「差し押さえ中でもファクタリングは使えるのか」「税金や社保の滞納がある状態で申し込んでよいのか」と不安を抱える経営者は少なくありません。本記事では、差し押さえの法的な位置づけと、売掛金ファクタリングの利用可否・リスクを整理します。資金繰り対応や税務署・自治体との交渉の考え方もあわせて解説し、事業継続のためにとり得る現実的な選択肢を確認できます。
差し押さえ中の法的状況と影響
差し押さえ中とは、税金や社会保険料、銀行借入などの支払いが滞り、債権者が法律に基づき債務者の財産処分を制限している状態を指します。
ここでいう差し押さえ(債務者の財産を処分できないようにする強制手続)は、国税徴収法に基づく滞納処分や、民事執行法に基づく強制執行として行われ、預金や売掛金、不動産などが対象になります。
仮差押えは後述しますが、本格的な差押えの前段階として財産を一時的に凍結する保全手続であり、将来の強制執行を確実にする目的で利用されます。
事業者にとっては、金融機関口座の差押えによる入出金の制限や、売掛金への差押えによる入金遅延により、運転資金の確保が難しくなり、仕入れや給与、家賃などの支払いに直接影響が及びます。
一方で、滞納者保護の観点から、国税徴収法には超過差押えや無益な差押えの禁止、差押禁止財産(生活に必要な一定の財産)に関する規定が設けられており、全ての財産が無制限に差し押さえられるわけではありません。
ただし、どの財産が差押えの対象となり得るか、どの範囲が保護されるかは制度ごとに異なるため、「事業用だから安全」「個人口座だから安全」といった一律の判断はできません。
ファクタリングを検討する際には、自社の差押えの種類(税金・社保か、民間債権か)と、対象財産の範囲を整理しておくことが、利用可否を検討する前提となります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 差押え | 債務が確定した後に行う強制執行・滞納処分。対象財産を換価して回収まで進める手続。 |
| 仮差押え | 本格的な差押え前に財産を一時凍結し、将来の強制執行を確保するための保全手続。 |
| 滞納処分 | 税金・社会保険料の滞納に対し、税務署や日本年金機構などが行う差押え・換価の一連の手続。 |
差し押さえと仮差押えの基礎
差し押さえと仮差押えはいずれも、債務者の財産処分を制限する手続ですが、目的とタイミングが異なります。
差し押さえは、判決や和解調書などの債務名義、または国税・地方税の滞納処分など、債務が確定した段階で行われる強制執行手続であり、対象財産を換価(売却)して債権回収まで進めることを前提とします。
一方、仮差押え(本格的な差押えを行うまでの間に財産を仮に拘束する保全手続)は、債務の存在や金額について最終的な判断が出ていない段階でも申し立てが可能で、将来の強制執行を確実にする目的で利用されます。
中小企業の実務では、税金・社会保険料滞納による差押えのほか、取引先との紛争から売掛金や預金が仮差押えされることもあります。
いずれの場合も、差押え・仮差押えがなされた財産は、原則として自由な処分ができなくなるため、ファクタリングで売掛金を譲渡できるかどうかは、差押えの時期や対象、債権の範囲を個別に確認する必要があります。
また、仮差押えは本案訴訟の結果により取り消される可能性もあるため、訴訟の見通しや和解の方針も含めて、顧問税理士や弁護士と連携して対応方針を整えることが重要です。
- 差押えは債務確定後に行う強制執行手続
- 仮差押えは将来の強制執行を確保するための保全手続
- 効力発生の時期と対象財産を把握することが実務上の前提
差し押さえ対象財産の具体例
差し押さえの対象となる財産は、現金や預金だけではなく、事業者が保有するさまざまな資産に及びます。
税金や社会保険料の滞納処分では、金融機関の預金、不動産、売掛金、機械設備、車両、在庫商品、生命保険の解約返戻金などが差押えの対象とされます。
また、一定範囲を超える給与や賞与など個人の収入も差押えの対象となりますが、生活維持に必要とされる部分には差押禁止財産のルールがあり、全額が差し押さえられるわけではありません。
一方、民間金融機関や取引先による強制執行では、判決や債務名義に基づき、預金や売掛金、不動産などに差押えが行われます。
事業用資産であっても、法律上の要件を満たせば対象となるため、「事業に必要だから守られる」という理解は誤りです。
税務署や年金機構など徴収担当者は、換価性や処分のしやすさを考慮して対象財産を選定するとされており、資産ごとのリスクを把握しておくことが、資金繰り悪化時の備えとして重要です。
| 財産の種類 | 具体例・差押え時のポイント |
|---|---|
| 預金・現金 | 銀行預金、ゆうちょ口座など。口座差押えにより事業の入出金が制限される。 |
| 売掛金・取引債権 | 取引先への請求権。差押えが入ると入金が差押債権者に回収され、運転資金に直結する。 |
| 不動産・動産 | 事務所・倉庫、土地、車両、機械設備、在庫など。公売・競売により換価される場合がある。 |
| 保険・給与等 | 生命保険の解約返戻金、一定額を超える給与・賞与など。法律で定める範囲で差押え対象。 |
- 事業口座の預金や売掛金など運転資金に直結する財産
- 主要な機械設備や車両など事業継続に必要な資産
- 経営者個人の給与・賞与の一部(生活費確保の範囲を除く)
税金・社保滞納による差押え
税金や社会保険料の滞納は、公的機関による差押えにつながる代表的な原因です。
国税や地方税では、納期限後も納付がない場合に督促が行われ、それでも支払いがなければ、財産調査を行ったうえで預金や売掛金、不動産などの滞納処分(差押え・換価)が実施されます。
厚生年金保険料などについても、日本年金機構が督促と財産調査を行い、必要に応じて差押えに踏み切る仕組みが整えられています。
税金・社保の滞納による差押えは、民間債権に比べて優先的に回収が図られることが多く、事業の売上が入金される口座や売掛金に差押えが入ると、資金繰りに直結する資産が拘束される点が特徴です。
もっとも、国税通則法等には「納税の猶予」や「換価の猶予」といった制度があり、一時に納付することが困難な事情がある場合には、条件を満たせば差押えや換価の猶予が認められることもあります。
支払いが難しいと感じた段階で、早期に税務署・年金事務所へ相談し、分納計画や猶予制度の活用可能性を確認しておくことが、差押えの発生や拡大を抑えるうえで重要です。
- 督促状や催告書が届いた段階で放置せずに連絡する
- 一時に納付できない場合は分納・猶予制度の利用可否を確認する
- 差押えの対象財産と影響を把握し、資金繰り計画を見直す
差し押さえ中とファクタリング利用可否
ファクタリングとは、売掛金(請求書)をファクタリング会社に譲渡し、手数料を差し引いた現金を早期に受け取る資金調達方法をいいます。
売掛債権の譲渡自体は民法や「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」で仕組みが定められており、法人が行う債権譲渡については、確定日付のある通知・承諾や債権譲渡登記によって第三者に対抗できるとされています。
一方、国税や地方税などが滞納されている場合、国税徴収法に基づき売掛金自体が差し押さえの対象となり得ます。
債権差押えは、差押通知書が取引先(第三債務者)に送達された時点で効力を生じるとされ、債権譲渡通知との先後関係によって、どちらが優先するかが決まります。
このため、「差し押さえ中でも必ずファクタリングが使える」「差し押さえになったら一律に使えない」といった単純な整理はできません。
一般的には、①売掛金自体が差し押さえられていないか、②債権譲渡の対抗要件が差押えより前に備わっているか、③税金・社保滞納の状況や今後の納付計画がどの程度整理されているか、などを総合的に見てファクタリング会社が審査を行います。
税金滞納中でも融資やファクタリングの利用自体は可能とする解説もありますが、審査は通常より厳格になりやすいと考えられます。
| 状態 | ファクタリング利用可否の傾向 |
|---|---|
| 滞納はあるが差押え前 | 売掛先の信用力が高く、今後の納付計画が明確であれば、利用を検討できるケースがある。 |
| 一部資産のみ差押え | 売掛金以外(不動産・車両など)が差押え対象で、対象売掛金に差押えが及んでいない場合は、審査対象となることがある。 |
| 売掛金に差押えあり | 当該売掛金については原則としてファクタリング利用が難しく、他の債権や手段の検討が必要となる。 |
売掛金と差押えの優先順位の関係
売掛金をファクタリングで譲渡する場合、「債権を誰が優先的に回収できるか」という点が重要になります。
法人の売掛債権の譲渡は、確定日付のある証書による債務者(取引先)への通知、または確定日付のある債務者の承諾、もしくは債権譲渡登記によって第三者に対抗できるとされています。
一方、国税徴収法に基づく滞納処分としての債権差押えは、債権差押通知書が第三債務者に送達された時に効力が生じるとされており、国税庁の通達でも、確定日付のある債権譲渡通知または承諾が到達した時刻と、債権差押通知が到達した時刻の先後によって優劣が決まると整理されています。
実務的には、①ファクタリング契約の締結だけではなく、譲渡通知・承諾や譲渡登記などの対抗要件がいつ備わったか、②税務署や他の債権者からの差押通知が取引先にいつ届いたか、の時間関係がポイントになります。
対抗要件が差押えより先に備わっていれば、原則としてファクタリング会社が優先して回収できる一方、差押えが先であれば、当該売掛金については債権者側の回収が優先される構図です。
このため、差押えリスクがある局面でのファクタリングでは、契約日だけでなく通知・登記の日付を含めた時系列を整理し、二重譲渡や二重払いのトラブルを防ぐ体制が必要となります。
- 債権譲渡の対抗要件(通知・承諾・登記)が備わった日時
- 税務署や債権者からの債権差押通知が到達した日時
- 同一売掛金に複数の譲渡や差押えが重なっていないかどうか
差し押さえ中でも利用しやすい事例
差し押さえ中であっても、売掛金そのものに差押えが及んでいない場合や、差押え対象外の売掛金を選別できる場合には、ファクタリングが検討されるケースがあります。
ファクタリングは、売掛先の信用力と債権の確実性を重視するスキームであり、利用者自身の信用状態が厳しい場合でも、売掛先が大企業や官公庁などであれば審査が通る事例も見られます。
例えば、①税金滞納により経営者個人の預金や一部不動産が差し押さえられているが、法人名義の主要な売掛金には差押えが入っていないケース、②税務署と分納計画を締結し、追加の差押えが行われていない状況で、入金確度の高い売掛金のみを対象にファクタリングを利用するケース、③過去の延滞歴はあるが、現在は返済や納付が継続しており、直近の取引実績が安定しているケースなどです。
また、「税金滞納中でも融資やファクタリングを利用できる」と明記する解説もあり、滞納の有無が一律の排除条件ではないことがうかがえます。
ただし、どのような条件を重視するかはファクタリング会社ごとに異なり、滞納額や差押えの範囲、売掛先の属性などを組み合わせて判断されます。
- 差押え対象が不動産や車両などで、主要な売掛金に差押えが及んでいない
- 税務署・自治体と分納計画を締結し、今後の納付方針が明確になっている
- 売掛先が上場企業・大手企業・官公庁などで、支払遅延のリスクが低い
利用困難ケースと他の資金調達策
一方で、差し押さえ中であってもファクタリングの利用が難しいケースも少なくありません。
代表的なのは、①対象とする売掛金自体にすでに差押えが入っている場合、②同一売掛金について過去に複数回の譲渡や担保設定が行われており、権利関係が複雑になっている場合、③税金・社保の滞納額が大きく、今後も追加の差押えが見込まれる場合などです。
また、取引基本契約に「債権譲渡禁止特約」が明記されている場合や、売掛先との取引が慢性的に遅延している場合も、回収リスクの観点からファクタリング会社が消極的になる傾向があります。
国税の差押えや交付要求は、他の債権より優先して配当を受ける仕組みが設けられており、租税債権と債権譲渡が競合する場合の優劣は、民法と個別法のルールに従って厳格に判断されます。
こうした事情から、「すでに差押え・仮差押えが重なっている売掛金を、後からファクタリングで現金化する」ことは、現実的には困難であることが多いと考えられます。
その場合は、日本政策金融公庫や信用保証協会付き融資といった公的融資、補助金・助成金の活用、不要資産の売却、場合によっては専門家と連携した債務整理など、他の手段を含めて検討する必要があります。
- 売掛金そのものに差押え・仮差押えが設定されている
- 多額の税金・社保滞納があり、追加の差押えが見込まれる
- 複数の金融機関や業者からの債務が整理できていない
- 差押えが重なっている場合は、ファクタリング単独では解決できないことが多い
- 公的融資制度・補助金・専門家による債務整理なども含め、選択肢を比較検討することが重要
中小企業経営者の資金繰り対応
差し押さえが視野に入る、またはすでに一部差し押さえが行われている中小企業では、「いつ・いくら資金が入出金されるのか」を時系列で把握し、支払いの優先度を整理することが重要です。
資金繰り表(一定期間の入金・出金予定を一覧にした表)は、将来の資金不足を予測するための基本的なツールとして、中小企業向けの公的資料でも活用が推奨されています。
まず、売上入金・借入金の返済・税金や社会保険料・給与・仕入れ・家賃など主要な項目ごとに、今後数か月分の入出金予定を一覧化します。
そのうえで、①事業継続に不可欠な支払い(給与、主要仕入れなど)、②法令に基づく支払い(税金・社会保険料など)、③返済・その他経費、といった観点で優先順位を整理し、足りない期間については納税猶予制度やファクタリング、公的融資などの活用可能性を検討していきます。
また、資金繰り表は一度作成して終わりではなく、実際の入出金結果を反映しながら更新することで、税務署や金融機関との協議資料としても活用できます。
客観的な数字に基づいて説明できるかどうかは、納税相談や追加融資の場面でも重要な確認ポイントとされています。
| 対応の軸 | 内容 |
|---|---|
| 現状把握 | 資金繰り表で向こう数か月の入出金予定を整理し、いつ資金不足が発生するかを確認する。 |
| 優先度整理 | 給与・税金・社保・主要仕入れ・返済などをグループ分けし、事業継続と法令順守の観点から優先度を検討する。 |
| 外部との協議 | 税務署・自治体・年金事務所や金融機関と相談し、分納・猶予・追加融資等の可能性を資金繰り表に基づき検討する。 |
税務署・自治体との納税交渉ポイント
国税については、国税通則法に基づき「納税の猶予」や「換価の猶予」といった制度が設けられており、一時に納付すると事業継続が困難になる場合など、一定の要件を満たすときには、申請により分割納付や換価の猶予が認められる仕組みがあります。
地方税についても、多くの自治体で「徴収猶予」や「換価の猶予」が整備されており、納税が困難になった納税者に対し、申請に基づき期限の延長や分割納付を認める運用が行われています。
厚生年金保険料等についても、要件を満たせば換価の猶予・納付の猶予が利用でき、申請により分割納付や一定期間の猶予を受けられる場合があります。
納税交渉の場面では、主観的な事情だけでなく、客観的な数字を示すことが重視されます。具体的には、
【重要ポイント】
- 向こう1年程度の資金繰り表と、過去の試算表・決算書などを準備する
- なぜ一時に納付できないのか(売上減少・災害・取引先倒産など)の事実関係を整理する
- 無理のない分割額と期間を自社の資金繰り表に基づいて提示する
といった点が、制度利用の可否を検討してもらううえで重要になります。
- 督促状や催告書を放置せず、早めに所轄の窓口へ連絡する
- 資金繰り表や決算書など客観資料を用意して説明できるようにする
- 合意した分納額は確実に履行し、状況が変わった場合は早期に再相談する
なお、具体的な認定要件や必要書類は税目や自治体によって異なるため、実際の利用にあたっては所轄の税務署・自治体・年金事務所での確認が必要です。
給与・仕入れ支払い優先度
資金繰りが厳しい局面でも、従業員の給与はできる限り優先して支払う必要があります。
労働基準法第24条では、賃金は通貨で、直接労働者に、その全額を、毎月1回以上、一定期日を定めて支払わなければならないと定められており、既に働いた分の賃金は当然に支払うべきものとされています。
給与の未払いが続くと、労働基準監督署への申告や離職につながりやすく、人材確保や事業継続に大きな影響が出ます。
そのため、多くの中小企業では、資金繰りが逼迫した際も「給与の確保」を最優先のテーマとして検討する傾向があります。
仕入れについては、事業継続に不可欠な取引先と、代替可能な取引先を分けて考えることが実務上のポイントです。
主要な原材料・商品を供給する取引先への支払いが止まると、売上自体が失われる可能性がある一方で、スポット取引や代替先が多い仕入れについては、交渉の余地がある場合もあります。
資金繰り表をもとに、「遅延すると事業停止リスクが高い支払い」と「条件変更や分割が相談しやすい支払い」を整理することが重要です。
| 支払項目 | 資金繰り上の位置付けの一例 |
|---|---|
| 給与 | 法令上の保護が厚く、人材確保と士気維持の観点から最優先での確保を検討する項目。 |
| 税金・社保 | 猶予制度や分納の余地を確認しつつ、延滞金や差押えリスクを踏まえて計画的に対応する項目。 |
| 主要仕入れ | 売上創出に直結する取引先への支払い。取引継続を重視しつつ、条件変更の可否を個別に確認する。 |
| その他経費 | 広告宣伝費など、短期的には削減・延期の余地がある支出。必要性と効果を再点検する。 |
- 給与は法令上の保護と事業継続の観点から優先度が高い
- 仕入れは「事業継続に不可欠な取引先」とそれ以外に分けて考える
- 各支払いについて、猶予・分割・条件変更など交渉余地の有無を個別に確認する
最終的な優先度設定は、業種や事業モデル、契約内容によって異なるため、必要に応じて専門家に相談しつつ検討することが望ましいとされています。
既存借入とファクタリング併用判断
既存の銀行借入とファクタリングを併用する場合は、「資金繰り改善につながるかどうか」と同時に、「既存借入の条件との関係」を確認することが重要です。
ファクタリングは、売掛金を譲渡して資金化する取引であり、新たな借入金を増やさずに資金を確保できる点が特徴とされていますが、短期的な資金補填にとどまり、根本的な収益改善や固定費削減が伴わない場合には、将来の資金繰りを一層圧迫するおそれもあります。
また、金融機関との金銭消費貸借契約や当座貸越契約には、債権譲渡や担保提供に関する条項が含まれていることが多く、売掛金を第三者に譲渡する場合には、契約上の制限や、金融機関との関係に与える影響を確認する必要があります。
取引先との基本契約に「債権譲渡禁止特約」がある場合も同様です。
併用判断の際には、
- ファクタリング利用後も、既存借入の元利金支払を継続できるか
- 売掛金の譲渡により、担保余力や金融機関の評価に影響が出ないか
- 一時的な資金不足なのか、構造的な赤字なのか
といった観点から、短期・中長期の資金繰りへの影響を検討することが求められます。
- 借入契約や取引基本契約に、売掛金譲渡に関する制限がないか確認する
- ファクタリング手数料を含めた実質コストと、資金繰り改善効果を数値で比較する
- 一時的なズレ補填なのか、構造要因なのかを切り分け、必要に応じて金融機関・専門家と相談する
このように、既存借入とファクタリングの併用は、適切に設計すれば資金繰りの平準化に役立ちますが、契約条件や将来の返済負担を踏まえた慎重な判断が必要とされています。
契約方式別ファクタリングリスク
ファクタリングの契約方式には、大きく分けて「2社間ファクタリング」と「3社間ファクタリング」があります。
いずれも売掛債権を譲渡して資金化する仕組みですが、誰に通知するか・誰が回収するか・どのタイミングで第三者に対抗できるかが異なり、差押えリスクや取引先との関係に与える影響も変わります。
一般的な解説では、2社間は取引先に知られずに資金調達しやすい一方で手数料が高め、3社間は取引先の承諾を得る代わりに手数料を抑えやすいとされています。
また、法人が行う売掛債権の譲渡については、確定日付のある通知・承諾や債権譲渡登記により第三者対抗要件を備える必要があるとされており、どの方式を選ぶかによって、後から税金の差押えや他の債権者の差押えと競合したときの優先順位にも影響します。
中小企業の経営者が差し押さえリスクを意識してファクタリングを利用する場合は、「誰に・いつ・どのような形で債権譲渡の事実を明らかにするのか」「自社の資金繰りと取引先との関係、将来の税務リスクをどうバランスさせるか」を整理したうえで、契約方式を選択することが重要になります。
| 項目 | 2社間ファクタリング | 3社間ファクタリング |
|---|---|---|
| 取引先への通知 | 原則として通知せずに契約(登記等で対抗要件を備えるケースあり)。 | 取引先に通知・承諾を得て、取引先からファクタリング会社へ直接支払い。 |
| 手数料水準 | リスクや事務負担を反映し、3社間より高くなる傾向。 | 取引先が直接支払うため、2社間より低く抑えやすい傾向。 |
| 差押えとの関係 | 登記や通知のタイミング次第で、後発の差押えと優先順位が競合する可能性。 | 通知・承諾や登記により、第三者への対抗関係を明確化しやすい。 |
2社間ファクタリングと差押えリスク
2社間ファクタリングは、利用者とファクタリング会社だけで契約を締結し、取引先に対しては債権譲渡の通知を行わない形態が一般的です。
取引先に知られずに資金調達できることが特徴とされますが、第三者対抗要件をどのように備えるかが重要なポイントになります。
法人の金銭債権譲渡については、債権譲渡登記所への債権譲渡登記によって、債務者以外の第三者に対して権利を主張できるとされており、登記を行わずに取引先にも通知していない場合、後から税務署などが同じ売掛金を差し押さえたときに、対抗関係が問題となる可能性があります。
また、2社間では入金が一旦自社口座に入り、その後ファクタリング会社へ送金する実務が多く見られます。
この場合、事業用口座が差押え対象となっていると、取引先からの入金が差押えにより留保され、ファクタリング会社への支払いが滞るリスクがあります。
金融庁の注意喚起でも、形式上は債権譲渡契約であっても、実態として高金利の貸付と評価される取引が存在すると指摘されており、売主側に買い戻し義務や事実上の返済義務が課されている場合には、貸金業法上の問題も生じ得ます。
差押えが懸念される局面で2社間を利用する際には、登記の有無や契約上の償還義務の扱い、入金経路と口座差押えリスクの関係を整理したうえで、手数料水準だけでなく法的リスクも含めて判断することが求められます。
- 登記や通知のタイミングによっては、後発の差押えと優先順位が競合する可能性
- 事業口座が差押え対象の場合、売掛金入金が拘束されファクタリング会社への支払いが滞るおそれ
- 買戻し義務や実質的な返済義務が強い契約は、高金利の貸付と評価されるリスク
3社間ファクタリングと登記の役割
3社間ファクタリングは、利用者・ファクタリング会社・取引先の三者で契約・合意を行い、取引先が売掛金の支払先をファクタリング会社に切り替える仕組みです。
取引先に対して債権譲渡の通知・承諾を行うため、売掛金の支払先が明確になり、一般に2社間より手数料を抑えやすいとされています。
さらに、法人の金銭債権譲渡については、債権譲渡登記を行うことで、債務者以外の第三者に対して自らの権利を主張できる制度が整備されています。
登記や確定日付のある通知・承諾により第三者対抗要件を備えておくことで、後から税務署や他の債権者が同じ売掛金を差し押さえた場合でも、対抗関係を整理しやすくなるというメリットがあります。
もっとも、登記には登録免許税や専門家報酬などのコストがかかり、申請事務も発生します。
また、取引先から見ると、「債権譲渡登記がされている=資金繰りが厳しいのではないか」という印象を持たれる可能性があり、取引条件の見直しや与信管理に影響することも考えられます。
オリコなどの解説でも、取引先への配慮や契約条項(譲渡制限特約など)を確認しながら、登記の要否やタイミングを検討する必要性が指摘されています。
- 通知・承諾や登記により、売掛金の支払先と権利関係を明確化しやすい
- 差押えや二重譲渡が問題になった際、第三者対抗要件の有無を示しやすい
- 一方で、登記コストや取引先への心理的影響を踏まえた運用設計が必要
悪質・違法ファクタリングへの警戒点
近年、金融庁や消費者庁、国民生活センターなどは、ファクタリングを名乗る取引のなかに、実態としては高金利の貸付にあたる「偽装ファクタリング」やヤミ金融が含まれていると注意喚起しています。
金融庁の情報では、売掛債権の譲渡という形式をとりながらも、売主に買戻し義務や実質的な返済義務を負わせている取引は、貸金業に該当するおそれがあり、貸金業登録や金利規制を無視した違法行為となる可能性があるとされています。
また、個人向けの「給与ファクタリング」については、消費者庁や国民生活センターが、賃金債権の買取を装いつつ、実態としては年利換算で数百%に及ぶ高金利の貸付となっている事例を多数報告しており、貸金業に該当する業務を無登録で行うヤミ金融として問題視されています。
事業者向けファクタリングでも、手数料を年率換算すると法定上限を大きく超える水準であったり、契約内容を十分に説明しないまま高額な違約金条項を設けたりするケースが報告されています。
公的な注意喚起では、債権額に比べて著しく低額の買取代金しか支払われない取引や、利用者に対して強引な取立てを行う業者に対して、特に警戒するよう呼びかけています。
- 債権額に比べて買取代金が極端に低く、年率換算で著しく高い実質負担となっている
- 売掛先の不払いリスクをほとんど業者が負わず、実質的に利用者が返済義務を負う契約内容
- 貸金業登録の有無や手数料の内訳、違約金・遅延損害金の条件などについて説明が不十分
- SNS等での勧誘のみで契約を急がせ、契約書や重要事項説明書の交付が曖昧
ファクタリングは本来、売掛金の売買契約として設計されるべきものであり、売掛先の倒産リスクをファクタリング会社が負担する「ノンリコース型」が原則と説明されています。
利用者としては、「手数料水準」「契約書の内容」「業者の登録状況」などを客観的に確認し、少しでも不明点や不安があれば、金融庁や消費生活センターの情報、専門家の助言を踏まえて慎重に判断することが重要です。
差し押さえ回避と再発防止の基本策
差し押さえを避ける、または一度発生した差し押さえを再発させないためには、「急場しのぎの資金調達」だけでなく、日常的な資金繰り管理と債務整理の方針づくりが重要です。
国や自治体の中小企業向け資料でも、資金繰り表を用いた将来予測と早期の金融機関・税務署への相談が基本とされています。
資金繰りが悪化した場合、税金・社会保険料・借入返済・仕入れなどの支払いを、法令遵守と事業継続の観点から優先順位づけし、必要に応じて納税猶予・条件変更・ファクタリングなどを組み合わせる検討が求められます。
さらに、売掛金管理の不備や、短期資金の過度な外部依存が続くと、同じような資金ショートが繰り返されるおそれがあります。
売上計画と固定費の水準を見直し、採算の合わない取引・コストを特定して是正することも、差し押さえ再発防止の一環です。
| 視点 | 差し押さえ回避・再発防止の主なテーマ |
|---|---|
| 短期 | 資金繰り表の作成、納税猶予・分納の活用、ファクタリングや追加融資による資金ショート回避。 |
| 中期 | 売掛金管理・在庫管理の見直し、固定費削減、収益性が低い取引の整理。 |
| 長期 | 収益構造の改善、借入構成の適正化、専門家との継続的な相談体制の構築。 |
資金繰り表作成と早期対策
資金繰り表は、一定期間の「現金の入金予定」と「出金予定」を一覧にしたもので、中小企業庁や金融機関の手引きでも、事業再生や追加融資の前提資料として位置づけられています。
資金の動きを月単位・週単位で整理することで、いつ資金不足が発生するかを事前に把握し、差し押さえにつながりかねない滞納を未然に防ぐことができます。
作成の基本は、①期首残高(手持ち現預金)、②売上入金・借入実行などの入金、③仕入れ・人件費・家賃・税金・返済などの出金を、できるだけ具体的な金額と期日で埋めていくことです。
資金不足が見込まれる月があれば、その前倒しで、税務署・自治体・金融機関への相談、ファクタリングの検討、コスト削減策の実行などを行い、「手当て済みの赤字」とすることが重要です。
- 向こう6か月〜1年程度の入出金予定を一覧化する
- 資金不足が生じる時期と不足額を事前に把握する
- 不足が見込まれる前に、納税猶予・金融機関・ファクタリング等の対策を検討する
- 実績値で定期的に見直し、最新の資金繰りを把握する
このように、資金繰り表は単なる帳票ではなく、「差し押さえを避けるための早期警報装置」として機能します。
経営者自身が数字の意味を理解し、毎月の更新を習慣化することが、再発防止の最も基本的な対策となります。
売掛金管理強化と二重譲渡防止策
差し押さえリスクが高い企業ほど、売掛金管理の重要性は増します。売掛金は、ファクタリングや担保提供といった資金調達の「材料」であると同時に、税金・社会保険料の滞納処分や他の債権者の差押え対象にもなり得るからです。
売掛金の管理が甘いと、入金遅延や回収不能が増えるだけでなく、同一の売掛金について複数の譲渡や差押えが重なり、二重譲渡や二重払いなどのトラブルを招くおそれがあります。
売掛金管理の強化としては、取引先ごとの与信管理、締め日・支払サイトの明確化、請求漏れ防止のチェック体制、入金未確認の早期フォローなどが挙げられます。
ファクタリングを利用する場合は、どの売掛金を対象とするかを明確にし、債権譲渡通知・承諾や登記の有無と日付をきちんと記録しておくことが、二重譲渡防止につながります。
- 売掛金台帳を作成し、取引先別・請求書別に残高と入金状況を管理しているか
- 債権譲渡(ファクタリング・担保提供など)の対象債権と日付を一覧化しているか
- 同一売掛金について、複数のファクタリング会社や金融機関と契約していないか
- 税務署や他債権者からの差押通知が届いた場合、その対象債権を即時に照合しているか
こうした管理を徹底することで、差押え発生時の影響範囲を素早く把握でき、ファクタリング会社や金融機関との調整も円滑になります。
結果として、差し押さえの拡大や法的紛争に発展するリスクを抑える効果が期待できます。
専門家相談が必要となる判断基準
差し押さえが現実味を帯びてきた段階、あるいはすでに差押通知・督促状が届いている段階では、経営者だけで判断することが難しいケースも多くなります。
税金・社会保険料の滞納が膨らんでいる場合は、税理士や公認会計士に加え、必要に応じて弁護士や認定支援機関など、法務・財務に詳しい専門家への相談が推奨されます。
相談を検討すべき目安としては、例えば以下のような状況が挙げられます。
- 複数の税目や借入の滞納・延滞が重なり、全体の債務状況を把握できていない
- 売掛金や不動産などにすでに差押え・仮差押えが入り、事業継続に支障が出ている
- ファクタリング・追加融資・リスケジュールなど複数の手段をどう組み合わせるか判断がつかない
- 私的整理・法的整理(再生手続など)を視野に入れざるを得ないと感じている
専門家に相談する際には、資金繰り表、借入一覧、滞納税額と税目の内訳、主要取引先と売掛金残高の一覧などを準備しておくと、現状分析と選択肢の検討がスムーズになります。
相談の目的は、単に「当面の差し押さえを避ける」ことにとどまらず、中長期的に見て事業を継続できるか、どのような再建・整理の方法が現実的かを客観的に整理することです。早い段階で相談するほど、選択肢は多く残されるとされています。
まとめ
差し押さえ中でも、売掛金の内容や差押えの範囲によってはファクタリングを利用できる場合がありますが、税金・社保滞納があると審査が厳しくなることは避けられません。
まずは差押えの対象と優先順位を正しく把握し、税務署・自治体との交渉や資金繰り表の作成を通じて返済計画を整理することが重要です。
そのうえで契約方式別のリスクと悪質業者の特徴を理解し、必要に応じて専門家へ相談しながら、自社にとって無理のない資金調達手段を選択していきましょう。



















