考え方です。
補助金そのもの(将来受け取る予定の補助金)をファクタリングの対象とするのではなく、「通常の売掛金」を原資とした資金調達でタイムラグを吸収するイメージになります。
| 観点 | 助成金・補助金とファクタリングの役割 |
|---|---|
| 補助金 | 設備・IT導入・販路開拓・人材投資などの「投資部分」の一部を後から補填する返済不要の資金。 |
| ファクタリング | 通常の売掛金を早期に現金化し、補助事業期間中の仕入・人件費・固定費など「運転資金」を確保する手段。 |
| 資金繰り | 補助金の精算払いまでの資金ギャップを、自己資金・融資・ファクタリングの組み合わせで埋める発想が重要。 |
補助金交付決定後のつなぎ資金活用例
補助金交付決定後は、「事業の実施」と「支払い」が先行し、その後に補助金が精算払いされるのが一般的です。
たとえばIT導入補助金の交付申請フローでは、交付決定の後にITツールの契約・納品・支払いを行い、実績報告提出後に補助金が交付されると整理されています。
この間、事業者はITベンダーや設備メーカーへ代金を支払う必要があり、通常は自己資金や銀行融資、つなぎ融資などを組み合わせて対応します。
ここでファクタリングを併用するケースとしては、次のようなイメージが考えられます。
- 補助金対象となる設備・ITツールの代金は、銀行融資や自己資金で支払う
- 同時期に発生している通常の売掛金(別の取引先への請求)をファクタリングで早期資金化する
- ファクタリングで得た資金を、仕入・外注費・給与などの日常運転資金に充当し、補助事業で一時的に増える支出を吸収する
たとえば、補助金対象の設備投資1,000万円(補助率1/2)を行う場合、事業者は一旦1,000万円を支払い、後から500万円の補助金を受け取る流れが多くの制度で採用されています。
その間、通常の売上に対する売掛金3,000万円が発生しており、支払サイトが60日だとすると、設備投資に伴う資金負担と売掛回収のタイミングが重なり、資金繰りがタイトになりやすくなります。
このような状況で、売掛金の一部(例:1,000万円)をファクタリングにより90%で資金化すれば、900万円の現金が前倒しで手元に入り、補助金入金までの運転資金に充てることができます。
注意点として、補助金の交付要綱では「交付決定前の発注・契約は原則対象外」「交付決定後に実施した事業であること」などのルールが定められており、何が補助対象経費になるかは制度ごとに詳細に規定されています。
ファクタリングで得た資金を補助対象経費に充てること自体は問題ありませんが、補助金そのもの(将来受け取る予定の補助金)を前提にした資金調達ではなく、あくまで「通常の売掛債権」を原資とした資金繰り調整であることを意識する必要があります。
- 補助金は後払いが原則のため、交付決定後も自己資金・融資・ファクタリングの組み合わせが必要
- ファクタリングの対象は、補助金そのものではなく通常の売掛金とするのが基本
- 資金繰り表で、補助金支払いの前後と売掛回収のタイミングを整理してから利用を検討する
助成金対象経費と手数料の扱い方
助成金・補助金を活用する際には、「どの経費が補助対象になるか」と同時に、「どの経費が補助対象外とされるか」を把握しておくことが重要です。
経済産業省や中小企業庁の補助金マニュアルでは、補助対象経費の区分とあわせて、対象外となる経費の例が示されており、家賃や通信費のほか、金融取引に関連する手数料・保証料などが補助対象外とされているケースもあります。
多くの補助金では、「融資手続等にかかる手数料や保証料」「金利・割引料などの金融費用」は、原則として補助対象外とされることが多く、補助金でカバーされるのは、設備・ITツール・専門家費用など、事業そのものに直接かかる経費に限定されます。
ファクタリング手数料も、性質としては売掛金を前倒しで現金化するための「金融コスト」に近い位置づけであり、補助金の対象経費として認められる例は一般的ではありません。
会計上も、ファクタリング手数料は「支払利息・割引料」や「支払手数料」として費用計上されるのが通常であり、補助金の交付要綱や事務処理マニュアルでは、こうした金融費用を補助対象外とする考え方が示されています。
実務上は、次のような整理をしておくと混乱を避けやすくなります。
- 補助対象経費:設備・ITツールの購入費、システム構築費、外注費、コンサルティング費用など、補助金要領に明記された経費
- 補助対象外経費:金融機関への利息、保証料、融資手数料、ファクタリング手数料などの金融コスト(制度ごとに個別確認が必要)
- 助成金・補助金の入金後に、これらの金融コストを自社負担として処理することを前提に資金計画を立てる
そのうえで、補助金を活用した投資とファクタリングを併用する場合は、
・補助金で賄える部分(対象経費)と
・自己負担・金融コストとして残る部分
を分解して資金繰り表に落とし込み、補助金入金後も含めたキャッシュフローを確認しておくことが重要です。
- 多くの補助金で、利息・保証料・融資手数料などの金融費用は補助対象外とされる
- ファクタリング手数料も金融コストとして、自社負担が前提になるケースが一般的
- 補助金要領・事務処理マニュアルを確認し、「対象経費」と「対象外経費」を事前に区分しておく
- 金融コストを含めた総コストを資金繰り表で把握し、無理のない利用計画を立てる
起業・小規模事業者の資金調達パターン
起業・小規模事業者の資金調達は、「創業直後で売上も売掛金もほとんどない段階」と、「一定の売上・売掛金が発生してきた段階」でパターンが変わります。
創業初期は、自己資金や親族からの借入に加え、日本政策金融公庫の創業融資(新規開業・スタートアップ支援資金など)が代表的です。
日本政策金融公庫では、新たに事業を始める方や事業開始後おおむね7年以内の方を対象に、設備資金・運転資金を長期・固定金利で融資する制度を整備しており、創業融資の案内でも「創業期は資金調達が困難になりやすい」としたうえで重点的な支援を掲げています。
一方、創業後3年以内の小規模事業者向けには、「小規模事業者持続化補助金<創業型>」のように、販路開拓等の取組を支援する補助金も用意されています。
中小企業庁は、同補助金の概要として、創業後3年以内の小規模事業者が経営計画に基づき販路開拓等に取り組む際、経費の一部を補助する制度であることを示しており、創業・スタートアップ支援施策の一つとして位置付けています。
さらに、各都道府県・市区町村の制度融資(信用保証協会付き融資)や、商工会・商工会議所・よろず支援拠点などを通じた経営相談・専門家派遣も、創業期から小規模事業者を対象とした公的支援として整理されています。
中小企業庁の「支援策チラシ一覧」では、補助金・金融支援・税制優遇・相談窓口など多様な施策が体系的に紹介されており、資金調達だけでなく経営全体のサポートメニューを組み合わせることが前提とされています。
こうした公的な融資・補助金に加えて、売掛金が発生している事業であれば、ファクタリングを用いて入金サイクルを早め、運転資金に余裕を持たせるという選択肢も加わります。
創業直後は売掛金が少なく、公的融資と補助金・助成金の組み合わせが中心となり、売上・売掛金が安定してきた段階で、ファクタリングや中短期融資を組み合わせていく、という流れが一般的なパターンです。
| ステージ | 主な資金調達の組み合わせ例 |
|---|---|
| 創業準備〜直後 | 自己資金、日本政策金融公庫の創業融資、自治体の創業支援融資、創業型補助金・助成金など。 |
| 創業後〜小規模期 | 政策金融・信用保証付き融資、小規模事業者持続化補助金、雇用関係助成金、売掛金発生後のファクタリングなど。 |
| 成長期 | 民間金融機関からの融資、設備投資系補助金、複数取引先の売掛金を活かしたファクタリング等の併用。 |
創業期に使える融資と助成金制度
創業期に利用しやすい代表的な融資制度として、日本政策金融公庫 国民生活事業の「創業融資」・「新規開業・スタートアップ支援資金」が挙げられます。
創業融資の案内では、創業期の方(新たに事業を始める方、または税務申告2期以内の方)に対し、無担保・無保証人で利用できる融資を用意していること、設備資金20年以内・運転資金10年以内といった長期返済が可能であることが示されています。
また、「新規開業・スタートアップ支援資金」では、創業後おおむね7年以内の事業者を対象に、設備資金・運転資金合わせて7,200万円(うち運転資金4,800万円)までを上限とする融資枠が設けられており、女性・若者・シニア起業家などに対して特別利率が適用されるケースも記載されています。
助成金・補助金では、小規模事業者持続化補助金(一般型・創業型)が、中小企業庁の創業・スタートアップ支援施策の中核として紹介されています。
同補助金の概要では、小規模事業者が商工会・商工会議所と経営計画を作成し、販路開拓や業務効率化に取り組む際、機械装置・広報費・ウェブサイト関連費などの一部を補助する制度であることが示されています。
創業後3年以内の事業者を対象とする「創業型」も設けられており、創業期から販路開拓・WEB活用を行う際に活用できる枠組みが整備されています。
このほか、自治体による創業助成金や、産業競争力強化法に基づく「創業支援等事業計画」に認定された市区町村が実施する創業支援事業も、中小企業庁の創業・スタートアップ支援情報の中で紹介されています。
これらは、創業塾・創業セミナーとあわせて利用することで、日本政策金融公庫の創業融資の特別利率の対象になる場合もあるとされています。
- 日本政策金融公庫の創業融資・新規開業・スタートアップ支援資金
- 小規模事業者持続化補助金(一般型・創業型)などの販路開拓支援補助金
- 自治体の創業助成金・制度融資、創業支援等事業計画に基づく支援
- これらの制度を組み合わせたうえで、売掛金発生後にファクタリングを検討
売掛金の有無で変わる資金調達選択
ファクタリングは「売掛債権を原資とする資金調達」であるため、売掛金の有無は資金調達の選択肢を大きく左右します。
創業直後の飲食店・小売店・ECなど、現金やカード決済が中心で売掛金がほとんど発生しないビジネスでは、売掛金を前提とするファクタリングよりも、日本政策金融公庫の創業融資や自治体の制度融資、保証協会付き融資などが中心となります。
中小企業庁の支援策一覧でも、創業・スタートアップ向けには補助金・金融支援・税制優遇を組み合わせた総合的な支援が想定されており、売掛金の有無にかかわらず利用できる公的融資・補助金が準備されています。
一方、建設業・製造業・BtoBサービス業など、請求書ベースの取引が中心で、毎月一定の売掛金が発生している事業では、売掛金の回収サイト(例:月末締め翌々月末払い)によって資金繰りが大きく変わります。
このような業種では、銀行融資や補助金に加え、売掛先の信用力が一定以上あれば、売掛金を対象としたファクタリングを用いて、入金サイクルを早める選択肢が現実的になります。
中小企業庁の取引条件改善の議論でも、支払いサイトの長期化が下請事業者の負担となる一方で、売掛債権の流動化手段(ファクタリング等)の活用が資金繰り安定に寄与し得ることが示されています。
実務上は、
・売掛金がほとんどない事業:創業融資・制度融資・補助金・助成金を中心に、中長期の資金計画を検討
・売掛金が一定以上ある事業:上記に加え、売掛金を対象としたファクタリングで短期資金を補完
というように、「売掛金の有無」と「売掛金の性質(取引先の信用力・回収サイトなど)」で資金調達手段を使い分けることになります。
- 売上のうち、掛け(請求書払い)・現金・カードの比率はどの程度か
- 主要な売掛先の信用力や支払サイトはどうなっているか
- 売掛金が少ない場合は、公的融資・補助金を中心に資金計画を立てているか
- 売掛金が多い場合は、ファクタリングを含めた短期資金手段の必要性を検討しているか
このように、起業・小規模事業者の資金調達を考える際には、創業期に利用できる公的融資・補助金と、売掛金発生後に選択肢となるファクタリングを分けて整理し、自社の売上構造と売掛金の状況に応じて、無理のない組み合わせを検討することが重要です。
ファクタリングと助成金を選ぶ手順
ファクタリングと助成金・補助金はいずれも資金調達手段ですが、「目的」「入金タイミング」「対象となる費用」が異なるため、順番に条件を整理しながら選ぶことが重要です。
まずは資金繰り表で、いつ・いくら不足するかを把握し、その不足が一時的な運転資金なのか、設備投資や人材投資など中長期の投資資金なのかを切り分けます。
次に、自社が活用できる公的制度(補助金・助成金・公的融資)があるかを確認し、それでもなお「補助金入金までのつなぎ」や「売掛サイトの長さによる一時的なギャップ」が残る場合に、ファクタリングを候補に入れていくイメージです。
さらに、売掛金の有無・規模、売掛先の信用力、手数料負担を考慮し、「短期的な資金繰り改善」と「事業の収益性・投資回収」のバランスを取る必要があります。
最終的には、下記のような観点で手段を選び分けていくと整理しやすくなります。
| 判断のステップ | 検討するポイント |
|---|---|
| ①資金ニーズの整理 | 不足額・必要時期・期間(短期資金か投資資金か)を資金繰り表で確認。 |
| ②制度の有無 | 助成金・補助金・公的融資など、条件に合う制度があるかを確認。 |
| ③売掛金の状況 | 売掛金の有無・売掛先の信用力・支払サイトを確認し、ファクタリングの適合性を検討。 |
| ④総コスト・リスク | 手数料・利息などを含めた総コストと、資金繰り改善効果のバランスを確認。 |
チェックリストで見る適した手段
どの手段が適しているかを判断するためには、「資金の性格」「売掛金の状況」「利用できる制度」「コスト許容度」を整理するチェックリストが有効です。
例えば、資金不足が1〜3か月程度の一時的なもので、売掛金も一定額あり、売掛先が信用力の高い企業であれば、ファクタリングを活用する選択肢が現実的になります。
一方、新しい設備導入やIT投資、人材採用・育成など、中長期的な投資に関する支出であれば、まずは補助金・助成金や公的融資を優先して検討し、そのうえで必要に応じて短期資金を組み合わせる発想が望ましいといえます。
また、手数料・利息などの負担については、「不足額をどのくらいの期間前倒しで調達するか」によって実質的なコストが変わります。
資金繰り表に「ファクタリング利用なし」と「利用した場合」のキャッシュフローを並べて比較し、どちらが自社の事業計画に適しているかを確認すると、感覚ではなく数字に基づいた判断がしやすくなります。
- 不足資金は短期の運転資金か、設備・人材などの投資資金か
- 当面1年程度で利用できる助成金・補助金、公的融資の有無を把握しているか
- 月次の売掛金額・主要取引先・支払サイトを把握しているか
- ファクタリング手数料や融資利息を含めた総コストを、資金繰り表で比較しているか
- 最悪ケース(売上減少・投資回収遅れ)を想定しても無理のない返済・資金繰りか
専門家・支援機関への相談タイミング
ファクタリングと助成金・補助金のどちらを選ぶべきか迷う場面では、早い段階で専門家や公的支援機関に相談することが重要です。
特に、資金不足が続いている、複数の借入やリースが重なっている、補助金を使った投資計画が複雑になっているといった状況では、経営者だけで判断すると、短期資金で長期的な赤字を埋めてしまうなど、構造的な問題を先送りするリスクがあります。
相談先としては、日頃から取引のある金融機関、日本政策金融公庫、商工会・商工会議所、よろず支援拠点、中小企業診断士・税理士・社労士などが挙げられます。
まずは資金繰り表・試算表・借入一覧・売掛金一覧などを準備し、「いつ・いくら不足するか」「どの投資にどれだけ資金が必要か」を共有したうえで、公的制度やファクタリングをどう組み合わせるかを一緒に検討してもらうと、現実的な選択肢が整理しやすくなります。
また、ファクタリング契約の内容や手数料、助成金の対象経費の判断など、法的・制度的な解釈が必要な局面では、弁護士や社会保険労務士などの専門家と連携することも有効です。
- 資金繰り表上、3〜6か月以内に資金ショートの可能性が見えてきたとき
- 補助金・助成金の申請を検討しているが、制度や対象経費が分かりにくいと感じるとき
- ファクタリング・融資・リースなど複数の手段を既に利用しており、全体像の整理が必要なとき
- 新規事業・設備投資・人材採用など、大きな投資を予定しているとき
このように、ファクタリングと助成金を「どちらか一方」として考えるのではなく、専門家・支援機関の助言を受けながら、自社のステージと資金ニーズに応じた組み合わせを検討していくことが、中小企業にとって無理のない資金調達につながります。
まとめ
ファクタリングは「売掛金を早く現金化して資金繰りを安定させる手段」、助成金・補助金は「要件を満たせば返済不要の支援」を受けられる制度です。
それぞれ目的や入金タイミングが異なるため、短期の運転資金なのか、中長期の設備投資・人材投資なのかを切り分けて検討することが重要です。
本記事で整理した入金タイミングや併用パターン、チェックリストを参考に、自社の売掛金の状況や事業計画を棚卸ししつつ、専門家・支援機関の相談窓口も活用しながら、自社に合った資金調達の組み合わせを検討していきましょう。



















