「ファクタリングは返済不要の資金調達」と説明される一方で、二社間契約や偽装ファクタリングでは、実質的な返済義務や高額請求に悩むケースも見られます。
本記事では、「返済できない」となったときに何が起こるのかを、二社間/三社間の支払構造、償還請求権の有無、遅延損害金や訴訟・差押えリスク、公的機関・弁護士への相談ルートまで含めて整理します。
ファクタリング返済の基本
「ファクタリングの返済ができない」という表現は、本来のスキームを正確に理解すると少し整理して考えることができます。
ファクタリングは法律上、売掛債権(売掛金などの金銭債権)をファクタリング会社に売却する取引で、銀行融資のような「元本+利息の返済」とは仕組みが異なります。
ただし、実務では二社間ファクタリングを中心に、売掛金の入金をもとにファクタリング会社へ支払う構造をとるため、「返済」という言い方がされています。
資金繰りが悪化してこの支払いができなくなった状態が、一般的に「ファクタリングを返済できない」状況と認識されます。
ファクタリングの基本構造は、
- 利用者:売掛金を保有する企業(資金調達をしたい側)
- 取引先(売掛先):売掛金の支払義務を負う取引先企業
- ファクタリング会社:売掛金を買い取り、早期に資金を渡す事業者
という三者で構成されます。二社間ファクタリングでは利用者とファクタリング会社のみが契約当事者となり、取引先には通知しないことが多く、一方、三社間ファクタリングでは取引先も契約に参加し、取引先からファクタリング会社へ直接支払いが行われる仕組みです。
この違いにより、「返済が発生する相手」「支払が滞った際に誰にどのような債務不履行が生じるか」が変わります。
特に二社間で償還請求権(売掛金が回収できなかった場合に利用者が補填する義務)が広く設定されている契約では、売掛先から入金がない、あるいは入金を他の支払いに回してしまうと、ファクタリング会社に対する支払いができず「返済できない」状態になりやすくなります。
| 区分 | 概要 |
|---|---|
| 二社間ファクタリング | 利用者とファクタリング会社の契約。取引先には原則通知しない。売掛先→利用者→ファクタリング会社という資金の流れになり、利用者側に「返済」の感覚が生じやすい構造。 |
| 三社間ファクタリング | 利用者・ファクタリング会社・取引先の三者契約。売掛先からファクタリング会社へ直接支払いが行われ、利用者の「返済」関与は限定的。手数料は比較的低めになる傾向。 |
| 償還請求権あり | 売掛先が支払わない場合、利用者がファクタリング会社へ支払う義務を負う契約。利用者側の「返済不能リスク」が高い。 |
| 償還請求権なし | 売掛先の不払いリスクをファクタリング会社が原則引き受ける契約。利用者の返済負担は限定的だが、手数料は高めになることもある。 |
返済できないとは何か
「ファクタリングの返済ができない」とは、一般に、ファクタリング契約で定められた支払義務(精算義務)を期日どおりに履行できない状態を指します。
二社間ファクタリングを例にすると、利用者は売掛先から入金を受けた後、その資金をファクタリング会社に支払うことで取引が完結します。
このとき、売掛先からの入金が遅れたり、入金された資金を他の支払いに先に回してしまった結果、ファクタリング会社への支払い原資が不足すると、「返済できない」状況になります。
もう一つ典型的なのが、「償還請求権あり」の契約で、売掛先が倒産・支払停止・一方的な支払拒否などを行ったケースです。
この場合、契約上は売掛金の回収リスクを利用者が負うことになっているため、売掛先から実際に入金がなくても、一定期間経過後にファクタリング会社から「買戻し」や「償還」の請求を受けることがあります。
資金繰りが限界に近い局面では、この追加負担に耐えられず、「返済できない」「支払えない」という状態に陥ります。
また、偽装ファクタリング(実態は貸金に近いスキーム)では、名目上は債権譲渡でも、元本+高額の手数料・違約金を分割・一括で支払う構造になっていることがあります。
このようなケースでは、支払遅延が生じると遅延損害金や一括請求が発生し、短期間で支払総額が膨らんで「返済できない」状況に至るリスクが高くなります。
- 売掛先は支払っているが、自社の資金繰り悪化でファクタリング会社へ回せない
- 売掛先が未払いのままで、償還請求権あり契約に基づく支払いを履行できない
- 実質貸付型(偽装ファクタリング)で、元本+高額手数料の支払いが行き詰まっている
二社間と三社間の支払構造
二社間と三社間では、資金の流れと「誰が誰に対して支払義務を負うのか」が異なります。この違いを押さえておくと、「返済できない」ときにどのようなリスクが生じるかイメージしやすくなります。
二社間ファクタリングでは、取引先には通知せず、利用者とファクタリング会社だけで契約を結びます。
売掛先は従来どおり利用者へ支払いを行い、利用者がファクタリング会社に対して精算する構造です。
このため、利用者は売掛金を「預かっている」立場に近くなり、売掛金を他の支払に流用してしまうと、ファクタリング会社へ支払うお金が残らないという状況が生じ得ます。
三社間ファクタリングでは、取引先にも債権譲渡が通知され、または承諾が得られたうえで、売掛先からファクタリング会社へ直接支払いが行われます。
この場合、売掛先が期日どおりに支払う限り、利用者が売掛金を経由しないため、「返済できない」という事態は限定されます。
一方で、売掛先が支払わない場合は、契約に定められた範囲で、利用者に対して補填義務が生じるかどうかがポイントになります。
| 区分 | 二社間ファクタリング | 三社間ファクタリング |
|---|---|---|
| 支払の流れ | 売掛先→利用者→ファクタリング会社 | 売掛先→ファクタリング会社(→利用者へ差額精算等) |
| 取引先への通知 | 原則なし | 通知・承諾あり |
| 返済不能の主因 | 利用者が売掛金を他用途に使用してしまう、資金繰り悪化 | 売掛先の未払と契約上の償還義務の有無 |
- 二社間は「自社が中継点」になるため、資金管理の甘さがそのまま返済不能につながりやすい
- 三社間は売掛先→ファクタリング会社の直接決済が基本だが、売掛先の未払時の契約内容を事前に確認する
- どちらの方式でも、契約書の支払条項・遅延条項を具体的に把握しておく
償還請求権ありなしの違い
「償還請求権」とは、簡単に言えば「売掛先が支払わなかった場合に、ファクタリング会社が利用者に対して代わりの支払い(買戻し)を求める権利」です。
償還請求権あり(リコース型)の契約では、売掛先の倒産や支払停止などが起きた場合、一定期間経過後に利用者がファクタリング会社に対して債権額(または一部)を支払う義務を負うことがあります。
一方、償還請求権なし(ノンリコース型)の契約では、売掛先の信用リスクをファクタリング会社が原則として引き受け、利用者は売掛先の不払に対して補填義務を負わないのが基本です。
返済不能リスクの観点では、償還請求権あり契約は、利用者側に売掛先の信用リスクが残るため、「売掛先未払+自社の資金繰り悪化」で支払えなくなる可能性が高くなります。
特に、売掛先が破産や民事再生の申立てを行った場合、利用者は売掛金の回収が困難な一方で、ファクタリング会社からの償還請求に応じなければならない状況に直面することがあります。
契約書では、「償還」「買戻し」「求償」「債務不履行時の補填」などのキーワードで規定されていることが多く、これらがどの範囲で、どの金額まで、どのタイミングで発生するのかを把握しておくことが重要です。
また、実務上は「原則ノンリコース」としつつ、特定の事由(債権の不存在・二重譲渡・虚偽請求など)がある場合は利用者に責任を負わせる条項が設けられているケースもあるため、リスクの範囲を具体的に確認する必要があります。
- リコース型:売掛先の不払い時に利用者へ買戻し・償還義務が発生し得る
- ノンリコース型:通常の信用リスクはファクタリング会社が負うが、虚偽請求などの例外条項に注意
- 契約書中の「償還」「買戻し」「求償」条項を読み込み、具体的事由と金額範囲を確認する
返済義務と契約書の確認
ファクタリングで「返済義務があるのか」「どこまで支払う必要があるのか」は、基本的に契約書の条文によって決まります。
そのため、返済不能のリスクを正しく把握するには、契約締結前・締結後の両方で契約書を丁寧に確認しておくことが欠かせません。
特に、次のような条項は、返済義務や責任範囲に直結するため、事前にチェックしておく必要があります。
- 支払条件:支払期日、分割・一括、支払方法(口座振替・振込など)
- 遅延条項:遅延損害金の利率、発生事由、遡及期間
- 償還・買戻し条項:どのような場合にどの金額を支払う義務があるか
- 保証・連帯保証:代表者や関連会社に保証人義務が及ぶかどうか
- 期限の利益喪失:どの条件を満たすと一括請求されるか
契約書は、法的拘束力を持つ唯一の根拠です。口頭で「大丈夫です」「そのようなケースは想定していません」と説明されたとしても、条文に書かれていれば、トラブル時には条文が優先されます。
返済できなくなる可能性が少しでもあると感じる場合は、契約締結の前に社内で共有し、可能であれば顧問弁護士や専門家に条文のリスクを確認してもらうことが望ましいです。
- 支払期日・支払方法・遅延損害金の条件を具体的に把握しているか
- 償還・買戻し条項がどの事由で発動し、どの範囲まで責任を負うか理解しているか
- 代表者個人保証や連帯保証が含まれていないか、含まれていれば影響を検討したか
このように、「返済できないリスク」を事前に低減するためには、スキームの理解と契約内容の確認をセットで行うことが重要です。
資金戦略を検討できるようになることを目指します。
返済できない主な原因
ファクタリングの「返済ができない」状態に陥る背景には、単純な資金不足だけでなく、売掛先とのトラブル、自社の資金管理の問題、外部環境の変化、そもそもの契約スキームの問題など、いくつかのパターンが重なっていることが多いです。
とくに二社間ファクタリングや償還請求権あり(リコース型)の契約では、売掛先の不払いや支払遅延がそのまま利用者の支払不能リスクに直結します。
また、売掛先から入金された資金を他の支払に回してしまい、ファクタリング会社へ振り向ける資金が残らないケースも典型的です。
これらに加えて、天災やシステム障害、感染症流行などによる突発的な売上減少・入金遅延、さらには「ファクタリング」と称しつつ実態は高金利貸付に近い偽装スキームの存在も、返済不能リスクを高める要因になります。
原因を整理しておくことは、事前のリスク管理だけでなく、「返済が難しくなったタイミングで何から手を付けるか」を決めるうえでも重要です。
| 原因の類型 | 概要 |
|---|---|
| 売掛先要因 | 倒産・支払停止・取引トラブルなどによる売掛金未回収 |
| 自社要因 | 資金繰り悪化・用途外使用(使い込み)・過剰なファクタリング依存 |
| 外部要因 | 天災・システム障害・社会情勢変化による売上急減・入金遅延 |
| 契約要因 | 偽装ファクタリング・過大手数料・過度な償還義務を伴う契約 |
売掛先トラブルによる未回収
もっとも分かりやすい原因が、売掛先のトラブルによる売掛金の未回収です。売掛先が倒産・民事再生・支払停止に陥った場合や、納品内容を巡る紛争で支払を一方的に停止した場合など、こちらの資金繰りとは無関係に入金が途絶えることがあります。
償還請求権あり(リコース型)の契約では、こうした売掛先の未払いが発生しても、一定期間経過後に利用者がファクタリング会社へ債権額の全部または一部を支払う義務を負うケースがあり、その負担に耐えられないと「返済できない」状態になります。
売掛先トラブルの典型例としては、
- 大口取引先の倒産により、売掛金がほぼ回収不能になる
- 検収・仕様を巡る紛争で支払が長期化し、期日どおりに入金されない
- 下請構造の中で元請側の支払遅延が連鎖し、自社の売掛も遅延する
といったものが挙げられます。売掛先リスクを完全にゼロにすることは難しいものの、過去の支払実績・決算情報・業界動向などから与信管理を行い、「どの売掛先の債権をファクタリングに出すか」を選別することで、リスクを抑えることは可能です。
- 売掛先別に支払遅延・条件変更の履歴を一覧化しておく
- 決算書・信用調査・取引年数などから与信限度額を設定する
- 倒産リスクが高い先の売掛金を、まとめてファクタリングしない
資金繰り悪化と使い込み
売掛先からの入金自体は正常でも、自社の資金繰り悪化や資金管理の甘さにより、ファクタリング会社への支払原資が不足するケースも少なくありません。
とくに二社間ファクタリングでは、売掛先からの入金が一度自社の口座を通るため、その資金を別の支払い(給与・仕入・家賃・税金など)に先に充ててしまい、期日になってもファクタリング会社に支払う資金が残らない「使い込み」状態が起こりやすくなります。
資金繰りが厳しいときほど、「今いちばん催促が厳しい支払先」に優先的に支払ってしまいがちですが、その場しのぎを繰り返すと、最終的にファクタリング会社・税金・社会保険・金融機関など複数の債務を抱えることになり、どこからも資金調達ができなくなるリスクがあります。
ファクタリングの手数料は高めであることが多く、毎月のように利用すると粗利が手数料で圧縮され、元々の収益力が足りないまま走り続ける構図になりがちです。
- 売掛金の入金からファクタリング会社への支払までを、資金繰り表に別行として管理する
- ファクタリング利用額や手数料総額を毎月集計し、「どれだけ利益を削っているか」を把握する
- 一時的な不足か、構造的な赤字かを分析し、後者であれば根本的なコスト・売上構造の見直しを検討する
天災システム障害など外部要因
天災や大規模なシステム障害、感染症の流行、社会情勢の急変など、企業の努力だけではコントロールしにくい外部要因によって売上や入金が急減し、結果的にファクタリングの返済が困難になるケースもあります。
たとえば、大規模災害による物流停止で納品ができず売上が減少したり、取引先のシステム障害で入金処理が遅延したり、需要急減によって売上予測が大きく外れたりすることが考えられます。
こうした外部要因は、単独では一時的なものでも、資金繰りがすでにギリギリの企業にとっては致命傷となり得ます。
また、天災・感染症などの場合、取引先も同時にダメージを受けていることが多く、「売掛先も資金繰りが苦しく、支払条件の変更や期日の延長を求めてくる」という二重の影響が生じることもあります。
ファクタリング契約によっては、「不可抗力」の扱いが限定的であり、外部要因による売掛先の未払でも、利用者側の支払義務が残る場合もあるため、契約条項の確認が欠かせません。
- 災害・システム障害など非常時に備えた資金クッション(予備資金)の目安を決める
- 主要取引先が集中している業種・地域のリスクを踏まえ、売掛先の分散を検討する
- 不可抗力条項や支払猶予に関する規定が契約書にどう書かれているか確認する
偽装ファクタリング契約の問題
近年問題になっているのが、「ファクタリング」の名目でありながら、実態は高金利の貸付(ヤミ金融)に近い偽装ファクタリングです。
形式上は債権譲渡契約であっても、元本の返済義務や過大な手数料・違約金を伴う構造になっており、返済が遅れた途端に遅延損害金や一括請求によって支払総額が急膨張するケースがあります。
貸金業登録のない業者がこのようなスキームを用いると、貸金業法・出資法違反に当たる可能性があると指摘されていますが、利用者側から見れば「契約書にサインしてしまっている」「返済できないと強い督促を受ける」という非常に厳しい状況に追い込まれます。
偽装ファクタリングの典型的な特徴としては、
- 「審査なし」「誰でもOK」「他社NGでも可」など極端に甘い広告
- 実質的な金利が年数十〜数百%相当に達するような高額手数料
- 売掛債権が存在しない、または売上と関係ない債権を前提としたスキーム
- 支払遅延時の違約金・一括請求条項が過度に利用者不利
などが挙げられます。こうした契約では、返済が少し遅れただけで元本以上の支払を求められたり、家族・取引先にまで連絡が行くなど、通常のビジネス取引を超えたトラブルに発展することもあります。
返済できない状況になった場合は、自社だけで抱え込まず、早期に弁護士会や公的相談窓口へ相談し、契約の有効性や違法性について専門家の判断を仰ぐことが重要です。
- 手数料や支払総額の説明が不十分なまま契約を急がせる
- 売掛金がなくても利用できる、給与や個人収入を対象にしている
- 遅延時の対応が威圧的・違法と感じる、家族や取引先への過剰な連絡を示唆される
返済不能時のリスクと影響
ファクタリングの支払い(精算)ができなくなった場合、すぐに強制執行や破産になるとは限りませんが、契約内容や対応次第では、遅延損害金の累積、債務不履行による一括請求、訴訟・差押え、代表者個人への請求といった深刻な影響につながる可能性があります。
とくに二社間ファクタリングや償還請求権あり(リコース型)契約では、売掛先の未払や資金繰り悪化がそのまま利用者の債務不履行リスクに直結します。
返済不能時のリスクは、
- 民法上の債務不履行としての責任(遅延損害金・損害賠償)
- 契約条項に基づく期限の利益喪失・一括請求・保証人への請求
- 支払いが行われない場合の訴訟・強制執行(差押え)
- スキーム次第では、実質貸付と評価されることによる法令違反の争点
の四つに分けて整理すると見通しやすくなります。どこまでが「通常のビジネスリスク」で、どこからが「違法スキーム・偽装ファクタリングの問題」なのかを切り分けることが、適切な対処を選ぶうえで重要です。
| 論点 | 返済不能時に生じうる影響 |
|---|---|
| 契約上の責任 | 遅延損害金の発生、期限の利益喪失、一括請求 |
| 法的手続き | 支払督促・訴訟・判決確定後の差押え |
| 代表者への影響 | 個人保証による代表者個人財産への請求、信用情報への影響など |
| 違法スキーム | 実質貸付と判断される場合の貸金業法・出資法上の争点 |
遅延損害金と債務不履行
ファクタリング契約でも、支払期日に約定どおり支払えない場合は、民法上の「債務不履行」に該当し得ます。
民法では、金銭債務の不履行について、原則として遅延損害金の支払義務があることが定められており、商事取引では契約で遅延損害金利率(年◯%)を定めることが一般的です(民法第412条の3など)。
ファクタリング契約書には、多くの場合、
- 支払期日を過ぎた場合の遅延損害金の利率
- 一定の遅延・違反が生じたときの「期限の利益喪失」(分割払いでも一括請求される条項)
- 債務不履行時に負担することになる費用(弁護士費用等)の取扱い
が規定されています。返済できない状態が続くと、遅延損害金が元本に上乗せされていき、債務総額が想定以上に膨らむことがあります。
- 契約書に記載された遅延損害金利率(年何%か)と計算方法
- 何日遅れると「期限の利益喪失」とみなされ、一括請求されるのか
- 延滞が発生した時点で、早めに分割払いや条件変更の交渉ができないか
訴訟・差押えに進むケース
支払いが滞り、交渉や督促でも解決しない場合、ファクタリング会社は法的手続きに踏み切ることがあります。
一般的な流れとしては、内容証明郵便等による催告→支払督促(簡易裁判所の手続)→通常訴訟→判決確定後の強制執行(差押え)といったステップが想定されます。
民事執行法に基づき、確定判決や仮執行宣言付き支払督促などの「債務名義」があれば、債権者は債務者の預金口座や売掛金、動産・不動産を差し押さえることができると定められています。
実務的には、
- 銀行口座の差押え:預金残高が差し押さえられ、資金繰りに直結する
- 売掛金の差押え:主要取引先に対して差押命令が送達され、支払先がファクタリング会社(または執行債権者)に変更される
- 不動産・動産の差押え:担保となり得る資産の処分リスク
が典型です。
- 支払不能が見えた段階で、放置せず相手方に状況を説明する
- 現実的な返済案(分割・猶予)を提示し、合意形成を試みる
- 訴訟提起・差押えの予告があった場合は、その時点で弁護士等専門家に相談する
代表者個人への影響とリスク
法人でファクタリングを利用していても、契約書に代表者個人や関連会社の「連帯保証」条項が含まれている場合、返済不能時のリスクは法人にとどまらず、代表者個人にも及びます。
連帯保証は、民法上、主たる債務者と同様の責任を負う強い保証形態であり、債権者は法人と代表者のどちらに対しても全額請求できるのが原則です。
保証に関する規律は改正民法で見直され、極度額(上限額)の明示などが義務付けられましたが、保証契約そのものが存在すれば、代表者個人の預金や不動産が差押えの対象となる可能性があります。
代表者個人への影響としては、
- 個人財産への差押え(預金・不動産・給与など)
- 個人信用情報への影響(他の個人ローン・クレジットカードへの波及)
- 最悪の場合、個人破産を含む法的整理の検討が必要になる
といった点が挙げられます。
- 契約書に代表者や他社の連帯保証条項が含まれていないか確認する
- 保証がある場合、その上限額・範囲・解除条件などを把握する
- 返済が難しくなった段階で、法人単体の問題か個人にも波及する問題かを整理する
貸金業法違反の可能性がある場合
「ファクタリングを装った実質貸付」や「給与ファクタリング」のようなスキームでは、貸金業法・出資法違反が問題となることがあります。
形式上は債権譲渡契約でも、実態として元本+利息の返済を前提とした金銭消費貸借に当たる場合、貸金業に該当すると判断される可能性があります。
貸金業を営むには登録が必要であり、無登録で高金利の貸付を行うことは貸金業法違反・出資法違反として刑事罰の対象にもなり得ます。
利用者の立場から見ると、
- 極端に高い「手数料」や「違約金」が実質的な利息と評価される
- 売掛債権が実在しない、または売上とは無関係な債権を名目としている
- 貸金業登録のない事業者が「誰でも利用可能」「ブラックでもOK」などとうたっている
といった場合、スキームが実質的に違法な貸付にあたる可能性があります。このような契約で返済できない状況に陥ったときは、自社だけで対応しようとせず、弁護士会や公的相談窓口に相談し、契約の有効性や違法性を確認してもらうことが重要です。
違法な高金利部分については、将来的に無効や過払金返還の対象となる余地が生じる場合もあります。
- まず契約書・請求書・やり取りの記録をすべて保全する
- 貸金業登録の有無や手数料水準などを調べ、疑問があれば弁護士等に相談する
- 違法性が疑われるスキームについては、単独で交渉せず、公的な相談窓口・専門家と連携して対応する
返済できない時の対処手順
ファクタリングの支払いが難しくなった場合、最大のリスクは「何もせず放置すること」です。支払期日を過ぎたまま連絡をしないと、契約上の遅延損害金や期限の利益喪失(一括請求)、訴訟・差押えなど、状況が一気に悪化するおそれがあります。
まずは自社の資金状況と契約内容を整理し、「いつ・いくら不足するのか」「どこまでなら支払えるのか」を具体的な数字で把握したうえで、ファクタリング会社への連絡・交渉、公的機関や弁護士への相談に進む流れを組み立てることが重要です。
自社内の整理→相手方との交渉→専門家・公的機関への相談→必要に応じた法的手続き、という流れを想定しておくと、その時々で何をすべきか迷いにくくなります。
特に、銀行融資も難しく他の選択肢が限られている企業では、「返済できない=すぐ倒産」と極端に考えず、再建可能性や他の調達手段を含めた全体像を冷静に整理することが、結果として傷を広げないことにつながります。
| ステージ | 主な目的 |
|---|---|
| ①自社内の整理 | 資金不足の規模と時期、契約内容、他債務状況を数値で把握 |
| ②相手方への連絡 | 放置せず事情を説明し、分割払い・猶予などの交渉の土台を作る |
| ③専門家・公的機関 | 法的リスクや経営改善の方向性を第三者と一緒に検討する |
| ④法的整理の検討 | 再建可能性と清算リスクを比較し、最適な選択肢を選ぶ |
支払不能を感じた直後にやること
「今月の支払いが厳しい」「売掛先の遅延でファクタリングの支払原資が足りない」と感じた段階で、まず行うべきは、自社内の状況整理です。
ここで重要なのは、「なんとなく足りない」ではなく、「いつ・いくら足りないか」を数字で把握することです。
売掛金の入金予定、手元現預金の残高、今後1~3か月の支払予定(ファクタリング・仕入・人件費・家賃・税金など)を一覧にし、「現状のままだとどの月にいくら不足するか」を資金繰り表で確認します。
同時に、ファクタリング契約書一式、請求書・入金予定表、他の借入契約書(銀行・リース・ローンなど)を揃え、「契約上いつまでに、いくら支払う義務があるか」「遅延した場合にどのような条項が発動するか(遅延損害金・期限の利益喪失など)」を確認します。
感情的に不安になっていると細かい数字を直視しにくくなりますが、ここで実態を把握しておくことで、後の交渉や専門家相談が具体的に行えるようになります。
- 1~3か月分の資金繰り表を作成し、「いつ・いくら不足するか」を明確にする
- ファクタリング契約書・精算書・関連する請求書・入金予定表を揃える
- 他の借入(銀行・リース等)の返済予定と延滞の有無を確認する
ファクタリング会社との交渉ポイント
状況整理ができたら、支払期日が到来する前にファクタリング会社へ連絡し、事実関係を率直に伝えることが重要です。
放置して期日を過ぎてしまうと、先方としても「連絡もないまま支払われていない」という扱いになり、社内の与信管理上も対応が硬化しやすくなります。
一方、期日前に「売掛先の遅延が発生している」「このままだと全額を期日どおりに支払うのは難しい」という現状と、その理由・今後の見通しを説明すれば、分割払い・支払猶予・一部免除など、何らかの代替案が検討される余地が生まれます。
交渉の際には、
- 現時点で支払える金額と、今後支払えそうなスケジュール(例:◯月に◯万円)
- 売掛先の状況(倒産・支払遅延・紛争など)と自社の資金繰り要因
- 売上・コスト構造の見直しや、他の資金調達(公的融資・リスケ等)の検討状況
を具体的に提示すると、先方もリスク評価がしやすくなります。
- 支払不能を「隠す」のではなく、「いつ・いくら・なぜ足りないか」を事実ベースで説明する
- 一方的なお願いではなく、「この条件なら履行できる」という現実的な案を持参する
- 相手の反応や提案内容は必ずメモに残し、後で専門家に見せられるようにする
弁護士や公的機関への相談フロー
ファクタリング会社との交渉だけでは解決が難しい、あるいは偽装ファクタリングの疑いがある場合には、早めに弁護士や公的機関へ相談することが必要です。
各都道府県の弁護士会では、中小企業向けの法律相談窓口を設けていることが多く、商工会議所等には経営安定相談室や中小企業支援窓口が設置されています。
また、中小企業庁が所管する「中小企業活性化協議会」では、金融機関との調整を含めた再生支援が行われる枠組みがあります。
相談の流れとしては、
- 自社で契約書・請求書・資金繰り表・売掛先とのやり取りの記録を整理する
- 弁護士会や商工会議所の窓口に問い合わせ、ファクタリングトラブル・資金繰り相談である旨を伝える
- 必要に応じて、専門家(弁護士・中小企業診断士・税理士など)と継続的な支援契約を検討する
といったステップが考えられます。
- 契約書・請求書・入金明細・督促状など、関連資料を時系列でファイルしておく
- 「いつから」「いくら」「どのような条件で」返済困難になったかメモにまとめる
- ファクタリング以外の借入状況(銀行・リース等)と税金・社保の滞納の有無を整理する
法的整理を検討する前の整理事項
返済困難な状況が長期化し、「自力での立て直しは難しい」「ファクタリング以外にも複数の債務が滞っている」といった場合には、任意整理・私的整理・民事再生・破産といった法的整理の可能性を含めて検討する段階に入ります。
ただし、いきなり法的整理を選択するのではなく、「本当に事業を継続できる余地がないのか」「債務の一部削減やリスケで再建の芽がないか」を専門家とともに検証することが重要です。
そのために、少なくとも次の事項は事前に整理しておくと、弁護士や再生支援機関との議論がスムーズになります。
- 直近数期分の決算書・試算表・資金繰り表
- 借入先一覧(銀行・保証協会・リース・ファクタリング・親族・取引先など)と残高
- 保有資産一覧(現預金・売掛金・在庫・有価証券・不動産・設備など)
- 主要な取引先・事業の採算性(黒字事業・赤字事業の切り分け)
- 法的整理を選ぶと、金融機関との関係・取引先への信用・代表者個人にどのような影響が出るか
- 任意整理や私的整理で債権者と合意形成する余地がないか
- 事業を続ける場合・畳む場合それぞれのメリット・デメリットを数値ベースで比較する
このように、「返済できない」と感じた段階での初動、相手方との交渉、専門家・公的機関との連携、そして最終的な法的整理の検討までを段階的に整理しておくことで、感情に流されず、選べる選択肢を最大限確保しながら対応していくことができます。
銀行融資NG企業の資金戦略
銀行融資が難しくなると、「とにかく今借りられる(売れる)ものに頼る」という発想になりがちですが、短期的な資金繰りだけを優先すると、手数料・返済負担が積み上がり、数か月後に一段と厳しい状況に陥るリスクがあります。
資金戦略として重要なのは、①資金調達の手段ごとの役割とコスト、②事業の収益力・債務状況、③再建の時間軸(短期・中期)の三つを整理し、「どの順番で・どの程度まで使うか」というルールを社内で共有しておくことです。
銀行融資NGの局面では、政府系金融機関や信用保証協会付き融資、ファクタリング、リース・割賦、支払条件の交渉、私的整理・再生支援スキームなど、選択肢は完全にゼロではありません。
ただし、それぞれにメリットとリスクがあるため、「資金が出るかどうか」だけでなく、「何年で・どの程度のコストを払うのか」「事業の再建にどうつながるのか」をセットで評価する必要があります。
| 視点 | 確認したい内容 |
|---|---|
| 時間軸 | 目先1〜3か月を乗り切るか、1〜3年の再建を目指すのか |
| コスト | 金利・手数料・割引率などの総額と、利益・自己資本への影響 |
| 再建性 | 調達した資金で「何を変えるのか」(構造赤字を解消できるか) |
| ステークホルダー | 銀行・保証協会・取引先・従業員との関係にどう影響するか |
ファクタリングと他手段の優先順位
ファクタリングは、売掛金を早期現金化できる一方、手数料負担が比較的高く、あくまで短期資金向きの手段です。
銀行融資が難しい企業ほど「ファクタリングしかない」と考えがちですが、実際には、政府系金融機関(日本政策金融公庫など)や信用保証協会付き融資、リスケジュール(返済条件変更)、リース・割賦、在庫・固定資産の売却、経費削減など、資金繰り改善の選択肢は複数あります。
それぞれの特徴を踏まえて、優先順位を整理しておくことが重要です。
一般的な考え方としては、
- ① 長期的な資金需要(設備・構造改革)は、できる限り長期融資・リース・増資などで賄う
- ② 一時的な売掛金の増加や入金タイミングのズレは、必要最低限の範囲でファクタリングを検討する
- ③ 慢性的な赤字をファクタリングで埋める運用は避ける
といった整理が有効です。
- 「長期の課題」には長期資金、「短期のギャップ」には短期資金と、役割を分けて考える
- ファクタリングは売掛金という「将来の現金」の前倒しであり、繰り返せば将来の余力を削ることを意識する
- 高コストの手段ほど、目的と期間を明確にし、利用上限額を社内ルールとして決める
慢性的な赤字・債務超過との向き合い方
銀行融資NGになっている企業の多くは、過去数期にわたる赤字や債務超過が背景にあります。
この状態でファクタリングや高金利借入に頼り続けると、「資金繰りは回っているが、債務超過が拡大するだけ」という状況に陥りがちです。
慢性的な赤字・債務超過と向き合うには、「損益」「資金繰り」「貸借対照表」の三つを切り分けて現状を見直す必要があります。
具体的には、
- 損益…どの事業・取引が黒字で、どの部分が継続的な赤字を生んでいるか
- 資金繰り…月次でキャッシュイン・アウトを一覧化し、どの支出が資金を圧迫しているか
- 貸借対照表…自己資本比率・借入金残高・売掛金・在庫・固定資産のバランス
を整理し、「残すべき事業・縮小すべき事業」「売却可能な資産」「削減可能な固定費」を具体的に洗い出していきます。
- 直近1〜3期の決算書と月次推移から、構造的な赤字要因(売上・粗利・固定費)を特定する
- 赤字事業・不採算取引の見直しや撤退を含めて検討する
- ファクタリングは「再建のための時間稼ぎ」と位置づけ、構造改善のアクションとセットで使う
再建計画とファクタリングの適正比率
再建を視野に入れる場合、ファクタリングを「どの程度まで使うか」を計画の中で明示しておくことが重要です。
例えば、「売上高の◯%まで」「売掛金残高の◯%まで」「特定の売掛先に限定」といった形で上限を決め、その範囲内でのみファクタリングを利用するようルール化します。
これにより、「いつのまにか全売掛金をファクタリングしないと回らない状態になっていた」といった事態を防ぎやすくなります。
再建計画では、
- 売上・粗利の改善(値上げ・高粗利商品の比率アップ・不採算取引の削減)
- 固定費の削減(人件費・家賃・外注費・サブスク見直し)
- 金融債務の整理(リスケジュール・借換え・債務免除交渉等)
- ファクタリング利用方針(対象売掛金・上限額・期間)
をセットで示し、「ファクタリングをどの時期にどれだけ使い、いつまでに依存度を下げるか」のロードマップを描きます。
- 売掛金残高の何割までをファクタリングに回すか上限を決める
- 「いつまでに・どの水準まで」ファクタリング依存度を下げるか数値目標を置く
- 売掛先・案件ごとに、ファクタリングの対象としない優良債権を設定し、将来の資金余力を確保する
専門家チームと伴走する体制づくり
銀行融資NG、ファクタリング返済困難といった局面では、経営者単独で判断すると、どうしても短期的な資金繰りを優先しがちです。
そこで有効なのが、税理士・中小企業診断士・弁護士・社労士など、必要な専門家を組み合わせた「伴走型」の体制を作ることです。
中小企業支援機関の制度を通じて、こうした専門家の支援を受けながら、中期的な再建計画と日々の資金管理を一体的に進める事例も増えています。
専門家チームを組む際には、
- 税理士:資金繰り表の作成、税金・消費税の納付見通し、経費削減余地の検討
- 中小企業診断士等:事業ポートフォリオの見直し、再建計画の策定、金融機関との対話支援
- 弁護士:契約内容・偽装ファクタリングの法的リスク、債務整理や再生スキームの検討
- 社労士:人件費構造や労務リスクの整理(必要に応じて)
と役割分担を明確にし、定期的なミーティングで「計画と実績」のギャップを確認していくと効果的です。
- 「単発の相談」で終わらせず、3〜6か月単位の継続支援として設計する
- 資金繰り・損益・債務の情報を包み隠さず共有し、現実的な打ち手を一緒に検討する
- ファクタリングを含む資金調達方針についても、専門家の視点から妥当性をチェックしてもらう
このような体制を整えることで、「目先の返済に追われる経営」から、「再建に向けて数字と制度に基づき判断する経営」へと、徐々にシフトしていくことができます。
まとめ
ファクタリングで「返済できない」状況に陥ったときは、まず契約書の内容(償還請求権の有無・遅延損害金・保証人条項など)を正確に把握し、放置せずに早期の情報整理と対話を進めることが重要です。
そのうえで、支払計画の提案や条件変更の交渉、公的相談窓口・弁護士への相談を通じて、訴訟・差押えなど最悪の事態を避ける道を探ります。
同時に、慢性的な赤字や債務超過を放置せず、銀行融資・公的支援・ファクタリングの位置づけを見直した再建計画を立て、専門家と伴走しながら資金繰りと事業の両面を立て直していく視点が欠かせません。





















