赤字決算なら法人税はゼロと思いがちですが、実際には納税が残る税目があり、申告を誤ると資金繰りに影響します。また、会計上の赤字と税務上の所得は一致しないこともあり、欠損金の扱いを理解していないと損をする可能性があります。この記事では、赤字でも法人税が発生する仕組み、均等割や消費税などの負担、欠損金の繰越・繰戻し、別表記載の注意点、納付スケジュールと資金繰り対策までを整理します。
目次
赤字決算と法人税の基本
赤字決算でも「法人税は必ずゼロ」とは限りません。法人税は、会社の企業活動で得た「所得」に対して課され、税務上の所得金額は原則として益金(収益)から損金(費用)を差し引いて計算します。決算書で赤字(当期欠損)でも、税務では損金にできない費用があったり、益金に算入しない調整があったりして、申告上は所得がプラスになることがあります。まずは「法人税がかかる土台は会計の赤字ではなく税務上の所得」である点を押さえると、納税見込みと資金繰りの読み違いを減らせます。
法人税が発生する仕組み
法人税は、各事業年度の「所得の金額」を課税標準として計算されます。所得の金額は、基本的に益金の額から損金の額を控除した金額です。したがって、税務上の所得がマイナス(欠損)であれば、原則として法人税そのものは発生しません。ただし、赤字決算でも税務上の所得がプラスになれば法人税が発生します。これは、決算上は費用にしていても税務上は損金にできない項目があるなど、会計と税務のルール差があるためです。
- 決算で費用計上したが、税務上は損金不算入になる支出がある
- 売上計上のタイミングや評価方法が税務上の取扱いとずれている
- 当期欠損を打ち消す申告調整が大きい
税務上の所得と赤字の違い
会計の赤字(損益計算書の当期欠損)は出発点にすぎず、申告では「申告調整」により税務上の所得(または欠損金額)を計算します。代表的には、損益計算書の利益(欠損)を基に、損金不算入(費用として認めない)を加算し、益金不算入(収益として課税しない)を減算する形です。申告書では別表四を使って、この調整を行うことが基本です。
| 項目 | 数値例 |
|---|---|
| 決算上の赤字 | 当期欠損 1,000,000円(100万円) |
| 損金不算入 | +1,500,000円(150万円) |
| 益金不算入 | -100,000円(10万円) |
| 税務上の所得 | 400,000円(40万円)→法人税計算の土台がプラス |
このように、決算が赤字でも申告上の所得がプラスに転じると、法人税が発生し得ます。どの項目が調整対象になるかは取引内容で変わるため、申告前に「赤字=納税なし」と決めつけず、別表四の調整方針を確認することが大切です。
赤字でも納税が残る税目
赤字決算で法人税(所得に対する税金)がゼロでも、会社の税負担がゼロになるとは限りません。法人の税金は、利益に連動するものだけでなく、会社の規模や活動に応じて発生する税目、預かった税金を納める税目があるためです。特に見落としやすいのが、法人住民税の均等割(利益に関係なく一定額がかかる枠)や、状況によっては外形標準課税が関係する法人事業税、そして消費税・源泉所得税のような「預かった分を納める」性質の税金です。赤字のときほど資金繰りがタイトになりやすいので、納付期限と金額(円)を先に把握し、資金繰り表に落とし込むことが重要です。
法人住民税均等割の負担目安
法人住民税は、法人税割(所得に連動する部分)と均等割(所得に関係なく一定額がかかる部分)で構成されます。赤字で法人税割が発生しない場合でも、均等割は原則として課されます。均等割の金額は、資本金等の額や従業者数などの区分によって自治体ごとに定められており、企業規模が大きいほど負担が増える設計です。
- 本店所在地の自治体と事業所所在地(複数自治体にまたがる場合)を整理する
- 資本金等の額・従業者数の区分が、決算期末時点でどうなっているか確認する
- 納付書の到着時期と納期限を資金繰り表に反映する
法人事業税と外形課税の注意点
法人事業税は、原則として所得に応じて課される税目ですが、一定規模以上の法人には外形標準課税(所得以外の要素も基準にする仕組み)が適用される場合があります。外形課税が適用されると、赤字でも付加価値額や資本等の金額などを基に税負担が発生し得るため、赤字でも納税が残るケースが出ます。
ただし、外形課税の適用対象は会社規模により決まるため、すべての中小企業に当てはまるわけではありません。自社が対象に当たるかは、資本金等の要件や決算書・申告書の区分で確認します。
- 赤字でも事業税の見込み額がゼロにならないとき(外形課税など)
- 損金算入の扱いを誤り、税務上の所得が想定より増えるとき
- 期中で資本金等の区分が変わり、取扱いが複雑になるとき
消費税・源泉税の支払い注意
赤字でも支払いが残りやすいのが、消費税と源泉所得税です。消費税は「売上にかかる消費税(受取消費税)」から「仕入や経費にかかる消費税(支払消費税)」を差し引いて納付額を計算するため、損益が赤字でも納税になることがあります。例えば、値引きや原価増で赤字でも売上が一定程度あれば、納付が発生する可能性があります。
源泉所得税は、給与・報酬等から天引きした税金を預かって納める仕組みなので、会社の損益に関係なく納付義務が生じます。支払いが遅れると延滞につながりやすいため、月次または納期の特例の適用有無を確認して、支払時期を固定的に管理することが重要です。
| 税目 | 赤字でも支払いが残りやすい理由 |
|---|---|
| 消費税 | 損益ではなく課税売上・課税仕入の差で納付額が決まるため |
| 源泉所得税 | 預かった税金を納める性質で、会社の利益とは無関係なため |
- 消費税の中間納付・確定申告の納期限
- 源泉所得税の納付サイクル(毎月か、納期の特例か)
- 納付資金(円)を固定費と同じ扱いで別枠管理する
欠損金活用の選択肢
税務上の赤字は「欠損金(税務上の赤字額)」として扱われ、将来の黒字と相殺して法人税負担を抑える「繰越控除」や、一定の要件で前期へ戻して法人税の還付を受ける「繰戻し還付」に活用できます。赤字決算のときは、納税を減らすだけでなく、将来の納税負担を平準化できる点が実務上のメリットです。一方で、青色申告や申告の継続、適用期限、控除できる上限などの条件があるため、申告書作成の段階で「どの欠損金を、どこまで使えるか」を先に整理しておくことが重要です。
欠損金の繰越控除の条件
欠損金の繰越控除は、赤字が出た事業年度の欠損金を、翌期以降の所得と相殺して法人税の課税所得を減らす仕組みです。使える欠損金は、原則として「欠損金が生じた事業年度に青色申告書である確定申告書を提出していること」が前提になります。また、赤字の年度の後も確定申告書を継続して提出していることが条件となるため、赤字の翌期以降も申告を止めない運用が大切です。
控除のしかたは、繰越欠損金が複数年にわたる場合、古い年度の欠損金から順に相殺するのが原則です。たとえば、繰越欠損金200万円(2,000,000円)があり、当期の控除前所得が150万円(1,500,000円)の場合、150万円まで相殺でき、当期の所得は0円となるイメージです。
なお、資本関係の変動など一定の要件に該当すると、過去の欠損金が使えなくなる制限が設けられる場合があります。組織再編や株主構成の大きな変更がある場合は、税理士へ個別確認するのが安全です。
欠損金の繰戻し還付の流れ
繰戻し還付は、当期に欠損金が生じた場合に、その欠損金を前期へ繰り戻して、前期に納付した法人税の還付を受ける制度です。資金繰りに直結するため、赤字が出た年の「現金回収策」として検討されます。
一般的には、中小企業者等に該当する法人が対象になりやすく、欠損事業年度について期限内に青色申告の確定申告書を提出し、同時に還付請求書を提出するなどの要件があります。手続きの流れは次のイメージです。
- 前期に法人税を納付していることを確認する
- 当期に欠損金が生じたら、欠損金額(円)を確定させる
- 当期の確定申告書を期限内に提出し、同時に還付請求書を提出する
- 税務署の審査を経て、還付金(円)が振り込まれる
- 前期の課税所得(円)と納付済み法人税額(円)
- 当期の欠損金額(円)と、還付に使う欠損金の範囲
- 申告期限(延長の有無を含む)と、同時提出が必要な書類
期限と控除限度の確認ポイント
欠損金活用で見落としやすいのが「いつまで使えるか(期限)」と「どこまで相殺できるか(控除限度)」です。繰越控除の繰越期間は原則10年ですが、古い事業年度に生じた欠損金は繰越期間が異なる場合があります。また、欠損金を相殺できる金額は、法人区分によって上限が設けられることがあります。たとえば中小法人等以外の法人では、繰越控除前の所得金額に一定割合を乗じた金額が損金算入限度額となり、一定の事業年度以降は「所得の50%」が上限となる扱いがあります。
さらに、中小法人等の判定は資本金等の額だけでなく、一定の大法人に100%支配される法人(いわゆる100%子法人等)などは中小向けの取扱いから外れる点にも注意が必要です。
| 確認項目 | チェックの目安 |
|---|---|
| 繰越期間 | 欠損金が発生した事業年度が「いつ開始した年度か」を基に、適用年数を確認します。 |
| 控除上限 | 自社が中小法人等に該当するか、または上限(例:所得の一定割合)がある区分か確認します。 |
| 相殺の順序 | 複数年の欠損金がある場合、古い欠損金から充当する前提で管理します。 |
| 繰戻しとの関係 | 繰戻し還付に使った欠損金は、繰越控除には回せないため、使い分けを決めます。 |
- 欠損金の発生年度ごとに「発生額(円)」「残高(円)」「期限」を台帳で管理する
- 中小法人等の判定や支配関係の有無を、決算期末時点で確認する
- 将来利益が読みにくい場合は、資金繰り優先で繰戻し還付の可否も検討する
申告実務の注意点
赤字決算の申告は「法人税が出ない」ことより、欠損金を正しく確定して翌期以降に使える状態にすることが重要です。会計上の赤字から税務上の所得(欠損金)へ調整する別表の作成、欠損金の残高管理、繰戻し還付を行う場合の同時提出など、手続きの抜け漏れがあると制度を活かせません。また、赤字のときほど損金算入の可否や計上時期の判断が問題になりやすいため、根拠資料(契約書・請求書・領収書・稟議等)と帳簿の整合を意識して準備します。判断に迷う処理は、申告前に税理士へ確認するのが安全です。
別表での欠損金記載ポイント
欠損金は、決算書の赤字額をそのまま書くのではなく、申告調整後の「税務上の欠損金額」として管理します。実務では、まず別表四で所得金額(または欠損金額)を確定し、欠損金の繰越控除を行う場合は欠損金の別表(繰越欠損金の明細)に当期発生分・充当分・残高を記載します。
| 別表 | 役割の目安 |
|---|---|
| 別表四 | 会計利益(欠損)から税務上の所得(欠損)へ調整する |
| 欠損金の別表 | 欠損金の発生年度・残高・当期控除額を管理する |
- 当期欠損の原因となる申告調整(損金不算入・益金不算入)を別表四で確定する
- 欠損金は「発生年度ごと」に残高管理し、古い年度から充当する前提で整理する
- 繰戻し還付を使う場合は、繰越と重複して使わないよう充当範囲を明確にする
繰延税金資産の判断目安
繰延税金資産は、将来の課税所得と相殺できる見込みがある場合に、税金の効果を会計上で資産として計上する考え方です。赤字決算では欠損金が発生するため論点になりやすい一方、将来の利益計画が不確かな場合は計上が難しくなります。判断の中心は「将来の課税所得が見込めるか」「利益計画に合理性があるか」「一時差異(会計と税務のズレ)が解消していく見通しがあるか」です。
- 赤字が続いているのに、根拠の薄い利益計画で多額に計上してしまう
- 欠損金の繰越期限や控除上限を考慮せず、回収可能性を過大に見積もる
- 翌期以降に組織再編・資本関係の変更があり、欠損金の利用制限が生じる可能性を見落とす
税務調査で見られる論点
赤字でも税務調査の対象になり得ます。特に、欠損金が大きい場合は「翌期以降の税負担に影響する」ため、欠損金の根拠や損金算入の妥当性が確認されやすくなります。論点は、売上計上時期(期ずれ)、外注費・広告費などの実在性、役員報酬や交際費の区分、棚卸資産評価、貸倒損失の要件などです。
- 売上・仕入の期ずれがないか(検収日・請求日・計上日の整合)
- 損金の根拠資料が揃っているか(契約書、発注書、納品書、領収書等)
- 欠損金の発生額・充当額・残高が別表と帳簿で一致しているか
- 役員関係費用や私的支出の混在がないか
調査対応は個別性が高いため、事前に資料を時系列で整理し、説明できる状態にしておくことが実務上の防御になります。
資金繰りと次の一手
赤字決算では「法人税が出ない」ことに目が向きやすい一方、均等割や消費税、源泉所得税などの納付が残り、資金ショートの引き金になることがあります。まずは決算日から逆算して、申告・納付の期限と必要資金(円)を見える化し、手元資金の安全余裕を確保することが重要です。加えて、固定費の見直しや役員報酬の扱いなど、節税と資金繰りの両面で「誤ると不利になる論点」もあります。ここでは、納付スケジュールの管理、固定費・役員報酬の見直し、相談先の選び方を整理します。
納付スケジュールの把握方法
税金の支払いは「利益が出たら払う」ではなく、期限が先に決まっているものが多いです。目安として、法人税・法人住民税・法人事業税・消費税は、原則として決算日から2か月以内に申告・納付する流れになります(申告期限の延長がある場合は別)。源泉所得税は毎月納付(または要件を満たせば年2回)となるため、赤字でもキャッシュアウトが継続します。
| 税目 | 資金繰りでの押さえ方 |
|---|---|
| 法人税等 | 決算日から逆算して申告期限を設定し、見込み納付額(円)を先に別枠で確保します。 |
| 均等割 | 赤字でも原則発生する前提で、毎期の固定費に近い扱いで積み立てます。 |
| 消費税 | 中間納付の有無を確認し、売上・仕入の推移から納付見込み(円)を早めに更新します。 |
| 源泉所得税 | 給与・報酬の支払月に連動するため、納付サイクル(毎月/年2回)を固定して管理します。 |
- 決算日と申告期限、各税目の納期限をカレンダー化する
- 均等割・源泉税など「赤字でも出る支出」を優先的に金額化する
- 納付月の月末残高がマイナスにならないか、3か月先まで確認する
固定費と役員報酬の見直し観点
赤字局面では、損益よりも「毎月出ていく固定費」を先に止血するほうが資金繰り改善につながりやすいです。家賃・通信費・サブスク・外注費・リース料などは、契約更新や解約条件を確認し、短期で減らせる順に手当てします。一方で、役員報酬は節税と資金繰りの両面で影響が大きく、変更方法を誤ると税務上の損金算入(費用計上)が認められにくくなる場合があります。
- 期中の変更は、税務上の取扱いに影響することがあるため、変更前に確認が必要です。
- 「資金繰りのための減額」が結果的に課税所得を押し上げるケースがあるため、試算が重要です。
- 社会保険料など連動コストも含め、手取りと会社負担をセットで見ます。
税理士・支援機関の相談先目安
赤字決算の局面では、税務と資金繰りが絡むため、相談先を目的別に分けると整理しやすいです。欠損金の繰越・繰戻し、別表の作成、役員報酬の税務影響などは税理士の領域です。納付が厳しい場合は、早めに税務署や自治体へ相談し、猶予・分納などの制度の可否を確認することが現実的です。資金繰り全体の立て直しは、商工会議所・商工会などの経営相談や、金融機関・公的融資窓口の相談を並行すると次の一手が打ちやすくなります。
| 困りごと | 相談先と準備物の目安 |
|---|---|
| 申告・欠損金 | 税理士/決算書、申告書控え、欠損金の残高管理、主要契約書 |
| 納付が厳しい | 税務署・自治体窓口/納付書、資金繰り表、預金残高、支払予定一覧 |
| 資金繰り改善 | 商工会議所・商工会、金融機関、公的融資窓口/試算表、資金繰り表、売上見込み |
- 納付が残る税目と納期限、必要資金(円)
- 直近3か月の資金繰り表と、固定費の一覧
- 欠損金の発生額(円)と繰越残高(円)、翌期の利益見込み
まとめ
赤字決算でも、法人税がゼロにならないケースや、均等割・消費税・源泉税など納税が残る税目があります。要点は①税務上の所得の考え方②赤字でも発生する税目の把握③欠損金の繰越控除・繰戻し還付の条件④別表記載や繰延税金資産の注意⑤納付時期を踏まえた資金繰り。まず必要額と納付期限を整理し、制度融資等も含めて比較し、判断に迷う点は税理士や支援機関に相談しましょう。



















