資金繰りのために「ファクタリングと手形割引のどちらを使うべきか」で迷う中小企業は少なくありません。どちらも将来の入金を前倒しする点は同じですが、対象となる債権、契約スキーム、負担するリスク、コストや会計処理は大きく異なります。この記事では、ファクタリングと手形割引の仕組みと違いを整理し、資金繰り改善にどう役立つか、銀行融資が難しい場合の選択軸や具体的な使い分けポイント、導入時のチェックリストまで客観的に解説します。
ファクタリングと手形割引の基礎
ファクタリングと手形割引はいずれも「将来受け取るはずのお金を前倒しで現金化する」手段ですが、対象・契約の形・リスクの持ち方が大きく異なります。
ファクタリングは、売掛金(請求書にもとづく代金債権)をファクタリング会社に譲渡し、代金から手数料を差し引いた金額を早期に受け取る仕組みです。
法的には債権の売買(債権譲渡)と位置付けられます。一方、手形割引は、受け取った約束手形・為替手形を銀行などに持ち込み、満期日までの利息相当分(割引料)を差し引いた金額を貸し付けてもらう取引で、実質的には短期の融資(手形貸付)に近い性格を持ちます。
近年、日本では約束手形のサイト(交付から満期までの期間)を60日以内に短縮する運用変更や、将来的な廃止方針が示されており、手形取引は徐々に減少傾向にあります。
その一方で、売掛債権を使ったファクタリングや電子記録債権など、新しい資金調達手段が広がっています。
中小企業が資金繰り改善策として両者を比較する際は、「自社が受け取っているのは売掛金か手形か」「負債として借入を増やしたいのか、債権の売却で枠を温存したいのか」といった観点で整理すると違いを理解しやすくなります。
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| ファクタリング | 売掛金などの債権をファクタリング会社に譲渡し、手数料控除後の金額を受け取る。法的性質は債権譲渡。 |
| 手形割引 | 受け取った約束手形・為替手形を、満期までの利息相当分を差し引いて銀行等が割り引く。実質は手形を担保にした短期融資。 |
| 対象となる資産 | ファクタリング:請求書ベースの売掛金/手形割引:約束手形・為替手形 |
| 主な利用場面 | 売掛金サイトが長い場合の運転資金確保、銀行融資が間に合わないときの資金繰り対策など |
ファクタリングの仕組みと特徴
ファクタリングは、企業が取引先に対して持つ売掛金(商品・サービスを提供済みだが、まだ入金されていない代金債権)を、ファクタリング会社が買い取るサービスです。
利用の基本的な流れは、①対象となる売掛金と取引先を確認、②ファクタリング会社に申込・審査、③債権譲渡契約(基本契約書・個別契約書)を締結、④売掛金額から手数料を差し引いた金額が入金、⑤期日に取引先が支払った売掛金をファクタリング会社が受け取る、というステップです。
取引形態には、売掛先に通知せず「利用者+ファクタリング会社」の2者で行う2社間ファクタリングと、売掛先にも債権譲渡を通知し、売掛先・ファクタリング会社・利用者の3者で行う3社間ファクタリングがあります。
一般に、2社間は売掛先に知られにくく資金化が早い一方で手数料は高め、3社間は売掛先の協力が必要ですが回収リスクが小さい分、手数料は抑えられやすいとされています。
手数料率は案件により異なりますが、3社間で数%前後、2社間でそれより高めに設定されるケースが多く、買取率(請求書額面に対して前払いされる割合)は90〜100%が一つの目安です。
たとえば、請求書額1,000万円、買取率95%、手数料率5%とすると、前払い額は950万円、最終的な手数料は50万円というイメージになります(前提:その他費用なし・1回限り)。
借入ではなく債権の売却なので、貸借対照表上は売掛金の減少と手数料の費用計上として扱われるのが一般的です(詳細は会計基準・顧問税理士の判断によります)。
- 売掛金を期日前に現金化でき、運転資金を早期に確保しやすい
- 融資と異なり、原則として担保・第三者保証人が不要のサービスも多い
- 2社間・3社間の選択により、スピードと手数料水準のバランスを調整できる
- 債権譲渡として扱われるため、借入枠を温存しながら資金調達できる
手形割引の仕組みと基本ポイント
手形割引は、取引先から受け取った約束手形や為替手形を、満期日前に銀行などへ持ち込み、満期までの利息相当分(割引料)を差し引いた金額を受け取る取引です。
企業は手形を受け取った時点では「受取手形」として資産計上し、通常は支払期日に取引先から現金化しますが、手形割引を利用する場合は、その前に銀行等に手形を提示し、割引料を支払って現金を先に受け取ります。
銀行側から見ると、手形を担保にした短期の貸付(手形貸付)の一種と位置付けられます。
割引料の計算は、概ね「割引料=手形額面×割引率(年利)×残存日数÷365日」で行われます。
例えば、額面1,000万円の約束手形を、満期まで60日残して年2.0%の割引率で割り引く場合、割引料はおよそ3万3,000円(1,000万円×2.0%×60日÷365日≒33,000円)となり、受け取れる金額はおよそ996万7,000円です(前提:その他手数料なし)。
割引率は、銀行との取引状況や信用力、金利水準などを踏まえて個別に決定されます。
手形割引の最大の注意点は「不渡りリスク」です。満期日に手形の支払人(振出人)が資金不足などで支払を行わない場合、銀行は手形所持人(割引を依頼した企業)に遡って支払いを求める権利(遡求権)を持ちます。
つまり、満期日に不渡りが発生すると、いったん受け取った割引金を返済しなければならず、取引先の信用リスクを利用者側が負う形になります。
また、不渡りが2回発生すると、当座取引停止などのペナルティが発生し、銀行取引全体に重大な影響が及ぶことも一般的な実務として知られています。
- 約束手形・為替手形を満期前に現金化する、短期融資に近い仕組み
- 割引料は「額面×割引率×残存日数」で算出され、受取額は額面から割引料を差し引いた金額
- 満期日に不渡りが出ると、銀行から利用者へ遡って支払を求められるリスクがある
- 手形取引を行っている企業に特有の資金調達手段であり、約束手形の減少に伴い比重は低下傾向
ファクタリングと手形割引の違い整理
ファクタリングと手形割引は、どちらも「将来入金されるはずの債権を前倒しで現金化する」という点では共通していますが、現金化の対象、契約の形、リスクの持ち方、会計上の位置付けなどが大きく異なります。
ファクタリングは売掛債権(請求書にもとづく代金債権)をファクタリング会社に譲渡する債権売買の一種であり、手形の発行を必要としません。
一方、手形割引は、取引先から受け取った約束手形・為替手形を銀行等に持ち込み、満期までの利息相当分を差し引いた金額を貸し付けてもらう「短期融資」に近い取引であり、銀行側は会計上も金融取引として処理しています。
また、償還請求権(リコース)の有無も重要な違いです。手形割引では、満期日に手形が不渡りになると銀行が遡って支払を求める遡求権を持ち、実質的に利用者が最終的なリスクを負います。
一方、買取型ファクタリングは、一般に売掛先の倒産・未払いリスクをファクタリング会社が負う「ノンリコース型」と位置付けられます(実務上は契約条件で例外もあり得るため要確認)。
さらに、日本では政府が約束手形の利用廃止と小切手の全面電子化を掲げており、手形割引の比重は今後小さくなっていく一方、売掛債権を活用した資金調達手段の重要性が増すと見込まれています。
| 比較軸 | ファクタリング | 手形割引 |
|---|---|---|
| 現金化対象 | 売掛債権(請求書ベースの代金債権) | 約束手形・為替手形(手形債権) |
| 法的性質 | 債権譲渡(債権の売買) | 手形を担保にした短期融資(金融取引) |
| リスク負担 | ノンリコース型では売掛先の信用リスクをファクタリング会社が負担 | 不渡り時は銀行が遡求し、最終的に利用者が負担 |
| 主な利用企業 | 手形取引が少ない企業も含め広く利用可能 | 手形決済を日常的に行っている企業が中心 |
現金化対象と契約スキームの違い
現金化の対象は、ファクタリングと手形割引の最も分かりやすい違いです。ファクタリングの対象は、商品・サービスの提供後に発生する売掛債権で、請求書や基本契約書などで金額・支払期日・取引内容が確認できる債権です。
銀行や業界団体の解説でも、買取型ファクタリングは売掛債権をファクタリング会社が買い取り、回収期限前に現金化する仕組みと説明されています。 つまり、「手形を受け取っていない通常の掛取引」でも利用できるのがファクタリングです。
一方、手形割引の対象はあくまで約束手形・為替手形であり、手形そのものが権利証書となります。
企業は手形を受け取ると「受取手形」として会計処理し、満期日に支払人から現金を受け取るか、満期前に銀行等へ持ち込み割引を受けます。
銀行側は、業種別監査委員会報告第24号に基づき、手形割引を金融取引として処理している旨を開示しており、「商業手形・荷為替手形などを受け入れ、売却又は再担保できる権利を有している」と説明しています。
契約スキームも異なります。ファクタリングでは、利用者とファクタリング会社の間で債権譲渡契約(基本契約書・個別契約書)を締結し、必要に応じて売掛先への通知や債権譲渡登記を行います。
2社間ファクタリングでは売掛先へ通知せずに取引し、3社間ファクタリングでは売掛先の承諾を得て売掛債権の譲渡を行う形が典型です。
一方、手形割引は銀行との間で割引取引契約を結び、受取手形を提示して割引料を差し引いた金額を受け取る構造で、「手形そのものを銀行に持ち込む」点が大きな違いです。
- ファクタリング:売掛債権(請求書ベース)を譲渡する債権売買
- 手形割引:受取手形を銀行等に持ち込み、割引料控除後の資金を借りるイメージ
- 手形のない掛取引でも使えるのがファクタリングの強み
- 契約書ベースか手形ベースかで、手続き・必要書類・会計処理が変わる
償還請求権とリスク構造のちがい
リスクの持ち方は、資金調達手段として見たときの大きな違いです。手形割引では、満期日に支払人が資金不足などで手形代金を支払えない場合、銀行は手形所持人(割引依頼企業)に遡って支払を求める権利(遡求権)を持ちます。
手形法では、手形債権の時効や遡求権の保全手続が規定されており、不渡りが発生した場合には所持人が振出人・裏書人に対して支払を求められる仕組みになっています。
このため、手形割引を利用した企業は、最終的には取引先の信用リスクを負う立場にあり、不渡りが続くと当座取引停止など信用上の重大な影響を受ける可能性があります。
ファクタリングは、本来「売掛債権をファクタリング会社が買い取り、売掛先の倒産リスクを引き受ける」ノンリコース型(償還請求権なし)が原型とされています。
買取型ファクタリングの説明でも、「売掛先の未払いリスクをファクタリング会社が負担する」点が一般的なメリットとして挙げられています。
ただし、実務上は契約条件で「売掛先の支払いが行われなかった場合は利用者が買い戻す」といった条項が付くケースもあり、その場合は実質的に償還請求権付き(リコース型)に近い構造になります。
また、保証型ファクタリング(売掛債権保証)では、一定の限度額の範囲内で売掛金の回収不能リスクを保証するスキームもあり、この場合は「未回収時に保証会社から保険金を受け取る」構造になります。
いずれにしても、ファクタリング契約で「誰が最終的な未回収リスクを負うのか」「償還請求権(買戻し義務)の有無」がどう定められているかを確認しないと、想定より大きな負担を抱えるおそれがあります。
- 手形割引:不渡りが出ると銀行から遡求され、最終的なリスクは利用者が負う
- 買取型ファクタリング:原則ノンリコース型だが、契約で買戻し義務がないか要確認
- 保証型:売掛金が回収不能の場合に一定割合を補償するスキームもある
- 「誰が未回収リスクを負うのか」を契約書で具体的にチェックする
資金化スピードと審査基準の比較
資金化までのスピードや審査の観点も、両者で異なります。手形割引は、手形が既に振り出されており、銀行との取引関係がある場合には、窓口やオンラインで割引申込を行い、比較的短期間(当日〜数日程度)で資金化されることが一般的です。
銀行にとっては、手形の支払人(振出人)や裏書人、割引依頼人の信用力を総合的に見ており、既に与信取引のある顧客であれば、手続きは定型化されているケースが多いといえます。
ファクタリングも、近年はオンライン完結型のサービスが増え、必要書類が揃えば最短即日〜数営業日で資金化可能とする事業者が現れています。
審査の中心は「売掛先の信用力」「過去の取引実績」「請求書の内容」「入金実績が確認できる通帳明細」などであり、利用者自身の財務内容だけでなく、売掛先企業の支払い能力や取引の継続性が重視されます。
銀行融資に比べると、「決算が悪化していても売掛先が優良なら利用できる可能性がある」という点が特徴です。
スピード感で比較すると、手形割引・ファクタリングともに条件が整っていれば短期での資金化が可能ですが、「どの部分で時間がかかるか」が違います。
手形割引は、手形発行までに時間がかかる場合があり、そもそも手形取引をしていない企業には選択肢になりません。
ファクタリングは、売掛金さえあれば利用余地がありますが、初回取引では書類収集や与信審査で数日〜1週間程度を要するケースもあります。
そのため、
- 手形決済が中心の業種で、すでに手形が手元にある → 手形割引が選択肢に入りやすい
- 掛取引が中心で、請求書ベースの売掛金が多い → ファクタリングが現実的な手段になりやすい
というイメージで整理すると分かりやすくなります。いずれにしても、資金繰り表で必要資金の時期と金額を把握したうえで、「いつまでに資金が必要か」「どの債権を使えるか」に応じてスキームを選ぶことが重要です。
- 手形割引:手形を保有していれば比較的短期で資金化可能(手形取引前提)
- ファクタリング:売掛金があれば利用余地あり、オンライン型では最短即日資金化も
- 審査の軸は、手形割引=手形関係者の信用力、ファクタリング=売掛先の信用力と取引実績
- 「必要時期」と「利用できる債権の種類」に応じてどちらが現実的かを判断する
コスト・リスク比較と注意点
ファクタリングと手形割引は、どちらも「将来入金予定の債権を使って資金を前倒しで確保する」という点では共通していますが、コストの出し方・水準、リスクの持ち方、貸借対照表への影響はかなり異なります。
ファクタリングの手数料は、一般的に2社間ファクタリングで8〜18%、3社間で2〜9%のレンジが相場とされ、1回あたりの売掛金額に対してパーセンテージで示されます。
一方、手形割引は年利ベースの「割引率」が設定され、メガバンクで1.5〜3.0%、地方銀行で2.0〜3.5%、信用金庫で2.5〜5%程度が一つの目安とされています。
リスク面を見ると、手形割引は満期日に不渡りが出た場合、銀行が利用企業に遡求する仕組みであり、6か月以内に2回不渡りが発生すると全銀協の「取引停止処分制度」により当座取引・貸出が停止されるなど、信用面への影響が大きいとされています。
ファクタリングは、買取型であれば売掛先の信用リスクをファクタリング会社が負担するノンリコース型が基本とされますが、契約によっては償還請求権付きとなる場合もあり、条項の確認が不可欠です。
会計処理の観点では、日本の中小企業向け会計指針では、債権買取型ファクタリングは「金銭債権の譲渡」として扱い、売掛金の消滅と手数料分の譲渡損を計上するのが一般的と整理されています。
一方、手形割引は金融取引として短期借入金に近い扱いとなり、受取手形の残高やオフバランスの注記の仕方などが異なります。
資金繰りだけでなく、こうしたコスト・リスク・会計上の違いを踏まえたうえで、どちらを選ぶかを検討することが重要です。
| 比較項目 | ファクタリング | 手形割引 |
|---|---|---|
| コストの表示 | 手数料率(%)・買取率で表示 | 割引率(年利%)・割引料で表示 |
| 主な相場感 | 2社間8〜18%/3社間2〜9%程度 | 銀行1.5〜3.5%台、専門業者は〜20%程度まで |
| リスク構造 | ノンリコース型では売掛先リスクをファクタリング会社が負担(契約条件により異なる) | 不渡り時は銀行から遡求、6か月2回の不渡りで取引停止など信用影響大 |
| 会計上の性格 | 売掛金の譲渡(債権売却)として処理するのが一般的 | 短期融資として扱われ、割引手形や借入金に関する会計処理が必要 |
手数料・金利水準と計算イメージ
ファクタリングと手形割引では、コストの計算方法が違うため、「数字の見え方」が変わります。
ファクタリングでは、売掛金額に対して手数料率と買取率が設定されるのが一般的で、2社間ファクタリングで8〜18%、3社間で2〜9%程度が相場とされています。
一方、手形割引は年利ベースの割引率が設定され、銀行の場合は1.5〜3.5%前後、信用金庫で2.5〜5%程度、手形割引専門業者では2.5〜15〜20%程度まで幅があると紹介されています。
【計算イメージ】
・ファクタリング
請求書額1,000万円、手数料率10%、買取率100%と仮定すると、受取額は900万円、手数料は100万円です。取引の前倒し期間が60日程度だとすると、100万円の手数料は「60日分の資金前倒しの対価」といえ、単純な年率換算では約6倍(365日÷60日)を掛けたイメージとなります。
・手形割引
額面1,000万円、割引率年3%、満期まで60日とすると、割引料は約49万3,000円(1,000万円×3%×60日÷365日≒493,000円)で、受取額は約950万7,000円です。割引率は年利なので、そのまま他の借入金利と比較しやすい一方、「残存日数×割引率」でコストが決まる点が特徴です。
このように、同じ1,000万円を60日前倒しする場合でも、手数料率・割引率の設定によって実質コストは大きく変動します。
ファクタリングは売掛先の信用力・売掛サイト・取引実績などにより手数料に幅が出やすく、手形割引は金融機関・残存日数・振出人の信用度によって割引率が変動します。
単純な「%」だけで比較するのではなく、「前倒し日数」「利用頻度」「年間の総コスト」で比較することが重要です。
- ファクタリングは「手数料率×売掛金額」で一括コストを把握する
- 手形割引は「額面×割引率×残存日数÷365日」で割引料を試算する
- 同じ金額・同じ前倒し日数で比較し、実質年率のイメージも確認する
- 年間トータルの手数料・割引料が利益に与える影響をシミュレーションする
不渡りリスクと信用への影響
不渡りリスクと信用への影響は、手形割引の方が表面化しやすい領域です。全銀協が運営する電子交換所のルールでは、6か月以内に2回手形や小切手の不払い(不渡り)を起こすと「取引停止処分」となり、当座預金取引や貸出取引が2年間禁止されるとされています。
この「ツーアウト制」は、企業の信用にとって極めて重く、一度取引停止処分を受けると新規取引や追加融資が難しくなり、事実上の倒産につながるケースも多いとされています。
手形割引を利用している場合、満期日に手形振出人が支払い不能となると、不渡りとなり、銀行は遡求権にもとづいて割引を受けた企業に支払いを求めます。
その結果、いったん受け取った資金を返済しなければならず、資金繰りが急激に悪化するリスクがあります。
また、不渡りが続けば自社の信用情報にも直接影響し、仕入先や他の金融機関との取引条件が悪化する可能性があります。
ファクタリングの場合、一般的な買取型(ノンリコース)では、売掛先が倒産した場合の回収不能リスクをファクタリング会社が負うスキームとされ、利用企業は「売掛金を譲渡済み」として扱われます。
この点は、手形割引と大きな違いです。ただし、契約によっては償還請求権付きとされている場合もあり、その場合は売掛先の支払いがなされないと利用者が買い戻す義務を負います。
また、過度な利用や高い手数料が続くと、金融機関から「資金繰りが厳しいサイン」と見なされることもあるため、利用状況が信用評価に間接的に影響する点には注意が必要です。
- 手形割引は不渡りが2回で「銀行取引停止処分」となり、信用への影響が非常に大きい
- 手形不渡りが発生すると、割引金の返済負担+信用低下で資金繰りが悪化しやすい
- ファクタリングはノンリコース型なら売掛先の倒産リスクを移転できるが、契約ごとに要確認
- どの手段でも、利用状況は金融機関・取引先から資金繰りのシグナルとして見られる
会計処理と貸借対照表への影響
会計処理と貸借対照表への影響も、資金調達手段を比較するうえで見逃せないポイントです。
日本の「中小企業の会計に関する指針(各論14 金銭債権の譲渡)」では、債権買取型ファクタリングは金銭債権の譲渡として扱われ、売掛金の消滅と譲渡損(ファクタリング手数料)の計上が一般的な処理例として示されています。
具体例としては、売掛金1,000千円を手数料5%で早期化した場合に、「売掛金1,000/売上1,000」「未収金1,000/売掛金1,000」「現金950・売掛債権譲渡損50/未収金1,000」といった仕訳が紹介されています。
この処理を貸借対照表の視点で見ると、現金の増加と売掛金の減少が同時に起こり、負債を増やすことなく資金を確保する形になります。
結果として、売掛金の圧縮により貸借対照表がスリム化し、債権回転期間が短くなる効果もあります。
ただし、IFRS(国際財務報告基準)では、売掛金を担保とした借入金に近い扱いになる場合があるなど、適用基準によって解釈が異なる点には注意が必要です。
これに対して手形割引は、金融取引として短期借入金に類する扱いになります。割引を受けた手形は「割引手形」としてオフバランスで注記するか、「短期借入金」などの勘定に振り替えて表示する方法があり、いずれにしても実質的には借入取引であることを示します。
会計・税務の解説でも、割引手形は支払期日まで企業が手形の支払義務を負っているため、潜在的な債務として注意が必要とされています。
このように、
- ファクタリング:売掛金の売却として負債を増やさずに資金化(ただし譲渡損が発生)
- 手形割引:短期借入として負債を増やして資金化(割引手形・借入金として管理)
という構造の違いがあります。金融機関との取引や格付、自己資本比率などが重要な企業にとっては、「負債を増やさずに資金化できるかどうか」が手段選択の判断材料となり得ます。
一方で、売掛金を減らすことが将来の運転資金にどう影響するかも含め、顧問税理士や会計士と相談しながら、自社の会計方針に合った手段を選ぶことが重要です。
- ファクタリング:売掛金が減り現金が増える一方、譲渡損として費用が発生する
- 手形割引:現金増加の裏側で、割引手形や短期借入金として債務が残る
- 負債の増減・自己資本比率・格付など、自社が重視する指標への影響を確認する
- 適用する会計基準(日本基準/IFRS)と税務上の取扱いについて専門家に相談する
中小企業の資金繰りでの使い分け
中小企業が資金繰り改善の手段として「ファクタリング」と「手形割引」を検討する際には、単にコストだけでなく、取引形態・銀行との関係・将来の事業方針を含めて総合的に判断することが重要です。
近年、約束手形については支払サイト60日以内への短縮や、5年程度を目途とした利用廃止に向けた取組が進められており、手形による資金調達は徐々に比重が小さくなりつつあります。
一方で、フィンテック企業や銀行が提供するファクタリングは、手形を使わない掛取引からでも資金化できる手段として紹介されており、銀行融資が難しい層や小口資金ニーズに対応する役割も期待されています。
また、中小企業庁や日本政策金融公庫は、資金繰り表の作成や信用保証制度・各種融資制度の活用を通じて、運転資金需要に応える仕組みを整えています。
こうした公的・銀行系の融資と、ファクタリング・手形割引をどのように組み合わせるかが、資金繰りを安定させるうえでの実務的なポイントです。
| 自社の状況 | 使い分けの基本イメージ |
|---|---|
| 銀行取引が強く、手形決済が多い | 手形割引+当座貸越・保証付融資を軸に、必要に応じてファクタリングを補完的に検討 |
| 掛取引中心で手形をほとんど使用しない | 売掛金ファクタリング+通常の融資・信用保証制度の組み合わせが現実的 |
| 銀行融資が難しく小口・短期の資金が必要 | コストを確認したうえでファクタリング等を検討しつつ、資金繰り表と体質改善策を並行して実施 |
銀行融資が難しい企業の選択軸
銀行融資が通りにくい企業にとって、ファクタリングや手形割引は「代替的な資金調達手段」として検討されがちです。
ただし、両者の審査軸は異なります。ファクタリングは、金融庁の解説でも「事業者が保有する売掛債権を買い取るサービスであり、法的には債権の売買(債権譲渡)契約」とされており、売掛先の信用力や取引実績が重視されます。
一方、手形割引は、手形の振出人や裏書人、割引依頼企業の信用度を総合的に見て判断する金融取引であり、銀行との既存取引や財務内容が大きく影響します。
銀行融資が難しい場合の選択軸としては、まず「売掛先の信用力」と「自社の信用力」のどちらが相対的に高いかを整理することが有用です。
売掛先が上場企業や大企業で、支払実績も安定している場合は、ファクタリングで売掛先の信用力を活用した資金調達がしやすくなります。
逆に、自社と取引先のいずれも信用格付けが十分でない場合は、信用保証協会付き融資など、公的な信用補完制度を検討する必要があります。
また、中小企業庁の検討会資料では、フィンテック企業による小口ファクタリングが「銀行から融資を受けられないような事業者」を対象とする一方、月5%程度の手数料は年率換算で60%に達することが指摘されており、コスト面の注意喚起もなされています。
銀行融資が難しいからといって、自動的に高コストの手段を選ぶのではなく、
資金繰り表を作成し「必要な金額・期間」を明確にしたうえで、
- 公的融資・保証制度でまかなえる部分
- ファクタリング等で補うべき短期ギャップ
を仕分けることが重要です。
- 自社と売掛先の信用力のどちらを軸に資金調達できるか整理する
- 信用保証協会付き融資や公的融資を優先的に検討し、足りない部分を他手段で補う
- ファクタリングは売掛先の信用力を活用できるが、高コスト商品もあるため年率イメージまで確認する
- 「いくら・いつまで必要か」を資金繰り表で明確にし、必要以上の金額・期間を取らない
手形取引の有無別のおすすめパターン
手形割引は、前提として「約束手形・為替手形を受け取っている」企業でなければ利用できません。
一方で、約束手形については、下請事業者の資金繰り負担軽減の観点から、支払サイト60日以内への短縮や、5年程度での利用廃止に向けた自主行動計画が進められており、多くの業種で手形依存度を下げる方向が示されています。
約束手形を「やめたい」と回答する受取企業の理由として、長い支払サイト・不渡りリスク・印紙代などのコスト負担が上位に挙げられている調査結果もあります。
このような状況を踏まえると、
- 既に手形で受取が行われており、取引先・銀行との関係も安定している企業
- 手形はほとんど使わず、請求書ベースの掛取引が中心の企業
で、選択肢は自然と分かれてきます。前者の場合、短期の運転資金確保には、手形割引+当座貸越・短期融資を軸に、必要に応じてファクタリング(売掛部分)を補完的に使うパターンが現実的です。
一方、後者の場合は、手形割引という選択肢自体がなく、売掛金ファクタリング・短期融資・当座貸越といった手段の中から組み合わせを検討することになります。
また、今後手形の利用を減らしたい企業は、電子記録債権や一括決済方式(ファクタリング等)への移行も選択肢になりますが、中小企業庁は「サイト60日以内」や「三者契約」「加入は下請事業者の自由意志」といった条件を要請しており、取引の適正さを確保する観点も示しています。
自社と取引先の慣行・コスト・事務負担を踏まえ、「手形を維持するのか、減らしていくのか」という中期的な方針を定めたうえで、手形割引とファクタリングの位置付けを決めると整理しやすくなります。
- 手形取引がある企業:手形割引+当座貸越を軸に、売掛部分はファクタリングも選択肢
- 手形取引がない企業:売掛金ファクタリング+短期融資・当座貸越で構成
- 今後手形を減らしたい場合:電子記録債権や一括決済方式への移行も検討
- どの方針でも、サイト60日以内・三者契約など、取引適正化の要請内容を意識する
資金ショート局面での活用シナリオ
資金ショートが目前に迫っている場面では、「どの債権を使えば、どれだけ早く・どれだけのコストで資金が手当てできるか」を具体的にシミュレーションすることが重要です。
日本政策金融公庫は、資金繰り(計画)表の作成を通じて、入出金予定と差引過不足を見える化することを推奨しており、銀行融資申込時にも資金繰り表の提示を求められるとしています。
この資金繰り表を前提に、「売掛金ファクタリング」「手形割引」「短期融資・当座貸越」のどれを組み合わせるかを検討するイメージです。
典型的なシナリオとしては、次のようなパターンが考えられます。
- 売掛金が多く手形は少ない企業
→ 近い将来に入金予定の売掛金のうち、資金ショートを埋めるのに必要な範囲をファクタリングで前倒し。並行して、信用保証付き融資や当座貸越枠の設定を金融機関と協議。 - 手形取引が多い企業
→ 手元の受取手形について、信用力の高い振出人の手形を優先して割引に回し、必要に応じて売掛部分はファクタリングで補う。手形不渡りリスクに備え、取引先の財務状況や支払実績も確認。 - 手形・売掛ともにあるが、銀行融資がタイトな企業
→ 少額・短期の資金ショートについてはファクタリングなどを用いつつ、長期的には借換や返済条件変更を含めた金融機関との交渉を進める。
中小企業庁や金融庁は、ファクタリングを装った高金利の貸付や、過度な負担を伴う取引への注意喚起も行っています。 資金ショート局面では焦りから条件を十分確認せず契約してしまいがちですが、
- 手数料・割引率と前倒し日数をもとにした実質コスト
- 償還請求権や不渡り時の責任範囲
- 既存融資契約との整合性
をチェックリスト化し、最低限の比較・確認を行うことが重要です。
そのうえで、「どの手段を何回・どの期間使うか」を資金繰り表に反映し、ショートを乗り切った後に構造的な資金体質の改善に取り組む、という二段構えで考えると、ファクタリング・手形割引をより安全に活用しやすくなります。
- まず資金繰り表で不足額と不足時期を明確にし、必要な前倒し額を特定する
- 売掛金中心か手形中心かに応じて、ファクタリング・手形割引の比重を決める
- 実質コスト・リスク・既存融資との関係をチェックリストで確認する
- 緊急対応後は、売掛回転・固定費・借入構成の見直しなど、体質改善策に必ず着手する
導入手順とチェックリスト
ファクタリングや手形割引を導入する際は、「とりあえず申し込む」のではなく、事前準備→サービス比較→契約前チェック→導入後フォローという流れを意識して進めることが重要です。
特に中小企業では、経理担当と経営者だけで判断してしまうケースが多く、必要書類の不足や契約条件の理解不足から、想定外の手数料負担や資金繰りの混乱につながるリスクがあります。
実務的には、①自社の資金繰りと売掛・手形の状況を整理する、②必要書類を事前にそろえる、③複数サービスの見積もり・条件を比較する、④契約書の条文(手数料・償還請求・債権譲渡制限など)をチェックする、⑤導入後のモニタリング方法を決める、という一連のステップを踏むことで、トラブルを減らしやすくなります。
| ステップ | 主な内容 |
|---|---|
| 事前準備 | 資金繰り表・売掛/手形の一覧・既存融資契約の確認 |
| 書類整理 | 請求書・契約書・入金実績・決算書・登記簿などを整える |
| サービス比較 | 手数料/割引率・スキーム・スピード・制約条件を比較 |
| 契約チェック | 償還請求権の有無・譲渡範囲・違約条項・既存融資との関係 |
| 導入後管理 | 利用頻度・総コスト・資金繰りへの影響を定期モニタリング |
事前準備と必要書類の整理ポイント
申し込み前に「何を出せる状態か」が整理されていると、審査のスピードと通過率が大きく変わります。
ファクタリングの場合、ほぼ必須となるのは、対象売掛金に関する請求書、過去の入金実績が分かる通帳コピー、取引基本契約書・個別契約書などの取引証憑、そして商業登記簿謄本や決算書・確定申告書です。
手形割引では、受取手形原本、手形の裏書状況、取引先との取引経緯がわかる資料に加え、銀行が求める決算書や試算表、資金繰り表などが重要になります。
また、既存の融資契約書・当座取引契約書・信用保証協会付き融資の契約条件なども事前に確認し、「売掛債権や手形を第三者に譲渡・担保提供してよいか」「銀行の承諾が必要か」といった条項の有無をチェックしておく必要があります。
- 資金繰り表(少なくとも3〜6か月先)が作成・更新されている
- 主要売掛先・手形先ごとの残高と支払サイトを一覧化している
- 請求書・受取手形・契約書・入金実績(通帳)のコピーがそろっている
- 直近の決算書・試算表・商業登記簿謄本・印鑑証明書を準備している
- 既存融資契約の「債権譲渡・担保・譲渡制限」条項を確認済み
サービス比較と見積もり確認のコツ
ファクタリング・手形割引ともに、「最初に提示された%」だけで判断すると、後から思った以上のコストになることがあります。
比較の際に押さえたいのは、①手数料率/割引率だけでなく、その他費用(事務手数料・調査費・登記費用など)の有無、②前倒し日数、③実行までのスピード、④償還請求権の有無、⑤最低/最大利用額や対象先の制限です。
ファクタリングでは、買取率(請求書額に対して何%前払いされるか)と手数料率、2社間・3社間のスキームの違いが、実行後の手取り額とコストに直結します。
手形割引では、割引率や残存日数に加え、銀行か専門業者かによって信用面・コスト面のバランスが変わります。
見積もりをとる際は、同じ条件(同じ額面・同じ残存日数・同じ売掛先)で複数社から見積もりを取り、「受け取れる金額」「総コスト」「条件(償還条項・解約条件)」を一覧で比較するのが有効です。
可能であれば、簡単なシミュレーション表を作り、年間で何回利用した場合の総コストを計算し、利益やキャッシュフローへの影響をチェックします。
- 手数料率/割引率だけでなく、事務手数料・登記費用などを含めた「実質コスト」
- 前倒し日数・入金スピード(申し込み〜入金までの目安)
- 買取率・最低/最大利用額・対象となる売掛先/手形の条件
- 償還請求権の有無・違約金・長期契約の縛りなど、契約条項の分かりやすさ
専門家相談とトラブル予防のチェック項目
契約前に「専門家の目」を通すことで避けられるトラブルは少なくありません。
特に、償還請求権付きのファクタリングや高い割引率の手形割引、一見有利に見えるキャンペーン条件などは、契約書の細かな条項まで確認しないと、後から想定外の負担が発生する可能性があります。
顧問税理士・中小企業診断士・弁護士などに、「資金繰り全体の中でこの取引をどう位置付けるか」「既存融資・税務・会計への影響は何か」を相談しておくと安心です。
また、監督官庁や業界団体が注意喚起しているように、「審査なし」「売掛金不要」「手形がなくても即日高額現金」などの過度な宣伝文句があるサービスには注意が必要です。
実質的に高金利の貸付と変わらないスキームや、反社会的勢力と関係する違法業者と取引した場合、法的・信用上のリスクを負うことになりかねません。
- 契約書を専門家(税理士・弁護士等)に一度見てもらったか
- 償還請求権の有無、不渡り時・回収不能時の責任範囲を理解しているか
- 既存融資・保証との整合性(債権譲渡禁止・担保設定)を確認したか
- 年率換算の実質コストと、年間総コストを試算しているか
- 極端な条件や過度な勧誘を行う業者を避け、会社情報・実績・問い合わせ窓口を確認したか
まとめ
ファクタリングは売掛金の早期現金化、手形割引は約束手形・為替手形の前倒し資金化という違いがあり、リスク負担やコスト、審査の観点も異なります。
自社の取引形態(手形取引の有無)や売掛先の信用力、必要な資金スピード、既存の銀行取引状況を整理したうえで、どちらが適しているかを比較検討することが重要です。
あわせて、手数料・金利水準や償還請求の有無、会計・税務処理、契約条件を事前に確認し、必要に応じて専門家へ相談することで、資金繰りを安定させつつ、自社に合った資金調達手段を選びやすくなります。



















