給料日前にお金が足りず、「給料ファクタリング」や「給料前払いサービス」を検索する人は少なくありません。しかし、最高裁は一部の給料ファクタリングを「実質は違法な貸付」と判断しており、使い方を誤ると多重債務やトラブルにつながるおそれがあります。本記事では、給料ファクタリングと給料前払いサービスの仕組みの違い、違法リスクが指摘されているポイント、企業導入型の前払い制度の安全性、公的制度などの代替手段までをわかりやすく整理します。
給料前払いとファクタリング基礎
「ファクタリング」と「給料前払い」は、どちらも「お金を早めに受け取る」しくみとして紹介されることがありますが、仕組みも法律上の扱いも大きく異なります。
まず、もともとのファクタリングは、事業者が持っている売掛金(取引先に対する請求権)をファクタリング会社に売却し、その代わりに期日前に現金を受け取る資金調達手段です。
ここで対象となるのは、企業同士の取引で発生した売掛債権が中心です。一方、「給料ファクタリング(給与ファクタリング)」と呼ばれてきたものは、個人が会社に対して持つ賃金債権(給与を受け取る権利)を業者が買い取り、給料日前に現金を渡すスキームです。
最高裁判所は、こうした給与ファクタリング取引について、「形式は債権譲渡であっても、実質は貸金業法・出資法上の『貸付け』に当たる」と判断し、貸金業登録のない業者による給与ファクタリングはヤミ金融に該当するとしました。
金融庁も「給与ファクタリングは利用しないでください」と明確に注意喚起しています。これに対し、近年広がっている「給料前払いサービス」は、企業が自社の制度として導入する形が中心です。
基本的には「すでに働いた分の賃金」を、本来の給料日よりも前に従業員へ支払う仕組みであり、賃金の一部を前倒し支給する制度と整理されています。
厚生労働省のQ&Aでも、労働者からの「前借り」については、労働基準法第17条との関係に注意しつつ、基本的な考え方が示されています。
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| 事業者向けファクタリング | 企業の売掛金を対象とした資金調達手段。法律上は債権譲渡(条件次第では実質貸付と評価されることもある)。 |
| 給与ファクタリング | 個人の賃金債権を対象とした取引。最高裁判決・金融庁の解釈により、実質は貸付けであり、無登録業者はヤミ金融。 |
| 給料前払いサービス | 企業が従業員に対し、すでに働いた分の賃金を給料日前に支払う制度。労働法のルールを守れば合法の福利厚生。 |
このように、「ファクタリング」と「給料前払い」は似た言葉でも中身が違います。次の見出しでは、まず問題点の多い「給料ファクタリング」の仕組みから整理します。
給料ファクタリングの仕組み
給料ファクタリングは、表向きは「給与債権の売買」と説明されます。イメージとしては、次のような流れです。
- 労働者が給料ファクタリング業者に申し込む
- 労働者は、勤務先に対する給与債権(例:今月末に支給予定の20万円)を業者に譲渡する契約を結ぶ
- 業者は手数料を差し引いた金額(例:16万円)を労働者に振り込む
- 給料日になると、勤務先は通常どおり労働者の口座へ20万円を振り込む
- 労働者は、その20万円から業者に対して約定額(元本+「手数料」)を支払う
形式上は「給料を担保にしたファクタリング(債権譲渡)」ですが、実際には「業者が先にお金を貸し、給料日に利息込みで返済させる」構造になっています。
このため、金融庁は早くから「給与ファクタリングは貸金業に該当する」との解釈を公表し、貸金業登録のない業者は貸金業法違反・出資法違反となると注意喚起してきました。
最高裁令和5年2月20日判決も、同様に給与ファクタリングを貸金業法・出資法上の「貸付け」と判断しています。
実際の被害事例では、手数料を年利換算すると数百〜千数百%に達するケースも報告されており、「借金ではない」「ブラックでも利用可」などの宣伝文句で勧誘された利用者が、少額を何度も繰り返して多重債務に陥るパターンが目立ちます。
- 形式は「賃金債権の買取り」でも、実質は「給料を担保にした高金利の貸付け」と評価されている
- 貸金業登録のない業者が行えばヤミ金融であり、違法な高手数料・違法な取立ての被害リスクが高い
- 金融庁は「給与ファクタリングは利用しないでください」と明確に呼びかけている
このような背景から、個人の生活資金の手当てとして「給与ファクタリングを使う」という選択肢は、法令・安全性の両面から強く避けるべきものとされています。
給料前払いサービスの仕組み
これに対し、「給料前払いサービス」は、企業が自社の従業員向けに導入する仕組みです。基本的な考え方は、厚生労働省のQ&Aや労務解説にもあるとおり、「すでに働いた分の賃金を、通常の給料日より前に支払う」制度です。
代表的なパターンは次のような流れです。
- 従業員がある期間分の出勤・労働を終える
- 勤怠データ・賃金計算にもとづき、「この時点で発生している賃金債権」が算出される
- 従業員は、その範囲内で前払いを希望する金額を申請する
- 企業または企業と提携する前払いサービス事業者が、給料日前に従業員口座へ振り込む
- 給料日に、前払い分を差し引いた残額を支給する
ここでポイントになるのが、「まだ働いていない将来分の給料」は原則として前借りできない、という労働基準法第17条の考え方です。
そのため、健全な前払い制度・前払い代行サービスは、「すでに発生した賃金債権の範囲内での前倒し」に限定されています。
また、前払いサービス事業者が介在するスキームでも、賃金支払主体はあくまで雇用主(企業)であり、事業者は勤怠データをもとにしたシステム運用や立替・振込の代行などを担う形が多くなっています。
- 対象は「すでに働いた分の賃金」であり、将来分の前借りではない
- 賃金支払義務者はあくまで雇用主であり、前払いサービス事業者は代行・立替の位置付け
- 労働基準法(賃金全額払い・毎月1回以上払い・前借り規制など)との整合性を取る必要がある
このように、給料前払いサービスは、法律の枠組みの中で設計された賃金支払方法の一バリエーションであり、ヤミ金融的な「給料ファクタリング」とは、仕組みも法的位置付けも大きく異なります。
二つのサービスの大きな違い
「ファクタリング(特に給与ファクタリング)」と「給料前払いサービス」は、どちらも「給料日前にお金を手にする」という結果だけを見ると似ていますが、実際には次のような違いがあります。
- だれと契約するか:給与ファクタリングは労働者と業者、給料前払いは従業員と雇用主(+代行事業者)
- お金の性質:給与ファクタリングは実質「貸付け」、給料前払いは「賃金の支払時期の前倒し」
- 法的枠組み:給与ファクタリングは貸金業法・出資法の対象(無登録業者は違法)、給料前払いは労働基準法の範囲内で運用
- リスク:給与ファクタリングは高額手数料・違法取立て・多重債務の危険、給料前払いは制度設計を誤ると前借り禁止など労務リスク
最高裁判決と金融庁の解釈により、「給与ファクタリングは貸付けにあたり、無登録業者はヤミ金融である」ことが明確になりました。
一方で、給料前払い制度は、労働者保護のルール(賃金全額払いの原則・前借り規制)を守ることを前提に、多くの企業で導入が進んでいます。
- 相手は「雇用主かどうか」「貸金業登録のある金融業者かどうか」をまず確認する
- お金の性質が「賃金の前倒し」なのか、「借入れ(返済義務付き)」なのかを整理する
- 公的機関(金融庁・厚生労働省など)が注意喚起しているスキームに当てはまっていないかを事前に調べる
このように、「ファクタリング」と「給料前払い」というキーワードが出てきたときは、「誰との契約で、どの法律の枠組みで動いている仕組みなのか」を意識して区別することが、安全な選択につながります。
給料ファクタリングの問題点
給料ファクタリングは、「給料を売って先にお金をもらえるサービス」と説明されることがありますが、実際には多くの公的機関が「違法なお金の貸し付け(ヤミ金融)」として強く注意喚起しています。
金融庁は、「給与ファクタリングなどと称して、賃金債権を買い取って金銭を交付し、労働者を通じて回収する行為は貸金業にあたる」と明示し、貸金業登録のない業者はヤミ金融であり、年利換算で数百〜千数百%の法外な手数料を取られたり、勤務先への連絡や恫喝を伴う違法な取立て被害につながるとしています。
警視庁や都道府県も、「給料を即日現金化」「借金じゃないから安心」といった宣伝文句で利用者を集め、実際には極めて高い利息相当額を払わせる事例があるとして、無登録の給与ファクタリング業者を絶対に利用しないよう呼びかけています。
さらに最高裁判所は、給与ファクタリング取引を貸金業法・出資法上の「貸付け」にあたると判断し、こうした取引を行う事業者はヤミ金融であることを明確にしました。
このように、給料ファクタリングは、表向きの説明と実際の法律上の評価が大きく異なっており、「仕組みが分かりにくいまま利用すると、生活がかえって苦しくなる」という構造的な問題を抱えています。
| 論点 | 問題点の概要 |
|---|---|
| 費用 | 年利換算で数百〜千数百%になる高額手数料の例がある |
| 法令 | 最高裁・金融庁の解釈では「貸付け」にあたり、無登録業者はヤミ金融 |
| 取立て | 勤務先への連絡や恫喝など、違法な取立て事例が報告されている |
高額手数料と多重債務リスク
給料ファクタリングの最大の問題は、「手数料が非常に高い」ことです。金融庁は、給与ファクタリングを利用した場合、年利に換算すると数百〜千数百%になるような法外な利息相当額を支払わされるケースがあるとしています。
警視庁の注意喚起でも、無登録の給与ファクタリング業者により、年利換算で数百〜1,000%超の高額な手数料を取られた事例が紹介されています。
例えば、給料20万円に対し、手数料4万円(20%)を差し引かれた16万円を受け取り、1か月後に20万円を返すとします。
この場合、見かけの手数料率は20%ですが、1か月の利用で4万円を上乗せして返しているため、年利換算すると約240%(20%×12か月)という非常に高い水準になります。
これを繰り返すと、「今月をしのぐために来月分の給料を前倒し→翌月も同じことを繰り返す」という状態になり、実質的に多重債務のような構造に陥ります。
- 手数料は「いくら取られるか」だけでなく、「期間あたりの負担(年利換算)」で見る必要がある
- 一度利用すると、次の給料日も資金が不足しやすくなり、連続利用しやすい構造になっている
- 手数料を払い続けると、手取り収入が減り、生活費がさらに不足する悪循環が生じる
- 年利で見て100%を超えるような条件は、生活を悪化させる危険が非常に高い
- 「今だけ助かればよい」と考えて繰り返すと、元の給料では生活が成り立たなくなる
- 生活費が足りない場合は、公的な貸付制度や相談窓口を優先して検討する
このように、給料ファクタリングは「少額だから大丈夫」と考えてしまいがちですが、実際には高金利の借入れを繰り返しているのと同じ状態になりやすく、多重債務と生活破綻のリスクが大きいことを踏まえておく必要があります。
違法性と最高裁判決のポイント
給料ファクタリングの違法性については、最高裁判所が明確な判断を示しています。令和5年2月20日の最高裁決定は、いわゆる「給与ファクタリング」と称する取引について、貸金業法第2条第1項および出資法第5条第3項が定める「貸付け」に該当すると判示しました。
判決のポイントは、形式上は賃金債権の譲渡(ファクタリング)となっていても、実際には
- 債権の対象が労働者の賃金債権である
- 譲受人(業者)は、使用者(会社)に直接請求できず、労働者本人からの「買戻し」でしか回収できない
- 労働者は事実上、債権を買い戻さざるを得ない状況に置かれている
といった事情から、「債権譲渡の形をとっていても、実質は労働者に対する金銭の貸付けである」と評価した点です。
また、このような給与ファクタリングを貸付けと評価したことにより、貸金業登録のない事業者がこれを行えば、貸金業法違反の無登録営業および出資法違反(上限金利超過)として刑事罰の対象となることが明確になりました。
- 給与ファクタリングは、形式が債権譲渡でも「貸付け」として扱われる
- 貸金業登録のない業者が行えば、違法なヤミ金融として処罰対象になる
- 高金利・過酷な取立てだけでなく、「そもそも仕組み自体が違法性を含む」と理解しておく
このため、個人が生活費のために利用する選択肢として、給与ファクタリングは法令面・安全面の両方から強く避けるべきものと位置づけられています。
ヤミ金融業者に多い手口
給料ファクタリングを含むヤミ金融業者の手口には、いくつか共通した特徴があります。警視庁や地方自治体の注意喚起では、次のようなパターンが繰り返し紹介されています。
- 「給料を即日現金化」「借金ではないから安心」「ブラックでもOK」などの宣伝文句で勧誘する
- SNSやインターネット広告からスマートフォン一つで申し込めるようにし、審査がほとんどない
- 貸金業登録番号を表示していない、または実在しない登録番号・他社の番号を無断で表示している
- 支払いが滞ると、勤務先や家族へ執ように電話をかけたり、大声での恫喝・個人情報の暴露をほのめかすなどの違法な取立てを行う
金融庁や消費者庁、日本貸金業協会も、「ファクタリングを装ったヤミ金融」や「給与の買取りをうたう違法な貸付け」に注意するよう呼びかけており、具体的な相談事例として、手数料を差し引いた受取額よりもはるかに大きな金額を返済させられたり、複数業者を渡り歩いて多重債務に陥ったりしたケースが紹介されています。
- 「借金ではない」「即日・審査なし」「給料を現金化」といった宣伝文句のサービスには近づかない
- 貸金業者を名乗る場合は、金融庁の「登録貸金業者情報検索サービス」で登録の有無を必ず確認する
- 少しでも不安を感じたら契約せず、金融庁・消費生活センター・警察など公的窓口に相談する
このように、給料ファクタリングをきっかけとしたヤミ金融被害は、「簡単」「すぐ」「借金じゃない」という甘い言葉から始まることが多いです。
生活費に困ったときほど冷静さを失いやすくなりますが、公的な貸付制度や相談窓口など、より安全な選択肢があることを知っておくことで、こうした手口から自分や従業員を守りやすくなります。
給料前払いサービスの安全性
給料前払いサービスは、「給料日前でも、すでに働いた分の給料を一部受け取れる仕組み」として、企業の福利厚生メニューの一つになりつつあります。
従業員側から見ると、「急な出費に対応しやすくなる」「消費者金融などに頼らずに済む」といったメリットがあり、企業側から見ると、「求人応募数の増加」「離職防止」「従業員満足度の向上」につながるとされています。
一方で、給料前払いは「賃金の支払い方」に関わる仕組みのため、労働基準法との関係を無視して導入することはできません。
労働基準法第24条は、賃金の支払について「通貨払い・直接払い・全額払い・毎月1回以上・一定期日払い」の5原則を定めています。
また、第17条は「前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない」と規定しており、いわゆる前借りを通じた従業員の拘束を禁止しています。
そこで、合法的な給料前払いサービスは、①「すでに労働した分の賃金」に限定して前払いすること、②賃金支払義務者はあくまで雇用主であること、③労働者の自由な同意に基づく利用であること、を前提に設計されています。
また、外部サービスを利用する場合も、「従業員に直接貸し付ける」形ではなく「企業に立替払いを行う」スキームを採用することで、貸金業には該当しない形が一般的です。
| 観点 | 安全な給料前払いサービスの基本 |
|---|---|
| 対象範囲 | すでに働いた分の賃金のみ(未発生分を前借りしない) |
| 支払主体 | 賃金を支払うのはあくまで雇用主(企業)であり、事業者は代行・立替が中心 |
| 法令対応 | 労基法24条・17条の趣旨を踏まえ、全額払い原則や前借り相殺禁止に抵触しない設計 |
| 利用方法 | 従業員の任意の申請にもとづき、利用しない自由も確保されている |
このように、正しく設計された給料前払いサービスは、法令を踏まえたうえで賃金支払のタイミングを柔軟にする仕組みであり、違法性が指摘されている給与ファクタリングとは根本的に異なります。
以下では、企業導入型前払い制度の具体的な特徴と、導入時の法的・コスト面のポイントを整理します。
企業導入型前払い制度の特徴
企業導入型の給料前払い制度は、会社が就業規則や賃金規程で「前払いのルール」を定め、そのルールにそって従業員からの申請に応じて賃金を前倒しで支給する仕組みです。
厚生労働省のQ&Aや各種労務解説では、労働基準法第24条の賃金支払5原則に反しない範囲であれば、賃金の一部をあらかじめ支払うこと自体は法律上禁止されていないとされています。
企業が独自運用する場合の典型的な流れは次のとおりです。
- 就業規則・賃金規程に「前払い制度」を定める(対象者・利用回数・上限額など)
- 勤怠データと連動して「既に発生した賃金」の範囲を算出する
- 従業員が申請し、承認された範囲内で賃金を前払いする
- 給料日に、前払い分を控除した残額を支給する(控除方法は就業規則・労使協定に明記)
外部の前払いサービスを利用する場合は、多くが「企業導入型」の仕組みを前提に、勤怠データの連携・前払い額の計算・振込処理の代行などを担います。
サービスによっては、事業者が企業に前払い額を立替払いし、後日企業から回収するタイプや、企業が支払った前払い額に対しサービス利用料を支払うタイプなど、複数の形態があります。
- 賃金支払義務者は企業のまま、前払いは賃金の支払方法のバリエーションという位置付け
- 勤怠データにもとづき、すでに働いた分の賃金の範囲内で前払い額を決める
- 就業規則・賃金規程でルールを明文化し、従業員に周知して運用する
- 外部サービスは、計算・振込・システム部分を効率化するために利用するイメージ
このように、企業導入型前払い制度は、「従業員の生活を支える福利厚生」であると同時に、「法令順守を前提とした賃金支払の仕組み」であると言えます。
労働法上の注意点とルール
給料前払いサービスを導入する際の労働法上の注意点は、主に次の3つです。
1つ目は、労働基準法第24条(賃金支払5原則)との整合性です。賃金は「通貨で」「直接」「全額を」「毎月1回以上」「一定期日に」支払う必要があり、天引きや相殺は、法令または労使協定に基づく正当な理由がない限り認められません。
前払い制度では、「前払い分を給料日支給額から控除する」運用が一般的ですが、この控除方法について就業規則や労使協定で根拠を明記しておくことが重要です。
2つ目は、労働基準法第17条(前借金相殺の禁止)との関係です。同条は、「使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない」とし、前借りを理由に労働者を拘束する行為や一方的な相殺を禁じています。
したがって、前払い制度の名目で「将来働くことを条件に前貸しを行い、勝手に給料から差し引く」ような設計は避けるべきです。
3つ目は、労働基準法第25条(非常時払)の扱いです。同条は、出産・疾病・災害などの非常時に、労働者が既に働いた分の賃金の支払いを請求した場合、企業は支払期日前でも支払う義務があることを定めており、これも給与前払いの法的根拠の一つとされています。
- 第24条:賃金支払の5原則(通貨・直接・全額・毎月1回以上・一定期日)
- 第17条:前借金を理由とする相殺禁止(身分的拘束の防止)
- 第25条:非常時の賃金支払請求権(既発生分に限り、期日前支払い義務)
- 対象は「すでに働いた分の賃金」に限定し、未発生分の前借りとならないようにする
- 前払い分を給料日支給額から控除する根拠を、就業規則・労使協定に明記する
- 労働者の自由な同意を前提とし、制度利用を事実上強制したり、退職制限の手段として用いない
このように、給料前払いサービスは労働法の枠組みの中で運用する必要があり、導入時には労務担当・社労士・弁護士など専門家と相談しながら制度設計を進めることが望まれます。
導入時のコストと社員メリット
給料前払いサービス導入の現実的な論点は、「どれくらいコストがかかり、その分どの程度のメリットがあるか」です。
コスト要素としては、①外部サービス利用料(システム利用料・振込手数料・立替手数料など)、②社内の運用負担(勤怠との連携・規程整備・説明資料の作成など)、の2つがあります。
給与前払いサービスの解説記事では、「自社だけで前払いに対応しようとすると、経理の事務負担が大きく、外部サービスを利用する企業が多い」と指摘されています。
一方で、社員メリットとしては、以下のような点が指摘されています。
- 急な出費(医療費・冠婚葬祭・引越費用など)に対して、消費者金融ではなく自分の給料で対応できる
- 日払い・週払いに近い感覚でキャッシュフローを調整できるため、生活不安が軽減される
- 福利厚生としての魅力が高く、求人広告での訴求や離職率の低下に寄与する可能性がある
- サービス手数料・振込手数料などの「1人あたりコスト」と、採用・定着にどの程度効果がありそうかを見比べる
- 導入初期は利用率が読みにくいため、パイロット導入(特定部門のみ)で様子を見る方法も検討する
- 社員向けに「給料ファクタリングとの違い」「使い過ぎの注意点」も合わせて説明し、生活改善につながるような運用を目指す
このように、給料前払いサービスは、うまく設計・運用すれば「従業員の生活を守りつつ、企業の魅力向上にもつながる」仕組みになり得ます。
ただし、労働法のルールとコスト面のバランスを取りながら、自社にとって適切なサービス選定と制度設計を行うことが、安全性・持続性の観点から重要です。
資金に困った人の安全な選択肢
給料日前や急な出費でお金が足りないとき、「とにかくすぐに現金がほしい」という気持ちから、高額な手数料のサービスや違法なヤミ金融に手を出してしまうと、かえって生活が苦しくなる危険があります。
金融庁は、給与ファクタリングのような違法な取引により、年利換算で数百〜千数百%の手数料を払わされ、生活が破綻するおそれがあるとして強く注意喚起しています。
一方で、生活に困ったときに利用できる「公的な貸付制度」や「相談窓口」も整備されています。
例えば、都道府県社会福祉協議会が実施する生活福祉資金貸付制度(緊急小口資金・総合支援資金など)は、低所得世帯等を対象に、比較的低い利子または無利子で生活資金を貸し付ける制度です。
また、生活困窮者自立支援制度では、家計の見直しや就労支援などを通じて、生活の立て直しをサポートする仕組みがあります。
| 選択肢 | 概要 |
|---|---|
| 公的貸付制度 | 生活福祉資金(緊急小口資金・総合支援資金など)。低所得・高齢・障害のある人などを対象に生活費を貸し付け。 |
| 自立支援制度 | 生活困窮者自立支援制度。家計相談・就労支援・住居確保給付金などの支援を実施。 |
| 金融機関 | 銀行・信用金庫のローン。金利・返済条件は要確認だが、ヤミ金融に比べれば透明性が高い。 |
| その他 | 自治体・社協・消費生活センターなど、無料で相談できる窓口。 |
このように、「どこから借りるか」「誰に相談するか」の選び方で、その後の生活の負担が大きく変わります。
以下で、安全度の高い公的制度や、民間ローンとの違い、避けるべきサービスの見分け方を整理します。
公的融資・生活支援制度の活用
生活費や家賃が払えないなど、生活そのものに困っている場合には、公的な貸付制度や生活支援制度の検討が重要です。
代表的なものが、都道府県社会福祉協議会が実施する「生活福祉資金貸付制度」です。
この制度には、一時的な生活費を対象とする「緊急小口資金」や、生活再建までの間の生活費を支える「総合支援資金」などがあり、低所得世帯・高齢者世帯・障害者世帯などを対象に、無利子または低利で貸付けを行います(資金の種類ごとに条件は異なります)。
また、「生活困窮者自立支援制度」では、各自治体に設置された自立相談支援機関が、家計管理や就労、住まいなどに関する相談に応じ、必要に応じて生活福祉資金や生活保護、住居確保給付金などにつなぐ役割を果たしています。
生活保護に至る前の段階で「家計改善支援事業」による相談ができる点も特徴です。
事業者の場合は、日本政策金融公庫の小口資金やセーフティネット的な融資制度が用意されており、一時的な売上減少等に対応する資金を借りられる場合があります。
- 生活福祉資金貸付制度:社会福祉協議会が窓口。緊急小口資金・総合支援資金など。
- 生活困窮者自立支援制度:自立相談支援・家計相談・住居確保給付金などを通じて生活再建をサポート。
- 事業者向け公的融資:日本政策金融公庫の各種貸付制度(生活衛生改善貸付など)。
- まず住んでいる市区町村の「社会福祉協議会」「自立相談支援窓口」に相談する
- 「どの制度が使えるか分からない」場合でも、状況を話せば制度を一緒に整理してもらえる
- 手続きに時間はかかるが、ヤミ金融や高金利サービスより長期的な負担が小さい
このように、公的な融資や支援制度は「すぐに・簡単に」ではありませんが、その分、金利や返済条件、生活再建までトータルに支援してくれる点で、長期的に見て安全性の高い選択肢です。
銀行カードローン等との比較
資金が必要なとき、銀行カードローンやクレジットカードのキャッシングを検討する人も多いです。
これらは、金利が年数%〜十数%程度に設定されているのが一般的で、給与ファクタリングのような年数百%〜千数百%という水準とは大きく異なります。
ただし、銀行カードローンも「借金」であることには変わりませんので、「何に・いくら・どのくらいの期間で返すか」を決めて計画的に使う必要があります。
安全性という観点では、「貸金業法などのルールに基づいて営業している正規業者かどうか」が重要な見分けポイントです。
金融庁や日本貸金業協会は、登録貸金業者を検索できる仕組みを提供しており、ここに掲載されていない業者は原則として利用すべきではないとしています。
- 銀行カードローン:金利は概ね年1桁〜10数%台。審査あり、返済計画が重要。
- 消費者金融:金利は銀行より高めだが、正規登録業者であれば上限金利などのルールがある。
- 給与ファクタリング・ヤミ金融:登録なし、年利換算で数百〜千数百%など、利用すべきでない。
- まず「正規の登録業者かどうか」を金融庁等の検索システムで確認する
- 金利だけでなく、遅延損害金・手数料・返済期間を含めて「総返済額」をイメージする
- 給与ファクタリングのように、年利換算で極端に高いサービスは比較対象にしない(選択肢から外す)
このように、銀行カードローン等は給与ファクタリングよりずっと安全ですが、「借りる前に返済計画を立てる」「限度額いっぱいまで使わない」といった自制心も必要です。
可能であれば、公的制度や会社の前払い制度など、より負担の少ない選択肢を優先したうえで、最後の手段として検討する方が望ましいと言えます。
避けるべきサービスのチェックリスト
最後に、「これは避けたほうがよい」というサービスの共通点をチェックリストとしてまとめます。
金融庁は、「給与の買取りをうたった違法なヤミ金融」に関する注意喚起の中で、「借金ではありません」「ブラックOK」などの誘い文句で高額な手数料を取られるケースがあるとして、こうしたサービスを利用しないよう呼びかけています。
- 「借金ではない」「ブラックOK」「審査なし」「即日で給料を現金化」などの文句をうたっている
- 手数料や金利が明示されていない、もしくは年利換算で極端に高くなる
- 給与や給付金など、生活の基盤になるお金を担保にした取引(給与ファクタリングなど)
- 金融庁・都道府県の登録業者検索に出てこないにもかかわらず、貸付けに近いことを行っている
- 口コミや被害情報で、勤務先への連絡や恫喝的な取立てが報告されている
このチェックリストに一つでも当てはまる場合は、「急いでいるときでも契約しない」という判断が、結果的に生活を守ることにつながります。
そのうえで、まずは公的な貸付制度や相談窓口、企業の給料前払い制度など、より安全な選択肢を優先し、どうしても足りない部分については、正規の金融機関や専門家と相談しながら解決策を探すことが大切です。
企業が従業員から相談を受けたとき
従業員から「給料が足りない」「給料ファクタリングを使ってしまった」と相談を受ける場面は、企業にとっても判断が難しいテーマです。
ただ放置すると、従業員の生活が行き詰まり、メンタル不調や離職、職場での不祥事リスク(着服・横領など)につながるおそれがあります。
一方で、会社が違法なスキームに関与したり、従業員の個人債務を安易に肩代わりしたりすることは避けなければなりません。
金融庁は、給与の買取りをうたうヤミ金融業者により、年利換算で数百〜千数百%の法外な利息や違法な取立て被害が生じているとして、給与ファクタリングを利用しないよう強く注意喚起しています。
企業としては、①給料ファクタリングの違法性とリスクを冷静に伝える、②社内の相談窓口や公的支援窓口につなぐ、③必要に応じて賃金前払い制度などの仕組み面での改善を検討する、という3つの軸で対応を整理しておくと実務上動きやすくなります。
| 対応の観点 | 企業側で意識したいポイント |
|---|---|
| 情報提供 | 給与ファクタリングが最高裁で「貸付け」と判断され、無登録業者はヤミ金融と位置づけられている事実を丁寧に伝える |
| 相談経路 | 人事・総務・産業医・社外カウンセラー・自治体の自立相談支援窓口など、複数の相談先を用意して案内する |
| 制度面 | 可能であれば、企業導入型の給料前払い制度や貸付制度など、合法的な代替策の検討を進める |
給料ファクタリング利用発覚時の対応
従業員がすでに給料ファクタリングを利用していたことが分かった場合、企業として大切なのは「頭ごなしに叱責する」のではなく、「事実把握→リスク説明→相談先の紹介」というステップで落ち着いて対応することです。
金融庁や警視庁は、給与ファクタリングを貸金業法・出資法上の貸付けと評価し、貸金業登録のない業者はヤミ金融であると明確にしています。
利用者は、違法性や年利換算の負担を理解しないまま契約しているケースが多く、「楽になると思ったのに、逆に給料が足りない状態が続く」という状況に陥りがちです。
企業側の具体的な対応イメージは、次のようになります。
- まずは事実確認(利用金額・業者名・返済状況・取立ての有無)を行い、聞き取った内容をメモに残す
- 給与ファクタリングの仕組みと違法性(最高裁判決・金融庁の注意喚起)を説明し、継続利用は避けるべきことを伝える
- 会社として返済を肩代わりするのではなく、弁護士・法テラス・消費生活センター等への相談を勧める
- 勤務先への執ような連絡や恫喝など違法な取立てがある場合は、警察への相談も検討するよう案内する
- 「本人を責める」のではなく、「違法業者から本人を守る」という姿勢で対話する
- 会社が直接介入して交渉や返済を引き受けるのではなく、専門家・公的機関につなぐ役割に徹する
- 再発防止のため、本人と一緒に家計や働き方を見直す機会(希望があれば)を設ける
このように、企業は「第二の被害を防ぐゲート」として機能することが重要です。感情的にならず、事実と公的情報にもとづいて冷静にリスクを説明し、適切な相談先に橋渡しをすることが求められます。
社内相談窓口と外部機関の紹介
従業員が資金面で追い込まれる前に相談できる環境を整えておくことは、企業にとっても大きなリスク低減策になります。
社内では、人事・総務・産業保健スタッフのほか、外部EAP(従業員支援プログラム)やカウンセラーとの連携を整え、「お金の話を含めて相談してよい窓口」であることを明示しておくと、従業員が一人で抱え込まずに済みます。
ただし、社内窓口だけでは対応しきれない法的・生活支援の課題も多いため、外部機関の情報もセットで提供することが望ましいです。
例えば、生活に困った個人向けには、各自治体の「生活困窮者自立支援制度」の自立相談支援機関や社会福祉協議会が窓口となり、家計相談や生活福祉資金の貸付などを案内しています。
法律的な問題については、弁護士会の法律相談や、日本司法支援センター(法テラス)を紹介することができます。
- 社内:人事・総務、産業医・保健師、EAPカウンセラーなど
- 公的:生活困窮者自立支援窓口、社会福祉協議会、消費生活センター
- 法律:弁護士会の法律相談、法テラス(収入要件に応じた無料相談・立替制度等)
- 社内窓口:まずここに相談すれば、外部も含めて適切な先につないでもらえる「ハブ」を一つ決めておく
- 外部窓口リスト:自治体・社協・法テラス・弁護士会・消費生活センター等を一覧にして社内ポータル等で共有
- 周知方法:入社時オリエンテーション・社内研修・社内報などで、相談してよいことを繰り返し伝える
このように、社内と社外の相談先を「セット」で整備しておくことで、従業員が深刻化する前に助けを求めやすい環境をつくることができます。
長期的な生活・資金教育のポイント
給料ファクタリングを利用してしまう背景には、「お金の基礎知識がない」「家計を見直す機会がなかった」「身近に相談相手がいない」といった、長期的な課題がある場合が少なくありません。
企業として倒産リスクや不祥事リスクを下げるためには、単発の対応だけでなく、「従業員の金融リテラシーを底上げする」取り組みも有効です。
具体的には、①基本的な家計管理(固定費・変動費の見える化、貯蓄の目安)、②借入れやローンの仕組み(年利・総返済額の考え方、延滞時の影響)、③危険なサービスの見分け方(給与ファクタリング・後払い現金化など)をテーマにした簡易セミナーや社内資料を用意する方法があります。
金融庁や日本証券業協会なども、生活者向けの金融教育コンテンツを提供しており、これらを参考に自社向けにアレンジすることもできます。
- 年1回程度、「ライフプランと家計の基礎」「危ないお金のサービスの見分け方」といった社内セミナーを実施する
- 社内ポータルに「お金に困ったときの安全な相談先・制度」のまとめページを作り、いつでも見られるようにする
- 管理職向けに、「部下からお金の相談を受けたときの聞き方・どこに繋げるか」を学ぶ研修を行う
このような長期的な取り組みは、従業員一人ひとりの生活の安定につながるだけでなく、結果的に企業の生産性向上や離職率低下、コンプライアンスリスク低減にもつながります。
給料ファクタリング問題は「個人の問題」に見えますが、「企業としてどう支えるか」という視点を持つことで、組織全体の健全性を高める機会にもなり得ます。
まとめ
ファクタリングと給料前払いは、表面上は似ていても、法的な位置付けやリスクは大きく異なります。特に、給料ファクタリングの中には高額手数料・違法な貸付と判断された事例もあり、安易に利用すると生活再建が難しくなるおそれがあります。
一方で、企業が導入する前払い制度や公的融資・生活支援制度など、より安全性の高い選択肢も存在します。
個人としては「仕組みとリスクを理解したうえで選ぶこと」、企業としては「従業員から相談があったときに、危険なサービスを避けさせ、必要に応じて公的機関や専門家につなぐこと」が重要な行動のポイントになります。



















